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とりあえず、塩か?〜大なめくじ〜その1

昨日は間違えて投稿してしまい申し訳ありませんでした。

お待たせいたしました!


楽しんで頂ければ幸いです。


 薄暗い洞穴の中をを三人の男女が歩いていた。フードを目深にに被り、ひんやりとした空気を身体に浴びないようにしていた。


 松明の明かりが吹き抜ける風にゆらりと揺れる。


 明かりが照らすのは、ごつごつとした岩肌と、そこに張り付いた苔、そして隙間から滲み出る水だった。


 三人の足音だけが響いていた。先頭をいく一際身体の大きな男が、ついてくる二人を振り返る。


「旦那、あと少し進めば広い所に出る。嬢ちゃんも、まだ歩けるか?」


 呼びかけられた二人は呼吸をわずかに荒くしながらも、大きく頷いた。

 先頭の男は唇を吊り上げると頷き、再び前を向いて進み出した。




 



 やがて、三人は先程男が言っていた広い場所へと辿り着いた。


「着いたぜ。」


「むうっ。」


「わあ!」


 そこは、それまでの洞窟とは、何から何まで様子が違った。人為的に切り抜かれたような空間はがらんとして天井がかなり高くなっており、、三人が現在立っている入り口から見て、奥の方には何やら建物群が連なっていた。

 

 天井は光る素材か、生き物のようなものが貼り付いていて、僅かながらに発光して、松明がいらないほどだ。


 そして、目を見張るのは前方に広がる建物群だろう。

 


 三人が近づいてみると、そこには文明の痕跡が残されている。建物なので、当たり前と言えば当たり前ではあるが、驚くべきは照明であった。

 

 所々破損している箇所もあるが、建物同士に細長い綱のようなものが張り巡らされており、それぞれ建物の入り口へと分岐していた。

 そして分岐した先端に、火が灯っていた。 

 風で消えないように薄く削った石英で囲われたその灯火は、建物が風化してボロボロになった今も、ゆらゆらとその身体を揺らしていた。



「これは、期待以上だな。」


「本当ですね・・・・・・なんだか寂しい気もするけど、とても綺麗です。」


 フードを取り、建物に手を這わせたアレクトラは唸るように感嘆の声をあげた。

 ユーリエもまた、揺らめく灯火に瞳を煌めかせながら、同意した。


「まあ、明かり自体は劣化が進んでたんで、後になって多少の修繕をしたそうだぜ。とはいっても、構造なんかは変えてないらしいけどな。」


 微笑みながら肩をすくめたローガンは崩れて落ちている綱を摘んで見せた。


「なるほどな。それにしても、興味深い。ほう、脱脂綿のようなものを仕込んで発火油が染み込んでいるのか。だが、それならすぐに乾く筈では?」


 ブツブツと瞳を少年のようにきらきらと輝かせたアレクトラは、ローガンの摘んだ綱を手に取るとしげしげと眺めて分析を始める。


 その表情はここまでの疲れを微塵も感じさせないほど好奇心と期待にあふれていた。


 ユーリエはそんな彼の様子を見て、同じようにアレクトラを眺めているローガンと目を合わせると、クスリと笑った。


(良かった。もうすっかり元気そうだわ。)


 先日のあのパイを食べて以降、アレクトラはすっかり以前のアレクトラに戻ったようにユーリエには感じられた。


 だが、心のどこかで本当そうなのか、とも思ってしまっていた。

 まだアレクトラと関わって日の浅いユーリエには、その辺りの機微を完璧に理解することは出来ず、己の感想に確信が持てないでいた。


 興味を示したものに近づいて回るアレクトラを見ながら、ユーリエは内心で溜め息をついた。



 ぽん、と肩に触れるものがいた。僅かに驚いてそちらを見やると、ローガンだ。

 ローガンはユーリエを励ますようにニヤリと口角を上げると、肩に置いた手を離し、ユーリエの背中をアレクトラに向かって押し出した。


「あっ。」


 転ばないように押し出したローガンだったが、やはりその力は強い。

 ユーリエは勢いを逃すことが出来ずによろよろとアレクトラのそばまで来てしまう。



「あの。」


「・・・・・・ユーリエ嬢、みてご覧。構造も大したもんだが、なによりも驚くべきは技術力だ。」


 アレクトラはそう言ってユーリエに砕けて落ちている石英を手渡した。


 石英は薄く削られており、摘んだ指の向こう側が僅かに透けて見えるくらいには、薄くなっていた。


 

「綺麗・・・・・・。」


「うむ、これは明かりを風になどから守る上に、観賞用としても優れている。かなり文化的な国だったのが窺えるな。」


 アレクトラはきらきらと煌めく粒の混じった石英を手に取り、ユーリエへと近付いて光に近づけて見せた。


 その拍子に、アレクトラとユーリエの肩が僅かに触れ合った。


(あっ、アレクトラ様の匂いが。)


 ふわりと自身の鼻を優しい匂いが掠めていく。

 なんだか落ち着く匂いだな、とユーリエはそんなこと考え、直後自身に浮かんだ感想に驚いて首を振った。

 心臓が小さく脈打つ。


(私はっ!何を考えているの!?)


 浮かんだ考えに驚きながら、ユーリエは嬉しそうに石英を見せるアレクトラの顔を見てしまう。


 理性的な青い瞳、よく笑うために深く刻まれた笑い皺、白髪が多く混じった髪。


 (あっ。)


 アレクトラが、不思議そうに首を傾げてユーリエを見た。


 突然、ユーリエはなんだかよくわからない感情が急激な速度で喉まで迫り上がってきた。

 それは熱量と共に一気に頭まで上りつめた。


「っ!」


 気付かれないように距離をとるユーリエだったが、その顔ははたからみても、赤くなっていた。


「ユーリエ嬢?どうかしたかな?」


「いえ、その。」


「旦那、きっと疲れが出たんでしょう。ちょうどそこの建物、家ですかね?状態がいい。そこで一休みにしよう。」


 心配そうに眉を寄せるアレクトラにしどろもどろになるユーリエだったが、そこで一部始終を見ていたローガンが助け舟を出した。


 ローガンとしてはこの二人の行動を見ていたい気持ちもあったが、だからといっていつまでも同じところにいても仕方がない。


 二人の中に割り込むのは気が引けたが、ちょいどいいタイミングだと思い、いまだ顔を赤らめるユーリエと、心配そうにしているアレクトラを連れて脇にある建物の中に連れて行った。



いつも読んで頂きありがとうございます!

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