蒸して焼いて突き刺して〜ソードウルフ〜その1
長くなる前提でタイトル付けて番号を振ることにしました笑
楽しんで頂ければ幸いです。
どうしてこうなった。そんな思いを胸にアレクトラ達は森の中を彷徨っていた。
鬱蒼と茂った木々の間をすり抜けて、柔らかい土に足跡をつけていく。
腐葉土の生臭い水を含んだ香りが鼻腔を刺激しているが、もはや当たり前のように嗅いでいるので、それが腐葉土なのか、己に染み付いているのかの判別もつかなかった。
(老体にこれは厳しい。厳しいといえば、ユーリエ嬢とて慣れぬだろうに、弱音も吐かずによくついてきておる。)
アレクトラは先導するローガンを見て、後ろを振り返った。視線の先では、疲労で険しい顔をしながらも、しっかりとした足取りでユーリエが進んでいた。
ふと、ユーリエと目が合った。彼女はアレクトラを目を見て、安心させるように微笑んだ。
それは元気なものではなかったが、アレクトラを力を与えるには充分だったようだ。
アレクトラは頷いて前を向くと、一歩、また一歩と足を進めた。
何故こんなことになったのか。少し遡り、ことの起こりは王都を出て、三日ほど経った時だった。
ローガンが御者台を離れている隙に、馬車が街道に現れた魔物に襲われた。
襲われたといっても人間が殺される程の魔物は定期的に駆除されているので、問題はない。
だが、馬には違ったようだった。驚いた馬は繋がれた綱を杭ごと引き抜き、街道から外れてかけようとした。
ちょうどローガンが戻った時であったが、S級といえど人間、馬の足に勝てるわけもなく馬車の荷台に捕まるだけで精一杯だった。
慌てる一同を乗せたまま興奮した馬達はかけ続けた。
止まったのは平野を抜け、森の中へ突入し、少なくない時間が過ぎた時だった。木々の間をすり抜けて駆けていた馬車だったが、木の密度が高くなってくるとそれも難しい。
一本の大木を挟み込むようにして進んでしまったのだ。それにより馬車は大破し、衝撃で馬の一頭は死に、もう一頭は泡を吐きながらどこかへと駆けていった。
陽の光が僅かに漏れ入る森の中に取り残されたのは三人と一頭の馬の死体だった。
アレクトラはよろよろと二台から這い出ると、ユーリエに手を差し伸べた。
「ありがとうございます。」
「大丈夫だ。怪我はないか?」
「はい。アレクトラ様も?」
「うむ、大事ない。ローガンは・・・・・・。」
「俺も大丈夫だぜ。」
茂みの中からローガンが現れた。木に衝突する前に飛び降りたのだろう。身体についた木の葉を払いながら二人の前に立った。
怪我がないことを確認した三人は落ち着いて辺りを見回した。轍の位置を辿っていけばいずれは元の街道に出る。そうして進めば当初目指していた街には着くが、その距離は途方もない。
アレクトラ達は思わず頭を抱えてしまった。
今はまだ明るいが森の夜は早い。日没と共にあたりを闇が覆うだろう。そうなれば、後は魔物の時間だ。
不幸中の幸いにして食料は死んだ馬を潰せば当面は何とかなる。しかし持てる量には限りがあった。三人で分けて持ったとしても、安心出来る量ではない。
進むにしても戻るにしても、何日かは森の中で夜を越える必要があるだろう。食料と水の調達は、しばらく後の課題になるのは疑いようがなかった。
だがその場にいても事態は好転するわけではない。
一向は覚悟を決め、各々そのための準備のために動き出した。
そうして準備が終わり、休めるところまで歩こうという話になったのが、冒頭である。
それからしばらく黙々と進んだところで、ローガンは振り返った。
「旦那っ!少し拓けた場所が見えました。そこで休みましょう。」
ローガンの言葉に力が湧いたアレクトラとユーリエは、顔を見合わせ大きく一歩を踏み出した。
三人の頭上では、三人を閉じ込めるかのように茂った木々が風を受けてゆらゆらと揺れていた。
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