元、王の旅立ち
今回は料理は出てきませんが、お許しください。
楽しんで頂ければ幸いです!!
また、王様は今日も考えるも本日更新しておりますので、是非ご確認ください!!
翌朝、アレクトラは支度を整え王城の入り口へと向かった。
天は高く雲ひとつない快晴が空には広がっていた。まるでアレクトラの旅立ちを祝うかのように、そよ風がアレクトラの頬を撫でていく。
門の前には一台の馬車と共に、何人もの見送りが並んでいた。
「アレクトラ様、お待ちしておりました。」
ヨシュアはアレクトラの姿を確認すると、恭しく腰を折る。
顔を戻すと、ヨシュアはそばに立っている二人の男女をその手で指し示した。
「男の方が陛下の護衛を務めさせて頂きます。S級冒険者のローガンというものです。エラート子爵家の次男ですので、作法などに関しても他の冒険者よりも優れているかと。」
「よい、もはや引退した身。作法や言葉遣いなど、些末なことだ。」
アレクトラが頷くと、ローガンと呼ばれた男が前に出て、頭を下げた。
「お初にお目にかかります、アレクトラ様。この旅における一切の荒事などは、ご安心して私めにお任せくださいませ。」
「頼んだぞ。それと、そなたは冒険者であろう?堅苦しい言葉遣いは無用だ。楽にせよ。」
ローガンはその言葉を聞いて姿勢を崩すと同時に表情も変えた。途端に、粗野な冒険者としての雰囲気が全体から滲み出る。
「その方が助かるよ。じゃあ俺は旦那って呼ばせてもらう。とはいえ大事なお方には違いねえ。何かあっても、俺に任せてくれや。」
ローガンの態度と言葉遣いに周りが息を呑む。ヨシュアですら、その表情を変えた。
「ローガン!!」
「よい。儂が許可したのだ。好きにさせよ。」
「ですが・・・・・・わかりました。」
ヨシュアは何かいいたそうに口元を動かしていたが、とりあえずは呑み込むことにしたようだ。
アレクトラは苦笑を浮かべ、緊張した面持ちで立っている女の方へと視線をやった。
「それで、君の名前は何というのかな、お嬢さん。」
女はアレクトラに声をかけられて身体を硬くした。しかしすぐに一歩前に出て、上品な仕草でカーテシーを行った。
「陛下の、アレクトラ様の身の回りのお世話をさせて頂きます、女官のユーリエと申します。お見知り置きくださいませ。」
「ほう。」
見た目は20代そこそこといったところか。洗練されたその動作と美しい顔にアレクトラは思わず感嘆の声を上げた。
ヨシュアがユーリエの言葉を補足する。
「彼女は女官長の姪でございます。令嬢としての教育を受けておりましたが、婚約者に先立たれ、同行する女官を募集したところ立候補致しました。女官としての教育もその際に行っておりますので、ご安心ください。」
「そうか、婚約者に・・・・・・。」
アレクトラは事情を聞き、痛ましげに眉を顰めた。
「ご心配には及びません。もはや適齢期は過ぎておりますもの。独り身を通そうと心に決めました。それならば世界を回るのも一興かと。」
そういうとユーリエはその表情に笑顔を浮かべた。破顔するようなものではないが、貴族の令嬢が浮かべるものでもない。
あえて崩したのだろう。そこには気にしなくていいという彼女の気遣いが込められていた。
アレクトラは微笑みを浮かべ、手を差し出した。
「ローガン、ユーリエ。行き先も決めておらぬ隠居爺いの旅であるが、付き合って貰えると、助かる。」
「ああ、任せておきな。」
「ええ、存分に。」
こうして、三人は握手を交わしたのだった。
アレクトラは目を細めてその様子を見ていたヨシュアに声をかける。
「あやつは・・・・・・。」
アレクトラが誰のことを言っているのかを察したヨシュアは、その顔に苦笑を浮かべた。
「自分が追放したのに、見送ってはおかしい、と。執務室の窓で様子を見てらっしゃいます。」
ヨシュアが指さした先、執務室に取り付けられた窓を見やったアレクトラは人の影を視界の中に捉える。
だがその影はすぐに身を翻し、カーテンを締めた。
「ふっ、相変わらず不器用なことよ。」
アレクトラはおかしそうに、それでいて愛おしげな表情を浮かべて目を細めた。
「さて、そろそろ行こうかな。必要な別れは済ませたし、今生の別れというわけでもあるまい。」
アレクトラはローガンとユーリエに視線を向け、馬車へと促した。
そこへ、バタバタとこちらへ走り寄る影と声が聞こえた。
「アレクトラ様ー!!!」
やがて影は大きくなり、それはアレクトラの前で立ち止まると、膝に手をつき苦しそうに肩を上下させた。
「アレクトラ様・・・・・・はあはあ、遅れて・・・・・・申し訳、ございません。いやはや、もう私も歳ですね・・・・・・。息が、なかなか・・・・・・おさまりません。」
「マルトか。見た昨日飲み過ぎてあったので見送りには来ぬかと思っておったが。」
息も絶え絶えという様子のマルト出会ったが、大きく深呼吸をして無理やり息を整えると、手に持っていた一冊の本をアレクトラに差し出した。
受け取り、タイトルに目をやったアレクトラは、興味深そうに眉を上げた。
『魔食のススメ』
そう書かれた一冊の本の表紙には皿に乗ったドラゴンとその左右にナイフとフォークの絵が記載されている。
「昨日お召し上がり頂いた料理は、この中に書かれた食材を使用したものになります。」
「ほう。あれが。」
アレクトラはパラパラと頁をめくる。飛び込んでくる絵の中には、たしかに昨日食べた魔物の絵もあった。
「旅のお食事に困った時などに、御用立てください。」
「貴重なものではないのか??」
アレクトラは肩にかけた鞄の中に大事そうに本をしまった。
マルトは軽く首を振り、ニヤリと頬を上げた。
「すでに全て模写しております。ご安心ください。」
「そうか。ならば遠慮なく貰って行こう。」
二人の会話をローガンとユーリエは興味深そうに眺めていた。
「さて、これ以上は野暮であろう。そろそろ行くとしようかな。」
アレクトラは一つ頷き、二人の方を振り返った。
そうして、ふと、苦笑を漏らした。
そんなアレクトラを見て、一同は首を傾げる。
(ふふ、年甲斐もなく儂が一番この旅に心踊ってあるようだ。)
アレクトラはなんでもないというふうに首を振ると、馬車の登り口へと足をかけた。
振り返る。そこにはかつて自分の配下だった者たちが、自分を見つめて並んでいた。
面映い気持ちになりながらも、アレクトラは自分のやってきたことが、人生が、右も左もわからないまま辿々しく国王を務めた時代も、エドワードが生まれて奮起した時代や妻を亡くしてがむしゃらに働いた時代も、報われたようなそんな気持ちになった。
目に力を入れ、その奥から零れ落ちる雫を押し留め、笑顔を浮かべる。
それを見つめる一同も皆、笑っていた。
「ではな。皆、息災で。」
アレクトラはそういうと、今度こそ馬車に乗り込んだ。
続いてローガンが御者台に座り、ヨシュアの手を借りてユーリエが乗り込む。
少しの間を置いて、ローガンが馬に鞭を振るった。
いななきと共に馬が足を動かし、馬車は進み始めた。
アレクトラは馬車の中で目を瞑った。
この歳にして新たな旅路を行けることはなんと幸せなことか。
たとえ天気が荒れたとしても、己の心は今晴れきっている。
「さあ、行くぞっ!!」
アレクトラの掛け声に合わせるようにローガンは大きく鞭を振るった。
馬車はみるみるうちに速度を上げ、王都の合間を抜けていく。
「いって、しまわれましたね。」
ヨシュアは遠くなっていく馬車を眺めながら寂しそうに呟いた。
「ああ、行ってしまわれた。」
マリトも同じように呟く。
そのまま馬車は門を抜けいった。やがてその姿が見えなくなってもその場を離れるものはしばらく現れなかった。
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