とりあえず、塩か?〜大なめくじ〜その4
楽しんで頂ければ幸いです。
本日、二千年魔王も更新しておりますので、そちらも、是非!
うとうとと微睡んでいたユーリエは、夢を見ていた。夢の中の視界に広がるのは、かつての婚約者と見た景色の一つだった。
婚約が決まり、国外に赴任する婚約者を見送った日のことだ。
(確か、私が十八の頃で・・・・・・待たせることになると、謝ってくれた。)
優しい鳶色の瞳に申し訳なさそうな色を浮かべて、ユーリエの頬に触れるその手は少しささくれていたのを覚えている。
実家の面倒を見るために婚期を逃したユーリエを、それでも構わないと笑って受け入れてくれた彼だ。自分の方がいくら待つことになっても苦ではなかった。
見送るユーリエの瞳に涙はなかった。
振り返ろうとして、ふと思う。自分の覚えている彼はあんな表情をする人だっただろうか。
たしかに優しかった。
だが自分の言葉でよく笑ってくれたその笑顔も、今はあまり思い出せないでいる。
夢の中で、ユーリエは思わず離れていく馬車を追いかけた。
手を伸ばすも、人が馬車に速さで勝てるわけもなく、どんどんと互いの距離は離れていった。
やがて馬車はすっかり見えなくなり、ユーリエは伸ばした手を力なく下ろしたのだった。
ふと、物音でユーリエは目を覚ました。灯りのお陰で暗いということはない。逆を言えばどれだけ寝ていたのか自分ではあまりわからなかった。
身体を起こし、寝ぼけ眼で辺りを見ると、音の正体はアレクトラとローガンだった。
二人で何かを重たそうに運んでいた。
ふと、ローガンがこちらに気が付いた。アレクトラに何事かを呟くと、アレクトラもまた、ユーリエへと視線を向けた。
顔を綻ばせ、持っていたものをその場に置くと二人はユーリエへと近付いてきた。
「よお嬢ちゃん。具合はどうだ?」
「ええ、何とか。」
「まだ休んでおいた方がいい。水を汲んできたから、飲みなさい。」
「ありがとうございます。」
アレクトラの差し出した皮袋を受け取り、中の水を飲もうと傾けた。
渇きと熱による身体の火照りを、喉を通る水がやんわりと鎮めていった。
夢中で水を飲み、ようやく口を離すと、ほうっ、という溜息が自然とユーリエの口から漏れた。
「ふっ、どうやら相当喉が渇いておったのだな。」
「い、いえ、すいません。はしたない所をお見せしてしまい。」
「別に構わんよ。いい飲みっぷりだった。」
「旦那、それじゃまた熱が上がっちまう。その辺にしておきな。」
恥ずかしさで顔を赤らめながら俯くユーリエを見かねてローガンは口を出した。
アレクトラは眉を上げ、すぐに自分の迂闊さに気付いて詫びた。
「これは、済まない。淑女にいう言葉ではなかったな。」
「いえ・・・・・・。」
若干気不味い雰囲気が広がりかけるが、ユーリエは気を取り直して二人へと話しかけた。
「それで、御二方は何をお持ちになったんですか?」
ユーリエは言いながら二人の置いた物を指差した。
二人は互いに顔を見合わせると、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
笑顔の意味が分からず、戸惑いの表情を浮かべるユーリエを横目に、アレクトラは荷物を漁り魔食のススメを取り出した。
ユーリエはそれで大体のことを察してしまったが、楽しそうにしている二人に水を差すのも悪いと思い、何も言わなかった。
ローガンもアレクトラの背中越しに本を覗き込んでいる。
「・・・・・・の項目は・・・・・・おお、あった!!」
「おお、ホントか!」
何について調べているかは聞き取れなかったが、どうやら本には載っている食材のようだ。
ユーリエは楽しそうな二人を眺めながら、ぼうっとしていた。
男性陣は何度も感嘆の声を上げながら、頁を読み進めていく。
やがて全てを見終わったのだろう、本を閉じた。
「調理法はわかったが、味付けの調味料が無いな。」
「旦那、味なんて塩でいいさ。」
「そういうものか。」
「そういうもんだ。てなわけで嬢ちゃん、ちょっと捌くのを手伝った欲しいんだが。」
ローガンの言葉に頷いてユーリエは立ち上がった。そのまま三人は置かれている獲物のところへと向かった。
目の前に立つと、ローガンの外套で覆われていて、中身は見えない。外套がかなり濡れているようだが、すでに身を洗ってくれたのだろう、とユーリエは二人に感謝した。
「食べれそうな魔物がいたんですね。」
「ああ、調べてみるまではわからなかったが、載っていたので大丈夫だろう。」
ユーリエの溢した言葉にアレクトラは反応し、頷いた。自身が倒すことに協力出来たからか、その声は何処となく自慢げだ。
ローガンが外套の端を掴み、ゆっくりと持ち上げていく。
「今日の飯は、こいつだ。」
その言葉と共に、外套の中から大なめくじの身体が現れた。
「さあ嬢ちゃん、どうやって切るのが良いと思う?」
腕枕をしながら短刀を取り出したローガンだったが、それに答えるものはいなかった。
不思議に思った二人が振り返る。
「き・・・・・・。」
「嬢ちゃん?」
「ユーリエ嬢?」
「きゃああああああ!!!!!」
二人の呼び声に、一拍遅れて、ユーリエの悲鳴が建物内に響き渡ったのだった。
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