第14話:四組目のお客さんたち
「ロールちゃん、金貨も魔石もしまおうね~」
『そんなに散らかしちゃ、盗ってくれって言ってるようなもんだニャ』
「うぅん……わかってるって~……」
ロールちゃんは相変わらず、金貨をウットリと眺める毎日だ。
今ではそこにレア魔石まで加わっているので、危なっかしくてしょうがない。
ネッちゃんと一緒に床下の隠し金庫へ収納する。
この光景もすっかりお馴染みとなってしまった。
「おい、面白そうな魚が釣れたぞ」
「あ、お帰りなさい。ほら、ロールちゃん、キャンデさんが帰ってきたよ」
「そうだねぇ~……」
貴重品を金庫にしまったところで、キャンデさんが釣りから戻ってきた。
彼女はクエストの合間に食材を採取してくれている。
主に肉や魚の狩りなど、私たちでは採取が難しい食材だ。
メニューのレパートリーも増えるし、大変に助かっていた。
わくわくした様子のキャンデさんから魚を受け取り、奥のキッチンへ運ぶ。
ロールちゃんもフラフラとついてきた。
まだ金貨とレア魔石の余韻が残っているようだ。
「レベッカ、こいつは美味そうな魚だと思うんだ」
「ええ、ちょうど今の時期が旬ですね。脂ものっているから、きっとおいしいですよ」
キャンデさんが釣ってきてくれたのは、数匹の大きな<暴れん坊サーモン>。
どんな激流でも遡ってしまう力がある魚だ。
凶暴なことで有名で、泳いでいる人間を欠片も残さず食べてしまう。
陸に上がっても、その獰猛性は衰えていないらしい。
ギロリ! と私たちを睨んでいた。
脂がのったその身には、危険な毒が宿っている。
なんと、食べたら肉体が腐り落ちてしまうのだ。
例のごとく、まずは毒消し。
「【毒消し】!」
<暴れん坊サーモン>は、ぱぁっ! と白い光に包まれ毒消し完了。
目つきからも凶暴性が消え去った。
早く食べて? と目で訴えている。
「今度はどんな料理になるか楽しみだ。私は甘い物の他に、特に魚料理が好きでな」
「魚料理がお好きだったんですか。てっきりお肉かと」
「いや、思い返せば肉も全部好きだった」
あれ以来、キャンデさんは私の料理を大層気に入ってくれたらしい。
朝ご飯に10時のおやつ、お昼ご飯に15時のおやつ、夕ご飯に夜食と、とにかくたくさん食べてらっしゃる。
作りがいがあり、まさしく料理人冥利に尽きるね。
『この人は見るからに肉食系ニャね』
キャンデさんはネッちゃんを見ると、訝しに呟いた。
「おい、ネッ! つまみ食いするんじゃないぞ。ネコは魚が大好物だからな」
『失敬ニャ! そんなことするわけないニャ! そして、ネッちゃんはネコじゃなくて猫妖精ニャの!』
「何も変わらんだろ」
『それと、ネッちゃんの名前はネッちゃんニャ! ネッ! じゃないのニャ!』
キャンデさんは、ネッちゃんのことをネッ! って呼ぶ。
何でも、“ちゃん”は敬称だから本名は“ネッ”の部分らしい。
しかし、ネッちゃんはそれが納得できないようで、二人は日々論争するのであった。
別に本人(猫?)が良ければどっちでも良いと思うけどな。
「魚以外にも色々と調達してきたぞ。一緒に調理してくれ」
キャンデさんは迫りくるネッちゃんを軽くあしらいつつ、鞄からいくつか食材を出してくれた。
まずは紫色の小ガニが二十匹くらい。
懐かしさにテンションが上がる。
「こ、これは、<サワーガニ>じゃないですかっ」
「うろついていたから捕まえといた。近くの沢が棲み処のようだ」
「なんとまぁ」
こいつは<サワーガニ>。
沢の近くに生息する蟹で、小さいくせに強い毒がある。
食べたら三日くらい高熱で寝込むほどね。
その代わり、身が凝縮されていて結構おいしいのだ。
毒消し!
「川を探っていたらエビもいたぞ。どんな味だろうな」
「ビ、ビ、<ビリビリエビ>~!?」
さらに姿を現したのは薄らと黄色く光るエビ。
ざっと五十匹くらいはいた。
これはもう乱獲なんじゃ……。
<ビリビリエビ>はその名の通り、食べるとベロもお腹も一週間くらいビリビリしちゃう。
だがしかし、食材としては万能。
生でもから揚げでも美味しいのだ。
毒消し!
「いやぁ、キャンデさんのおかげでたくさん食材が集まりましたね」
「今日も美味い飯を作ってくれ」
さっそく下処理でも始めるか。
ナイフを握ろうとしたとき、キッチンに叫び声が轟いた。
「た、大変だよ、レベッカ!」
ロールちゃんだ。
ぼや~っと窓から外を見ていたけど、大慌てで駆け寄ってきた。
「どうしたの、ロールちゃん。そんなに慌てて」
「また変な人たちが来る!」
「変な人ってお客さんでしょ? ちょっと失礼すぎ……」
「見て!」
バンッ! と窓に叩きつけられた。
頬肉がせり上がって著しく視界が狭くなるけど、どうにか外の様子を見れた。
十数人の女性が静々とこちらへくる。
やけにスラリとしているな。
羨ましいぞ。
そして、皆さん耳が横の方にとんがっている。
「そ、そろそろ窓から離してほしいな。というより、あの人たちは……」
「どうしてこんなところに! ……そうか! 金貨とレア魔石を奪いにきたんだ!」
「違うと思うよ」
ロールちゃんは猛スピードで隠し金庫の元へ飛んでいく。
おかげで解放された。
『こんにちは~、お店ってやっていますか~?』
「はい、開店中でございます! どうぞお入りください!」
隠し金庫の上に荷物を置くロールちゃんをよそに、ガチャッと扉が開かれる。
“カフェ・アンチドート”の四組目のお客さんは、エルフの御一行だった。
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