〜マンイーター〜果実パイは甘くて苦い その2
こんばんは!
本日もう一作品も更新しておりますので、そちらも、是非っ!
楽しんで頂ければ幸いです。
アレクトラはローガンから果実を受け取った。まじまじと観察すると果実は厚い表皮で覆われていて、蜜の垂れているひび割れの奥には白い果実が見えた。
興味深そうに実を見るユーリエに手渡すと、想像より重かったのだろう。受け取った両手が少し沈んだ。
「新人時代は皆甘い物を買う金の余裕がない。だからマンイーターを見かけたらどいつも目の色を変えてそれを探してたってことだ。」
蜜のついた指をねぶりながらローガンぎ説明する。アレクトラは興味深そうに果実とマンイーターとの間で視線を往復させた。
「本体は食べないのかね?」
「・・・・・・食えるのか?」
ローガンが眉をピクリと上げた。アレクトラは本を取り出し、頁をめくっていく。
どうやら確証があったわけでは無さそうだ。
ユーリエは指を咥えているローガンを見て、自分の指にもついた蜜を恐る恐る口の中に含んだ。
直後、舌に訪れる甘味におどろき、目を丸くした。
「美味しい・・・・・・!」
「だろう?かなり糖度が高いんだ。栄養の源を考えるとちょっと微妙な気分にはなるが。」
戯けたように肩をすくめるローガンは、実を受け取り鞄に仕舞った。
「後で食べよう。」
「ありがとう。」
「残念だが、本体はあまり美味しくはないみたいだな。どう調理しても生臭さが消えないと書いてある。」
どうやらアレクトラはまだマンイーターのことを調べていたみたいだ。
真剣な表情で内容を読み上げるアレクトラを見て二人は顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく笑いを浮かべるのだった。
しばらくして、ついに一行は街道に出ることが出来た。こんなにも早く森を出れると思っていなかった三人は歓声を上げて喜んだ。
マンイーターに遭遇した後は特に何事もなかったのが大きかった。
三人はしばらく街道を進んでいき、途中後ろからやってきた乗り合い馬車に乗せてもらい、当初の目的地であったルカの街へと辿り着いた。
時刻は夕刻よりは少しはやいといったところ。
宿をとった三人は、とりあえずそれぞれの部屋へと引っ込んだ。
「ふう。」
ユーリエは案内された部屋へと入ると、外套を椅子へと投げ捨て、溜め息をついてベッドへと腰掛けた。
そのまま後ろへと倒れ込む。
埃っぽい服と身体を早くどうにかしたいとは思っていたが、それよりも押し寄せてきた疲れに抗えなかったのだ。
(最初から色んなことが起きたなあ。)
天井に吊るされた照明をぼうっと眺めながら城を出てからのことを思い返していた。
馬車がなくなり、森に彷徨い込んで、魔物を食べて、遭遇して。
これまで生きてきた中で経験した何よりも内容の濃い体験なのは間違いなかった。
それに、とユーリエは寝返りをうちながら思った。
考えていたのは、アレクトラのことだった。城を出る前までは、元国王だったこともあり、尊敬や畏怖といった気持ちが強かった。しかし、早々に訪れた予想外の連続に、いつの間にかそんな感情は消えていた。
アレクトラの色んな表情を見て、それは変わった。
子供っぽいところ、ローガンと楽しげに会話する姿見、穏やかな気性や、好奇心の強いところ。
様々な姿の彼がユーリエの頭の中で再生され、姿を変えていった。
アレクトラを思い浮かべている間、ユーリエは少しだけ心が温かくなったような気がした。気が付けば、目を閉じていて、心地よい微睡みへと身を委ねていた。
足腰が予想以上に疲れていたようだ。アレクトラは唸り声を上げながら椅子へと腰を下ろした。
元より妻である王妃に先立たれてから、アレクトラは身の回りのことを全て自分でする様になった。
外套かけに上着はかけて、荷物はベッドの脇に置いている。
アレクトラはゆっくりと腰を屈めると、身につけた革鎧の紐を外していった。
全てを取り外し身柄になったアレクトラは疲れに身を任せるように座ったまま目を閉じた。
その時、ノックの音が部屋の中に聞こえてきた。
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