第1話:外れスキル【毒消し】
「レベッカ・サンデイズ。お前は今日で追放とする。今までご苦労様だったな」
「え……!」
ここはフリーデン王国の地方にあるサンデイズ男爵家。
もう店じまいなので食堂を掃除していたら、お父様に突然言われた。
しかも、まさかの追放宣言。
なんでぇ!?
「さぁ、早く身支度してもらおうか」
「あの~、その前に理由を聞いてもよろしいでしょうか」
我が家で私は除け者扱いの日々だけど、さすがに理由くらいは聞きたい。
いくらなんでも、いきなり追放はちょっと……。
「ふむ、いいだろう。ワガマリア、来なさい」
お父様は右手を挙げ、カッ! と指パッチンする。
どうやらその仕草がカッコいいと思っているようで、事あるごとに指を鳴らすのだった。
ドアを開けて入ってきたのは、胃がもたれるくらいに派手な外見の少女。
「あら、お義姉様、こんにちは。ワガマリアでございます」
「知ってるわ」
彼女はワガマリア・サンデイズ、私の義妹。
とにかく目立つのが大好きで、ファッションに全勢力を注いでいる。
ギラン! としたティアラに、どヒールの靴。
極めつけは髪の右半分を紫、左半分をピンク色に染めた毒々しいツインテール。
一応貴族令嬢なのでもっと落ち着きましょうよ、といくら言ってもダメだった。
食堂の売り上げも、そのほとんどがワガマリアのおしゃれにドレインされている。
何度彼女を【毒消し】しようと思ったことか。
「ワガマリア、無能な娘にお前のスキルを教えてあげなさい」
「はい、お義父様」
二人は仲睦まじく手を取り合う。
ワガマリアが継母とともにやってきてから、我が家は彼女たちの支配下にあった。
死去した正妻(つまり、私の実母)と仲が悪かった父は、これ幸いと私の迫害を強化したのだ。
「14歳になったこの前の誕生日、あたくしのスキルを教会で見てもらいました。そしたらなんとぉ~……?」
ワガマリアは得意気なことがあると、毎回謎の溜めを作る。
この独特なテンポも地味に私の体力を削っていた。
「な、なんだったのかしら?」
「超レアスキル、【キュアヒール】でしたの!」
「強力な回復スキルを授かるなんて素晴らしい! さすがはワガマリアだ!」
わああ! と盛り上がる父と義妹。
話を聞いているだけで疲れるのはどうしてかしら。
「……良かったわね、そんな立派なスキルで」
「お義姉様の【毒消し】とは、マグマと天界ほどの違いがありますわ」
「これが格の違いというものだな」
うんうんと納得した様子の二人。
が、肝心の追放理由がよくわからん。
「いまいち追放の理由がよくわからないのですが……」
「【毒消し】などという外れスキルを授かったお前を置いておくのも、そろそろ限界というわけだ。男爵家の尊厳に関わる」
「お義姉様の存在意義はなくなりましたの。ですが、ご心配なく。サンデイズ家はあたくしが引き継いでまいります」
「はぁ……そうですか。しかし、食堂はどうするのでしょう」
我が家は男爵だけど、そんなの名前だけだ。
領地もないし資産もない。
何なら大きな商店の娘さんの方がお金持ちだろう。
だから、私は家で食堂を開いて家計を助けていた。
使う食堂は安く手に入る毒食材。
誰も買わないからね。
それを【毒消し】スキルで無毒化して料理するのが、サンデイズ食堂の定番メニューだった。
これが結構評判よく、辺境伯なんて大物まで来てくれたこともある。
実は、危険な毒を持つ食べ物ほど美味しいのだ。
「サンデイズ食堂は今日を持って閉店とする。よって、お前の居場所もなくなったというわけだ」
「閉店……!?」
「これからはワガマリアの花嫁修業で忙しくなるからな」
まさか閉店とは思わなかった。
お父様も思い切ったことをする。
「あたくしのスキルがあれば公爵様……いや、皇太子様とだってご結婚することができますわよ。ああ……あたくしはこれからどうなってしまうのでしょう!」
ワガマリアはテンション高いけど、そんな上手くいくものなのかな。
しかし、余計なことを言うと怒られるので黙っておく。
とはいえ、追放は決定っぽい。
潔く立ち去るか。
「では、荷物をまとめます」
狭い自室に行って身支度を整える。
ワガマリアにドレインされる前に確保した、わずかばかりのお金。
最低限の衣服。
作っておいたおやつ(非常食)。
ナイフなどの調理器具を少々。
そして……。
「ネッちゃんいる~?」
『いるニャ』
空中に向けて呼んでいると、ポンッ! と黒猫が現れた。
もふもふの黒い毛にキレイな金色の瞳。
この子は猫妖精のネッちゃん。
森で毒魔物に襲われたのを助けたら懐いてくれて、それ以来いつも一緒だ。
猫型の妖精だけど動物の猫ではないらしく、本人(猫?)はそこに強いこだわりを持っていた。
「実家追放されちゃったから一緒に出て行こう」
『え!? 追放ってどういうことニャ!』
「ワガマリアにレアスキルが出て……」
追放の件を伝える。
ネッちゃんは衝撃を持って聞いてくれた。
ちなみに、姿を消せる力があるようで、義妹たちはネッちゃんを知らない。
『うっうっ……ボクにもっと力があればレベッカを辛い目に遭わせなくて済んだのニャ……』
「ネッちゃんはそんなこと気にしなくていいんだよ。別にそこまでダメージもないし」
ネッちゃんは妖精の中でも力が弱いようで、私の迫害を止められないことをいつも嘆いてくれていた。
鞄の中に入ってもらい、お父様たちと最後の挨拶を交わす。
お義母様はまた洋服の仕立てに行ってるらしく不在だった。
「それではお父様、お世話になりました。家から出て行きます。さようなら」
「そうだな。二度と戻って来るんじゃないぞ」
「お義姉様、ちょっとお待ちください」
歩きだそうとしたらワガマリアに止められた。
笑っているけど、どこか不気味だ。
「なにかしら?」
「この紙がぁ~? 何かぁ? わかるでしょうかぁ~?」
また例のごとく溜めながら、一枚の紙片をペラペラしている。
「お、教えてちょうだい」
「これは“テトモモハ”行き馬車の無料チケットでございます」
「“テトモモハ”……」
別名、最果ての地。
その名の通り、ここからずっと東の方にある大辺境の土地だ。
これを使って遥か遠くまで行きやがれ、ってことか。
きっと、前から用意してたんだな。
「ありがとう、ワガマリア。ありがたくいただくわ」
「いえいえ」
意味深な笑みを浮かべている義妹からチケットを受け取る。
じゃあ今度こそ、と足を踏み出そうとしたら、大事なことを伝え忘れていたことに気づいた。
「次の満月の日、辺境伯閣下がいらっしゃるので閉店したと手紙を出してくださいね」
「「はいはい」」
「<ポイズンフグ>が冷凍保存されてますが猛毒なので、調理できないなら処分してくださいね」
「「わかった、わかった」」
本当にわかっているのかなぁ? と思ったけど、たぶん大丈夫だろう。
二人とも良い大人だし。
サンデイズ男爵家を後にする。
屋敷が見えなくなったところで、ネッちゃんが鞄から出てきた。
『これから大丈夫かニャぁ?』
「まぁ、見方を変えればちょうどいい旅行かもね。いざとなったら料理人として働けばいいし」
意外なことに私の心は軽かった。
思い返せば、ずっと働き詰めで旅なんてしたこともなかったし。
外の世界を見るのは結構楽しみだ。
街で“テトモモハ”行きの馬車を見つけて乗り込む。
片道10日くらいかな。
ゴトゴト揺られていると、ネッちゃんと一緒にいつの間にか寝てしまった。
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