妄想の帝国 その64 ユウシキシャ生討論番組作成法
テレビ番組スタッフのアリモンドが有識者討論の番組をどう作るかを先輩マツデンに相談したところ…
妄想の帝国 その64 ユウシキシャ生討論番組作成法
とあるニホン国の放送局のスタジオ
「ん、なんだよ、アリモンド、不安そうな顔して」
「どうしましょう、マツデン先輩、うちの番組でも有識者とかをだして、生討論とかさせようって話がでてるんですけど」
「ああ、その件か」
「うちって、ほら一応夜間の報道っぽい番組ってことになってるじゃないですか。実際は芸能人とかだして、適当に内外の出来事について喋らせてるだけですけど」
「まあ、それも、そんな難しいことはよくわかんないとかいう奴らには、こっちが台本渡してやってるんだけどな」
「本人たちの日頃のイメージを崩さないように工夫して、ですからね。だけど、やっぱりもう少し固い調子でやってほしいってことなんですけど」
「ああ、上の連中がまた好き勝手いってんのか。どうせマトモに討論番組とかやったら文句いうんだろうに」
「そうなんですよねえ。視聴者のほうも、まともに議論してたら、理解できないとか、そんな難しすぎるとか、面白くないとか」
「そのくせ、あんまりおバカにもみられたくないってんだよな。ゲイノー人が適当にいってるだけなんて教養がないとかさあ。じゃあ、そんなにアンタら教養とやらがあるんですかっての」
「だいたい、それならB〇CとかCN△のニュース番組とか、英語でみればいいのに。せめてナショ○○グラフィック日本版とか」
「英語はいやだとか、ちょっと難しいとかで嫌なんだろうよ。そのくせ、あんまりおバカにみられたくないってんだから」
「それで、どうしましょうか、有識者なんてどうみつければ。学者さんとかどうコンタクトすればいいんですか」
「うーん、このテーマだと、難しいよな、人選」
「なんというか、微妙ですよね。ちょっと調べてみたんですけど、いろいろな意見があるし。その、すごい論争になっちゃって、収拾がつかなくなりそうだし。そうすると司会の人とかもイケガカミさんとか、カネダイーラさんとかああいう有名なジャーナリストさんとか」
「そういう人がうちの局の番組に出演してくれなら、とっくにやってるだろうな」
「ですよねえ。他の番組ならともかく、うちのような番組で。わりとマイルド路線で、朝まで討論とか、激論ナンタラとかとはノリが違いますし、視聴者層も」
「第一、スポンサーやら、上やらがそういう本気の討論番組をやりたがらないだろうしなあ」
「ですよねえ。万が一、トリクルダウンはやはりなかったとか、国民のために今こそ消費税廃止とか、元総理の法律論はやはり間違い、基本的知識がなってないとかーとかやったら、例のINUHKのなんたら現代やアサヒヒテレビの新聞ステーションみたいに潰されたり、キャスターやスタッフが飛ばされたり、時間変更したり。僕、外されたくないですよー」
「うーん、片っ端から連絡するわけにもいかないが、それっぽいのをださなきゃならないとなると…作るしかないか、番組の趣旨にあって、スポンサーだの上から怒られないような“ユウシキシャ”を」
「え、先輩、そんなすごい人たちとのコネつくれるんですか!大学の同期とかですか、先輩が有名大学にいってたなんて、僕、知らなかったです、先輩のこと見直しました!それともお友達にそういう学者さんとの伝手があるとか、かつてそこで本を出したら孫子の代までお堅い有名出版社ガンナミ文庫にお勤めの知り合いがいるとか」
「おい、何言ってんだよ、ちがうよ。ま、俺は、私大じゃマシな大学は出たけどな、曲がりなりにもこの局に入れたんだから。でも、学者だのの知り合いはいないよ、第一、文系だし、法学部とかでもないし。コネをつくるんじゃない、“ユウシキシャ”を作るんだよ」
「えー!そ、そんな、学者さんを作れるんですか!で、でも博士号とかなんて、そんな簡単にとれるもんじゃ」
「本物の学者じゃなくても、テーマについてよく知っていそうに喋る、“ユウシキシャ”っぽくみえればいいんだろ」
「ええ!せ、専門家じゃなくっていいんですか!」
「それっぽい肩書をもってて、こっちの意向に沿うような主張してる奴に討論っぽくしゃべってもらうとかで、大丈夫だろう、たぶん」
「そんないい加減で、そのテーマの専門家集団とかから抗議とか、来たりしません?」
「学会の先生方はこの手の番組いちいちチェックはしねーだろうよ。だいたい、査読論文がロクにないっていうのが、私は専門家でなんでもしってますわ、って顔して平気でしゃべってるだろうが」
「ああ、あのヨツウラ・ハリさんですか。国際政治学って博士号どころか修士論文もみあたらないとかって。まあ、裏で結構呆れられてるみたいですけど」
「有名なエジプト学者さんだって博士号はないらしいしな。まあ、それでもコネ作って、発掘やってるんだから、まだマシだろうけどな。政治家さんとかのお仲間、太鼓持ちなら、多少怪しくても、いろいろ箔つけてもらって、それらしく出演させてもらえるわけだ」
「それって、正確な情報とか、知識とかなくてもいいんですかね。それにウイルス関連では専門家とか沢山出演していろいろ意見出してますけど」
「でもウイルス自体の専門家でも、感染対策の現場に携わっていない、医者って肩書で出てた奴もいるしな。第一、専門家でも最新の情報や現在の現場から離れてると頓珍漢なこと言ったりしてるんだよな。本当は結構マズイはずだけど、そういうのが堂々とウイルス対策のお偉いさんになってるし」
「やっぱり、あの眼鏡のおじいさん先生の言ってること間違ってたんですか、空気感染しないとか、クラスターさえ抑えればとか」
「新型ウイルスって何があるかわかりゃしないのに、最初から4日間経過観察みたいなこといって、人が結構死んでたしな。それでもウイルス対策会議の座長とか降りてないだろ」
「確かに、いまだに対策会議にいますよね、あの人」
「だいたい、西の局じゃあ、専門家でもない政治家崩れのおっさんが、他国の侵略戦争に好き勝手言ってるだろうが、外交とか国際問題とかにも全くのド素人のくせに。そのくせ、言ってること180度転換してもなーんにも反省してないし」
「あのハシゲンさんですか。確かにあの人も同じ党の人も科学的に証明もされてないこととか間違いを平気で言ってて訂正してないですね。結構発言に振り回されて大ごとになったらしいのに」
「そ、外国じゃ、許されないかもしれないけどな。ここ、ニホン国では自称ユウシキシャが何をいっても、よっぽどじゃないと規範とかには引っかからないんだよ。引っかかっても謝って、金払ってすませちゃうのが大半。差別むき出しのどっかのマイナー化粧品会社の会長みたいなのがいるとこなら、ともかくな」
「いろいろな意見がありますから、で、誤魔化せそうなら、何とかなりそうってことですか」
「そういうことだ。で、俺らがやることは上の意向に沿うような発言をしそうで、喜んで出演しそうな人間を探して、台本をつくることかな」
「えっと、フリーのライターとか?」
「まあ、まったくのド素人じゃヤバいから、テーマに近いこと書いてるのを探して。できれば、やっぱり博士号かせめて修士号をもってる人間がいいんだろうけど、最悪、市井の専門家とかで」
「やっぱり、学者さん探さないとだめですか」
「そりゃ、大学とか研究所勤務のほうがいいに決まってるけどな。だけど、マジで研究に没頭してる忙しい先生方が、2-3時間の討論番組で長々と喋ってくれるわけないだろ、短いコメントをもらうとかならともかく」
「中には調整してくれる人もいるそうですけど、上から文句が言われないような人ばっかりじゃないですよね、たぶん」
「とするとちょっとテーマを知ってて、しゃべりたがり、出たがりで上に忖度できるような連中を探すか。目立って語りたがるっていうのが、ポイントかな。論理の正統性とかエビデンスがあるとか、事実にもどついているか否かがホントは大事なんだろうけどさ。そんなことお構いなしで、言ってることが支離滅裂でも、勢いにのって堂々と喋れば視聴者はついてきちゃうから」
「それって、芸能人に適当に言わせるのを変わりないですけど…。でも、確かに無茶苦茶いってても、クレームが来たことはあんまりないですね」
「肩書だけそれっぽく、本人が専門家でございって顔してりゃ、何とかなっちまうんだよな、ニホンのテレビはな」
「そうかもしれませんね。だいたい専門的知識があるかどうかもわからない、ただ有名なだけの人間の発言を鵜呑みにしちゃって、誰それさんの言うことは正しいとか、支持しますとかSNSでコメントする人も少なくないし」
「だろ、筋道が通ってなかろうが、基本的知識がなくていい加減なことを言いっぱなしにしようが、大声でまくしたてて相手に口を挟ませなければ、議論に勝ったようにみせかけられる。視聴者が騙されて、すごい人と勘違いする。話の中身もロクに検討もしないのにな」
「そのとおりかもしれませんね」
「で、話を戻すとまず俺たちがやらなきゃならないのは人探し…いや、違うな、台本通りにしゃべってもらわないとまずいんだから、まず、討論っぽく、どこからも特に上からクレームがつかない台本作りからになるのか」
「台本をつくるとなると、まったく基本的知識がなくても、ダメですよね、僕たちも」
「そうだな。あんまり物議をかもすような結論、特に上やスポンサーのご意向に反する結論になるとヤバいから…。テーマについて、こっちである程度調べといて、議論の方向っていうか結論を決めとかないとな」
「上やスポンサーから文句が出ないような道筋をつくっておくってことですね」
「それと視聴者からもな。たまーに真面目なリベラル―とかから来るから。そうなるとハシゲンのおっさんみたいに好き勝手におしゃべり垂れ流しも不味いか」
「そうですねえ、勢いにまかせてやられると結論からそれそうだし」
「こっちが決めた結論になるようなユウシキシャをださなきゃならないわけで」
「もともとそういう主張をしてる人で、話が旨い人がいいんですかねえ」
「しゃべりたがりのほうがいいんだが、あまり台本からそれられるのも困るしな。そうするとこっちの思う通りに話す奴、それはかえって難しいか。うーん…うまく議論しているようにみえる台本を作っといて“ユウシキシャ”たちにおぼさせとくって手もあるな。覚えなくても、討論中に視聴者に気づかれないように、それとなく見せられるようにしときゃいいかもよ」
「それなら、なんとかなりそうですね。台本をつくったら、その結論にあいそうなことを言っている人探しですけど、具体的にどうやって探します?SNSとかで、そういう主張してる人みつけるとか」
「まあ、本とか論文とか書いてる人間とかのが、肩書はあるだろうけど。ブログとか最悪ツィッターとかからでもひろうか。学歴も肩書もなんにもないド素人じゃさすがにまずいだろうけど」
「ひょっとして、その道の専門家じゃなくても、有名人なら、なんとかなるんじゃないですか。スポンサーとか上とかに忖度してくれそうな人とか」
「それでもいいかもな。専門の論文を書いてなくても独学で―とか言えばいいか。だいたいハシゲンとか、ヨツウラとか、その道の専門家かどうか?なのにあれこれ言ってるわけだし」
「お笑い芸人とかじゃなきゃ、真面目そうな俳優さんとか作家さんとかでもイケそうですね」
「人探しもなんとかなりそうか…それじゃ、まずは生討論っぽい台本作りか。さて、テーマは…」
マツデンとアリモンドは生討論番組の台本作りに取り掛かり始めた。
どこぞの国では本当に専門家か疑問に思うようなコメンテーターが、いろいろしゃべってますが、本文はあくまでフィクション…だと考えております。