表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

幕間〜新国王の胸中〜

幕間です。


楽しんで頂けましたら幸いです!

 

 黒檀の机の前に座り、無心でカリカリと筆を動かす男がいた。男の目の前には大量の書類が高く積み上げられていた。


 だがそれらは既に処理が終わっているもののようだ。男は今しがた記入を終えた書類を手に取ると、息を吹いてインクを乾かし、高く積まれた書類の上にそれを重ねた。


 男は椅子に身体を大きく預けて伸びをした。背骨が男の動きに合わせて小気味いい音を立てる。

 身体を戻して、左右の肩をゆっくりとまわし、背面にある窓へと顔を向けた。


 時刻は夕刻より少し前といったところだろうか。男は外の様子を伺った。


 変わったところは特になく、階下に見える位置では使用人達がそれぞれ仕事をしていた。

 それは、いつもと変わらない景色だった。



(父さんは、今何をしてるんだろう。)


 男は再び正面を見据えると、何をするでもなく己の思考に耽っていった。



(父さんがこの街を出て、もう五日か。お金は足りているかな。同行につけた二人とは上手くやっているのかな。まさか、環境が変わって体調を崩していないだろうか。)


 どうやら男は心配症のようだ。表情こそ動かさないが、その胸中は不安気な思考で埋め尽くされていた。


(いや、でも父さんのことだから大丈夫か。追放した僕が今更何を考えても・・・・・・密偵だけでも付けておくか・・・・・・。)


 男は自分の考えに頷くと、手元の書類を手繰り寄せ、密偵を手配する旨を記入し始めた。


 やると決めたら早いのは、この男の長所であり、また短所でもあった。

 男のいう父さん、アレクトラに関しても、この男の動きは早かった。



 計画を立案するとすぐに根回しをし、僅かに三日のうちに行動に移したのだった。

 その結果、指揮体系は乱れ、男の前に大量の書類が積まれることになったのだった。



(でもようやく整った。あの時は全部問題ないと言ったけど、それでも細かいところではやはり父さんの力が大きかった。でも、皆んなの協力で今度こそ、もう大丈夫だ。)



 男は再び窓の外に視線をやった。紅く染まりつつある空を見上げながら男は遠い過去のことを思い返していた。


(父さん。母さんが死んでからもう十年だ。僕も、政務に関しては問題なくやれるようになった。)


 男は目を細め、遠くにいる誰かを想うように景色を見続ける。


(そろそろ、自分の幸せを見つけてもいいと思うよ。それがどんなものであれ、僕は父さんの味方だから。)



 そして、男は視界を戻し、書類を手に取ると再びそれらの処理を行って行くのであった。











 それを、見つめる一人の男がいた。物陰からではない。その場にずっといた。男は、執務机の前に置かれたソファーで同じように書類の確認を行いながら、一連の動きを全て眺めていた。


 宰相のマルトだった。


(エドワード様、アレクトラ様に会いたいのだろう。きっと、幸せになって、というようなことを考えていらっしゃるに違いない。)



 どうやら、エドワードの思考は筒抜けのようだ。マルトはエドワードを生暖かい目で見つめながら、前に置かれた書類を素早い動作で捌いていった。


 ふと、エドワードがマルトの視線に気付き、顔を上げた。


「なんだ?」


「いいえ、なんでもございません。」


「なんでもないなら、なぜそのような顔をする。」


「そのような顔とは?私はいたって普通の顔をしております。」


 訝しげに眉を寄せるエドワードに対して、マルトは普通の顔といいつつもニヤニヤと笑いを噛み殺したような表情を向けていた。



「ふん、言いたいことがあるなら言え。」


「いえいえ、御座いませんとも。実は御父上が大好きな陛下が、顔では父親憎しという体裁でいることは面白いなあ、などという不遜なこと、微塵も思ってはおりませぬ。」


「思っているじゃないかっ!てか、言っとるじゃないかっ!」


「おや。これは失礼。」


 顔を赤らめて声を荒げるエドワードを横目にマルトは飄々とした口調でいなしていった。


 ぷるぷると握られたエドワードの拳が震えるのは周知故だろうか。

 

 やがて、大きく溜め息をつくとエドワードは心境を吐露し始めた。


「母上が死んでから、父さんは自分の時間を無くすかのように働いていた。それを余も見ていた。当時は何も出来なかったが、今は違う。父上には今までの分も休んで欲しい。そして叶うなら、何か何でもいい。幸せを見つけて欲しいんだ。」


「なるほど、それが理由でセンチメンタルに外を眺めていた、と。」


「茶化すな。」


「ですが、かのお方には幸せになって欲しいですな、たしかに。」


「ああ。」



 二人は顔を見合わせ、笑った。

 外はいつの間にか暗くなっている。

 ここにはいない誰かを思いながら、二人は外を眺めたのだった。

いつも読んで頂きありがとうございます!

誰かが読んでくださっているということが毎日本当に励みになっております。


続きが気になる、面白かった!!という方は下記の⭐︎にて評価をして頂けると非常に嬉しいです。

コメントやレビュー、ブックマークなども是非!!


また、誤字等のご指摘や作品の感想なども遠慮なくどしどしお伝えくださいませ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ