〜マンイーター〜果実パイは甘くて苦い その1
更新いたしました。
本日、王様は今日も考えるも更新しておりますので、そちらも是非読んでみてくださいね!
ソードウルフ料理を堪能した一行は森の中を進み続けた。魔物には高い滋養効果があるようだ。
ローガンはもとより、アレクトラやユーリエに至るまで、その足取りは確かなものだった。
その日の夜は残りの食料を消化した。ソードウルフはそこでも多いにその肉の旨さを発揮して、三人を喜ばせた。
翌日、一行は再び進み始めたが、そろそろ水が心許ない。今日中には川を、見つけるか、もしくは街道に行き当たりたいと、ローガンは思っていた。
その為、一層の注意を払って周囲を観察していた。
ふと、ローガンの耳に川のせせらぎのような音が聞こえた。
はっとして、顔をそちらの方に向けるローガンに、アレクトラとユーリエは警戒した表情を向けた。
口元に人差し指をあて、耳を澄ますローガン。
やはり川が流れているようだ。ローガンはその顔を嬉しそうに綻ばせた。
「水だ!川が近くにあるぞ!」
「おおっ!」
ローガンの言葉に二人も顔を見合わせて喜んだ。特に身体も拭けていないユーリエの嬉しさは相当なものであった。
最後尾を歩いていたはずが、アレクトラを追い越しかねない速度でローガンの後を追いかけた。
微かに聴こえていた音は大きくなり、やがて三人の前には細い川が現れた。
アレクトラとユーリエは歓声を上げた。水の感触を楽しもうと手を伸ばしたが、それをローガンが鋭い声で制止した。
「まてっ!」
二人はびくりと身体を緊張で縮め、動きを止めた。
ローガンが二人の顔を見て、前方に顎をしゃくらせた。
「見ろっ、魔物だ。」
二人は視線をローガンの指し示した方へと向けた。
流れる川の対面側、すぐそばに木々に紛れるように、うねうねと触手のようなものを動かしている何かがいた。
「植物、でしょうか。」
ユーリエはそっとアレクトラに近付きながら呟きを溢した。
アレクトラはユーリエを守るように手を広げて魔物を観察する。
「ローガン、あれに心当たりはあるか?」
「ああ、あれはマンイーターだ。あのゆらゆら揺れてる蔦で近付いた獲物を捕獲するんだ。」
「そ、その後は・・・・・・?」
「溶かして食べる。」
ローガンの答えにユーリエは恐ろしさで息を呑んだ。思わずアレクトラの服の裾を握りしめた。
気付いて慌てて手を離すが、アレクトラは目を細めると首を振った。
ローガンはそんな二人を横目に、腰の剣をゆっくりと引き抜いた。
そして、ジリジリと魔物方へ近寄っていく。
勝負は一瞬だった。息を鋭く吐いてマンイーターへと近寄ったローガンは、迫り来る蔦を躱し、あるいは剣で弾きながら魔物との距離を詰めた。
そして間合いに入ると、マンイーターの中心、獲物を捕食する口のある位置へ剣を突き立て、一気に横に振り抜いた。
マンイーターは花弁の中心を半分分離させた状態でゆらゆらも揺れていたが、すぐに動きは鈍くなり、倒れ込むようにして活動をやめた。
伸ばされた蔦も力を失いだらんと地面に投げ出されていた。
「スゥー。」
ローガンはゆっくりと息を吐くと、付着した体液を払い、剣を仕舞った。
「見事な腕だ。流石は、といったところか。」
アレクトラがローガンの戦いを称えた。ローガンは警戒してマンイーターの死骸を見つめていたが、動きがないことを確認して振り返った。
「こいつには新人時代に苦労させられましたからね。新人時代といえば・・・・・・」
ローガンは何かを思い出したようだ。話しながらマンイーターの死骸の近くにしゃがみ込んで死骸を弄り始めた。
「・・・・・・どうしたんでしょうか。」
生きている魔物を見たのも、ましてそれと戦う光景を目にしたのも初めてであるユーリエは、恐怖で脈打つ鼓動を鎮めながらローガンを見ていた。
安全になったと分かっていても、さっきまで生きていた魔物の身体を弄る気にはとてもなれない。
「おっ、あった。」
目的の物を探し当てたのか、ローガンは機嫌良さそうにマンイーターの側から何かを持ち上げた。
「それはなんだ?」
アレクトラは手に握られたそれに目をやった。
「これに新人時代よく世話になったんだ。」
そう言いながらこちらへと近寄ってきたローガンの手には、赤いものが握られている。
それはローガンの拳よりも二回りほど大きく、ひび割れた隙間からは蜜のようなものが垂れて甘い香りを放っていた。
「果実でしょうか。」
「当たりだ。甘くて結構いけるんだぜ?」
アレクトラの肩越しに覗き込んだユーリエに、ローガンは見せつけるようにその実を突き出したのだった。
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