華麗な追放劇(本人談)
新連載です。
同時期に優しい君の笑顔のために
王様は今日も考える
も連載を始めておりますので、良ければそちらもご覧くださいませ。
楽しんで頂ければ幸いです。
ある日の夜、カリカリと筆をはしらせる音が部屋の中に響いている。十畳程の居室の中心では、やや年老いた男が豪奢な机と向き合いながら左から右へと忙しなく眼球を動かしていた。
何がが書かれた書面を確認しては書き込み、次の書類を手に取ると同じように確認しては書き込んでいる。
休みなく筆を取っていた成果であろう。やがて元々の書面があったところには何も無くなっていた。
俯きながら手を這わせ、いつもと違う感触を得た男は、顔を上げた。
アレクトラ三世ーーー大国エクロニアの国王である彼は、処理を終えた書類達を目の前に溜め息をついた。
椅子に腰掛けたまま、大きく伸びをして、肩を回す。ゴリゴリと関節が擦り合わさる感覚が気持ちいいのだろう、アレクトラの口からは深い吐息が漏れた。
ようやっと解放されたと安堵の表情をその皺の入った顔に浮かべ、記載を終えて高く積まれた書類をトントンとまとめていく。
ふと備え付けの窓の外に目をやった。すでに日は落ち、あたりは窓の外は静寂と暗闇に包まれている。
視線を戻し、今度は明かりに目をやる。
ジリジリと揺れる、火のともった蝋燭は半分ほどの長さになっていて、暗くなり始めてからそれなりに長い時間机と向き合っていたことを伺わせた。
アレクトラは椅子に深く身体を預けた。腰が痛むのか、思わず声が漏れる。
そうして目を瞑り、しばらくは心地良い静寂に身を委ねていたアレクトラの耳に、扉の外から何やら音が聞こえてきた。
直後、勢いよく扉が開かれ素材の良さそうな装いに身を包んだ青年と、何人かの男達が入り込んできた。
「どうした、エドワード。騒々しいぞ」
エドワードと呼ばれた男はアレクトラの問いには答えず、入ってきた勢いそのままにアレクトラの目の前までやってきた。
アレクトラと同じ黒髪に銀の瞳、真っ直ぐに伸びた眉毛と形のいい唇は多くの人間が整っていると評するであろう顔つきだ。
姿勢がよく、すらりと伸びた手足はよく鍛えているのであろう、程よく引き締まっている。
エドワードはアレクトラの目の前に高く積み上げられた書面を見て整った眉をしかめ、ふん、と鼻を鳴らした。
視線をアレクトラへと戻し、椅子に座る彼を無表情で見下ろす。
整った顔つきは表情が消えていることで冷徹さを感じさせた。
エドワードは姿勢を整えて口を開いた。
「パパ、じゃない、父さん・・・・・・違う、父上!でもない、アレクトラ三世!!貴方には国王の座を退いてもらう!!」
「ほう?」
「あなたはやり過ぎた。これは私をはじめ、王城、国民の総意である。」
エドワードが手を挙げると取り巻きの一人がアレクトラへと近づいた。
「ガルテンか。」
「陛下、御無礼をいたします。」
「構わん。」
ガルテンと呼ばれた男はアレクトラの後ろへと周り、両肩に手を乗せた。
エドワードはその様子を見ると口の端を上げた。
「やれ。」
「はっ!」
ガルテンは掛け声と共に両肩に置いた手を動かした。肩から首、頭の付け根から再び肩、そして肩甲骨へと力強く揉んでいく。
「おおう、ほほっ、ああ。」
圧倒的なガルテンの力の前にアレクトラは屈服し、苦悶の声を上げる。
「どうだ、ガルテン。」
「はっ、この様子、間違いなく、働きすぎでございます。」
エドワードはしたり顔で頷く。
「やはりか、かくなる上は・・・・・・ヨシュア!!」
「はっ!」
エドワードの声にさらに取り巻きの一人が反応する。
「アレクトラ三世を例の場所へ連れて行け!!」
「どこへ連れて行くつもりだ。」
「行けばわかりますよ。それよりもアレクトラ三世、いや、もはやあなたはただの人となる。父上と呼ばせてもらいましょう。父上、あなたには明日この城から出て行ってもらいます。最高級の護衛と同じく最上位のメイド、それと充分な路銀を渡します。どうぞ、どこへなりとも行ってください。」
「わしがおらねばこの国はたちいか「行きますよ。」
エドワードは顔に嘲笑を浮かべた。
「あなたがいなくてもこの国は大丈夫です。そのようにしました。母上が死んでから、他と距離をとったあなたは気付いていないでしょうが、皆で、そのようにしました。」
「・・・・・・そうか。」
エドワードの言葉にアレクトラは肩を落とした。立ち上がり、ヨシュアに腕を掴まれたアレクトラは肩をを揉み続けるガルテンと共に扉の方へと向かった。
「フレクト財務卿、宰相マルト・・・・・・連れて行け。」
「「はっ。」」
エドワードの言葉にさらに二人の取り巻きが頭を下げ、アレクトラの左右についた。そして五人はそのまま扉の向こうへと消え、執務室の中にはエドワードだけが残された。
エドワードはしばらくアレクトラの背中を見送っていたが、その姿が見えなくなると先ほどまでアレクトラが座っていた机へと近づいた。
再び訪れた静寂を持て余すかのように指先で机の端をなぞる。
「父上・・・・・・お疲れ様でございました。」
蝋燭の火だけが、変わらずジリジリと揺れていた。
続きが気になる!面白かった!!という方は是非とも評価よろしくお願いいたします!!
次回は部屋から出ていった五人の話。