「日本が豊かになったのは今の高齢者たちのやる気と根性のおかげだ!」と息巻く方がいたので、高度経済成長の要因を色々並べてみた
コロナ情報の収集用アカウントを某SNSに作っていて、色々と見ていると日本のコロナ対策やマスコミ報道が「高齢者びいき(高齢者に都合の悪いことは一切言わず、若者のせいにばかりしている)」なこと、それに怒りを覚えている人も結構いるなあと感じる。
それに対し、こんな反論をしている人がいた。
「日本が豊かになったのは今の高齢者たちにやる気と根性があったおかげだ!だから、敬われるべきだ!」
さらに。
「対して、今の若者はだらしない、だから日本は衰退したんだ!」
おいおいおい。
あまりの暴論にクラクラした。
これはさすがに看過できないので、返信でひとまず高度経済成長の要因を手当たり次第に並べていき、そこに次々と加勢者も加わった結果、最終的に反論者は投稿を削除した。
若干感情的になってしまったので、少ししてから自分も返信を全て削除した。
プロフを見ると、相手はどうやら年金生活者らしい。
先に断っておくと、自分は今の高齢者世代が頑張って働いてくれたことは間違いないと思っているし、心から感謝している。
だが、あの時代には日本史史上類を見ない「経済的好条件」が重なり、向こうの言うように「やる気や根性」があったとしても、それだけで高成長を成し遂げられたとは到底思えない。
そして、若者や現役世代がだらしないから日本が衰退したというのも、全くの誤り。
今回は戦後の日本が豊かになった要因をいくつかピックアップしつつ、私見を述べさせていただければと思う。
まず初めに、日本の高度経済成長期についてはこちらの記事がわかりやすい。
~~5分でわかる高度経済成長期!始まりと終わり、公害などの影響をわかりやすく~~
https://honcierge.jp/articles/shelf_story/8114
要点をいくつか抜粋させていただくと、
・東西冷戦が深刻化したアメリカが、日本を東アジアにおける「反共の防壁」にしようと、占領より経済復興を優先するようになり、「経済安定九原則」を発表した。
・「経済安定九原則」にもとづき、1ドル=360円(今では考えられない超円安)という単一為替レートが設定され、輸出業を強力に後押しした。
・1950年の朝鮮戦争勃発による戦争特需(特需景気)と、政府による積極的な産業政策の推進。
・1950年代末から1960年代にエネルギー源が石炭から石油に代わる「エネルギー革命」が起こり、当時は中東から安価に原油を輸入できた。
こう見ると、アメリカが社会主義・共産主義国家への対抗策(反共の防壁)にするべく日本経済を復興させようとしたこと、それに連なって他の外部要因や転換期が重なったことが大きな要因であり、個人個人の「やる気や根性」だけでどうにかなった話ではないことは明白だ。
そしてこの成長期に、日本の経済社会に「たった一度だけ」与えられた、歴史的な好条件があった。
「三種の神器」という言葉をご存知の方も多いと思う。
当時の生活を激変させた、冷蔵庫、洗濯機、テレビだ。
この三種の神器の普及のほか、国内需要を爆発的に増加させたその要因、それは、
・現役世代が農村から都会に出稼ぎに出たことによる、「世帯数」の爆発的増加
である。
そもそも1950年代の日本の就業者は、半分近くが「農業・林業・水産業」などの「一次産業」で働いていた。
そして、農村で3世代同居で暮らすという、今とは全く違う生活形態だった。
そこへ「三種の神器」が登場し、その価格も技術進歩と量産効果でぐんぐん下がり、都市サラリーマンの給料はうなぎ上りで上昇。
この工業の発展によるサラリーマンの給料上昇と人手不足によって、農村から都市への「集団就職」が起こり、それぞれに世帯を構えることとなった(核家族化)。
その新たな世帯にも当然、住む家も家具も「三種の神器」もいる。
つまり国内の需要が「世帯数の増加」によって大幅に増大するという、二度とない好条件がそこにはあった。
(参考:「人口と日本経済」/吉川 洋著)
もしかすると投稿者は、このような歴史的背景を知らなかったのでは、とも思う。
改めて断っておくと、自分は今の高齢者世代が頑張って働き、歴史的好条件を活かして日本をきちんと豊かにしてくださったことには、心から感謝している。
だが、当時とは違う閉塞感、虚無感が漂う中で頑張る現役世代や若年層の心を踏みにじるような言葉は、吐いてほしくない。
ましてや、歴史的背景も知らずだったら尚更だ。
敬いたくても、敬う気持ちがなくなる。
自分はあの時代の人たちが特別なのではなく、今も昔も日本人は「やれと言われたことを真面目にやる」本質があると思うし、だからこそ全体として向かう方向性や、何に注力するかが大事になってくる。
高度経済成長期は「農業から工業へのシフト」に注力し、それが大正解だったからこそ大きな結果が得られたが、IT革命後の「工業からITへのシフト」は、日本は完全に立ち遅れたと思う。
〜〜トヨタ10個でApple1個分。なぜ日本企業は時価総額レースから脱落した?〜〜
https://www.mag2.com/p/money/956873
さらには製造拠点を海外に移したり、非正規雇用を増やしたり、企業側は「人件費の削減」にいそしむ一方、消費者側の要求やハードルは上がるばかり。
その息苦しさの中で、「労働時間や内容に見合う報酬が得られない」「社会保険料が重すぎる」「増税」など、モチベーションを次々削られながらもなんとか頑張っている、これが今の現役世代の姿ではないだろうか?
本当にだらしないなら、誰も働かなくなっているはずだ。
そういった社会的背景、経済的要因を抜きにして「やる気」だの「根性」だので片付けることが、どれほど無知で人を傷つけることか、きっと皆様もおわかりだと思う。
だからもし、そういった根性論を振りかざされても、現役世代や若者は何一つ、劣等感など感じる必要はない。
ちなみに。
wikipediaで見ても、経済成長の条件に「やる気や根性」なんてどこにも書いていない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/高度経済成長
現在行われている東京オリンピック、自分は最後の最後まで、開催を手放しでは喜べなかった。
正直、開会式も見なかった。
だが、この日のために頑張ってきた選手たちに、何の罪もあるはずがない。
毎日吉報が届く目覚ましい活躍にはやはり感動させられるし、この東京オリンピックに向けて選手やコーチ、組織委員会が本気で強化してきたというのが、過去最多のメダル数などにも如実に表れている。
中でも、9つもの金メダルを獲得した柔道は、二大会前のロンドンでは金は1つだった。
この躍進はズバリ、データ解析を重視した結果だという。
~~“根性論”から“データ解析”へ!最多金メダルの大躍進を遂げた日本柔道 井上康生監督の「2つの改革」~~
https://www.fnn.jp/articles/-/218516
古臭い根性論に辟易しつつも、それを一本背負いで投げ飛ばしてくれるような活躍とその要因に、少しだけ胸がスカッとした今日この頃です。