蒸して焼いて突き刺して〜ソードウルフ〜その2
ようやく、食料が出てきました笑
楽しんで頂けましたら幸いです。
本日王様今日も考えるも更新しておりますので、そちらも是非っ!!
明日からのことなんだが、ローガンは焚き火に薪をくべながら口を開いた。
木の枝に刺さった馬の肉を齧っていたアレクトラとユーリエは居住まいを正した。
ローガンも焚き火の周りに並べられた一本を手に取る。
「元の道に戻ってから街を目指したんじゃ、日数がかかり過ぎる。手持ちの食料も荷台に積んでいた少しと、潰した馬の分だけ・・・・・・旦那、俺はこのまま森を抜けてしまった方がいいと思ってます。」
ローガンの言葉にアレクトラは思案する。
(確かにそちらの方がいい。この森は山間のものではないから、まっすぐ進めばいずれはどこかに出るはずだ。どこに抜けても戻るよりはいい。だが・・・・・・。)
アレクトラは無心に口を動かして小さな口に串焼きを頬張っているユーリエを見た。
ユーリエはアレクトラと目が合うと、驚き串焼きが喉に詰まってしまったようだ。細い手で握り拳を作り胸部を叩いた。
その様子を見てふっ、と表情を緩めたアレクトラはローガンに向き直った。
(逞しい女性だ。)
「このまま森を抜けよう。」
「わかったぜ、旦那。」
「そうと決まれば、ローガン。ワシらはどちらに抜けた方がよいのだ?」
アレクトラは食べ終わった串で地面に大きく丸を書いた。
「そうだな。ここに王都があるとして、俺たちは誤差はあれど大体この方向に向かっているわけだ。」
ローガンも串に残った肉を一口で頬張り、その串で記号を書いていく。
ユーリエはその様子を眺めながら、残った肉が焦げないように、火から遠ざけた。
「こっちは帝国の国境だから森から出るのはまずい。ってことは自動的にこっちだな。これならエムリッカのほうに出れる。」
ローガンは串で伸ばした矢印の先に⚪︎をつけた。
「なるほど、ではそのようにしよう。」
冒険者としてのローガンを信用しているアレクトラは素直に頷いた。
「さて、火があるからって安心は出来ない。少し辺りを見てきますよ。」
ローガンは立ち上がり尻に付いた砂を払った。
「そうか、すまぬな。」
「なに、それが仕事だ。充分な金は事前にもらってるから気にしなさんな。それよりも・・・・・・。」
飄々とした様子で肩をすくめたローガンは目線でユーリエの方を指し示した。
アレクトラは頷いた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ローガンがその場を離れ、残された二人は沈黙に包まれた。
アレクトラはユーリエが火から遠ざけた馬肉串を拾い上げ、食べることはせず所在なさげにそれを眺めたりしていた。
「・・・・・・今日は予想外の事態に見舞われたが、大丈夫かね?身体は、辛くはないか?」
「いえ!問題ありません!!」
「そうか。」
元気そうな彼女の声にアレクトラは胸を撫で下ろした。
「陛下は・・・・・・いえ、アレクトラ様はすごく冷静でいらっしゃいますね。」
ユーリエは揺れる焚き火の炎を見つめている。火が照らすその横顔は、神秘的な美しさを作り出していた。
(美しい、な。)
アレクトラはユーリエに見惚れてしまった。年甲斐もなく心の奥底に何かの感情が湧き上がるのを感じた。だがアレクトラはそれに蓋をして、口を開いた。
「何。冷静なのはローガンがいるからだ。彼に任せておけば大抵のことは何とかなると思っているから、動揺を鎮められるのだ。」
「S級冒険者、ですか。」
首を傾げてアレクトラにユーリエは問いかけた。はらりと溢れる金髪が艶かしく輝いた。
「そうだ。わしも詳しくは知らんが、S級の冒険者というものはかなり強い魔物とも戦う能力があり、また冒険の知識も他の追随を許さないほどであると聞いた。」
「それは、何と言いますか、頼もしいですね。」
「だろう?」
ユーリエは目を瞬かせた。令嬢として育った彼女は冒険者という職業があるということは知っていたがそれがどのような職業なのかを殆ど知らなかったのだ。
それに、とアレクトラは皺の目立つ口元をニヤリと吊り上げた。
「わしは年老いて感情があまり動かぬだけだ。いや、身体の痛みのように遅れて来るかもしれん。」
「まあ!」
いっそう驚いたユーリエだったが、すぐにその表情を笑顔に変えた。火の明かりのせいか、夜だというのにその整った顔は生命力に満ちていて、輝いて見えた。
その時、繁みが揺れ動く音が響いた。思わず身構える二人の前に何かを抱えたローガンが現れた。
「おお、戻ったか。」
アレクトラ達はローガンをみて胸を撫で下ろした。そして、視線を彼の持っているものに向けた。
「それは?」
「近くでこっちを窺っていたから仕留めた。ソードウルフだな。」
ローガンは少し離れたところに抱えたソードウルフを置いた。
どさっという音と共に死体が焚き火の灯りに照らされた。
思わずユーリエは息を飲んだ。
「悪い、嬢ちゃんには刺激が強かったかな。」
「いえ・・・・・・。」
「ソードウルフか・・・・・・。」
アレクトラは身を横たえているソードウルフを眺め、いそいそと鞄の中を調べ出した。
一冊の本を手に取り、ぱらぱらと頁をめくる。
ローガンとユーリエはアレクトラの様子を見て顔を見合わせた。
「おおっ!!あった!!」
アレクトラが興奮した声をあげた。
疑問に思う二人を手招きし、三人で本を覗き込んだ。
「ほう、ソードウルフは食えるのか!」
開かれた本の頁にはソードウルフの絵が詳細に書き込まれており、捌き方などが記載されていた。
ローガンも面白そうだ、と歓声をあげた。
「えっ、食べるんですか?あれを?」
ユーリエだけは魔物といえども一見大きな犬に見えなくもないソードウルフを食べるのに抵抗を示すが、男二人の興奮した様子にやれやれと首を振った。
二人の男は食い入るように本の内容を吟味している。
「なるほど、とりあえず捌き方は他の動物と同じか。よし、血抜きして、内臓だけ取り出しておこう。」
開いてある内容を全て読み終えたローガンは膝を打って作業に取り掛かった。
鞄からロープを取り出す。ソードウルフを軽々と拾い上げ、近くの木に引っ掛けた。
その様子をしばらく見守っていたユーリエは未だ本から顔を上げないアレクトラに視線を向けた。
熱心に文字を追う姿はとても老人のものとは思えない。
ユーリエはなんだかおかしくなって、ふふっと、笑いが漏れた。
その声にようやくアレクトラが顔を上げた。
己を見てクスクスと笑うユーリエに首を傾げた。
「いえ、アレクトラ様がまるで少年のように輝いた目をされておりましたので。」
そういうと、ユーリエは再びおかしくなったのか口元を隠し笑った。
アレクトラはなんだか照れ臭くなり、バツが悪そうに目を逸らし、何かを言おうとしたが結局口をもごもごと動かしただけだった。
その様子を見てさらに笑いを深くしたユーリエだった。
先ほどまで感じていた不安のようなものは今はもう消えていた。
目尻に浮かぶ涙を拭いながら、アレクトラのあの表情をまた見れるのであれば、魔物を食べるのも悪くない、そう思ったユーリエだった。
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次回はいよいよ、実食!