痕跡
いよいよ探索開始です。何が出てくるか、実は私も楽しみに書いています。
5.痕跡
トリューブ礫星団に向かうアークフェニックス艦長室で、ギンガがイリーゼに質問していた。
「スター・マインドの記憶について教えて欲しんだよ」。
「いいですよ。まず、マジュ粒子が空間記憶を形成できるということは、この前話しました」。
「聞いた。それも詳しく聞きたいが次の機会にしよう」。
「スター・マインドは、本質はエネルギー生命体ですから記憶は自分のマジュ粒子で空間記憶として形成します。精霊姫のときは、母様の空間記憶の一部を使っていて、スター・マインドとして独立するときに自分の空間記憶を作り、母様の記憶の全コピーを引き継ぐの。だから、母様のそのまた先代の記憶も引き継ぎます。でも引継ぎ後の母様の記憶は引き継げないのですけれど」。
「イリーゼ。もしかして、始まりのスター・マインドの記憶も持っているのか?!」。
「当たり前じゃないですか」。
「当たり前って・・・」。
「続けます。マジュ粒子は素粒子として非常に安定しているので、ほぼ欠損を起こしません。故にマジュ粒子を扱える能力さえあれば、空間記憶が存在している場所では読み取れます」。
「新たに旅立ったスター・マインドは、かつて存在したスター・マインドの記憶から情報を得て自分の星を決めるのか?」。
「その参考にはなりますね。母様もそうやってあの星にたどり着いたみたいですよ」。
「それは接近すれば、そこに空間記憶が存在するということが判るのか?」。
「マジュ粒子が反応しますから、今の私では一光年程度の範囲であれば解ります」。
「‥すごいな。いままでの間に検知できたことはあるのか?」。
「今のところはありません。始祖スター・マインドから私は10代目。9代目の母様までで私以前に旅立ったスター・マインドは255体です。初めの3世代まではかなり頻繁に旅立っていますが、その後は一桁台です。まあ一代でどの程度旅立たせるのかはわかりませんけど」。
「どんな内容が記録されているんだ?」。
「自分の分はスター・マインドに進化してからの記憶なの。星に宿るまではトピックスはほとんどないから移動経路の情報くらいね。宿ってからは産み出した種族に関して成長とあるならば終焉。そして娘である精霊姫たちの情報という感じ、かな。それが世代ごと繋がっている」。
「移動ルートもわかるんだな?」。
「そうね。でも。私の記憶に目的の場所の情報はないわね」。
「ところで、始祖スター・マインドはどんな星に宿っていたんだ?」。
「それが、よくわからないの。始祖は記憶も曖昧。ものすごいエネルギーが流れ込んでいる感じがあって、そのため精霊姫と言うか直接スター・マインドを産んでいたような感じです。意識もはっきりしないところがあります。二代目もかなり曖昧。エネルギーの流入はすごかったようです。三代目になってようやくスター・マインドとして明確な意識が出てきています。三代目は巨大な恒星に宿っていたようです」。
「??スター・マインドは恒星にも宿れるのか??」。
「当然です」。
「もしかしたら、恒星には恒星スター・マインドの産み出した生命体がいるということか?」。
「当然です。それが何か?」。
「いや、今までそういう生命体と接触した記録は無くてね」。
「きっとこれから出会うことになると思いますよ。何よりギンガがそういう生命体になりつつあるかもしれないじゃないですか?」。
「??そういう意味なのか??」。
ギンガにとってとんでもない情報が次々と明かされているようだ。
『15分で星系内に到達します』。
「第6惑星軌道付近でハイパーディメンジョンアウト」。
『了解』。
通常空間に戻ると早速イリーゼが空間記憶の探索に取り掛かった。
しばらくして、
「あった。でも想定していたものとは違うわね」。
「何?」。
「私から聞くより、自分で読んだほうが早いわ。フュージョンしましょう」。
イリーゼとギンガはフュージョンする。
ギンガは空間記憶なるモノに初めて遭遇する。それは、歴史を時間の経過と同時に見ているかのようなものだった。実際には一瞬で自分の中に入って来たかのようなものでもあった。
問題は、その記憶がスター・マインドのモノでもなく、スター・マインドが変化したイーヴィル・ダストのモノでもなかった、と言う点である。
記録のためファミリーに説明した内容は、この空間記憶はイーヴィル・ダストのモノであるということから始まる。
記憶の内容は衝撃的だった。
・イーヴィル・ダストは、クラインが語ったようなスター・マインドが変質したモノではなく、初めからイーヴィル・ダストであったということ。つまり、始祖イーヴィル・ダストの記憶であるということ
・イーヴィル・ダストはただ眺めているだけ。なんの干渉もしない。
・イーヴィル・ダストは、文明がある閾値を超えると記憶を切り離してその場を離れる。
・切り離された記憶はその場所に留まり、紛れ込んだ生命体に強烈な破壊衝動を注入する。
・破壊の権化と化した生命体は、閾値を超えた文明を自分諸共破壊する。
・その破壊衝動に浸食されないのは、おそらくスター・マインドのみ。
『クライン・シュバルツもここで破壊衝動を増幅されたわけですね』。
ファザーの指摘にギンガが答えて、
「ここで取りつかれたという確証はないがおそらくそうだろう」。
『ギンガがその破壊衝動の影響を受けないのは?』。
マザーの質問にはイリーゼが答える。
「私とフュージョン可能と言うことは、スター・マインドに匹敵する精神キャパシティを持っているということです。そのため無効化できるのだと思います。より正確には、イーヴィル・ダストの記憶が浸食しようとしないと言ったほうが正しいと思います」。
『どういうことでしょうか?』。
「イーヴィル・ダストとスター・マインドは対立するモノではない、ということでしょう。スター・マインドは生命体、特に知的生命体を育み、イーヴィル・ダストはその知的生命体が行き過ぎて破壊の使徒となった時その自滅を促すリセッターの役目を持っているのではないでしょうか?」。
「リセッターか・・・」。
『どうしたのですか?』
今度はシスターがギンガが考え込んでいることに気が付いた。
「イーヴィル・ダストは、記憶を残している。つまり自分の記憶もリセットしているのではないのか?」。
「そうですね。マジュ粒子で作った空間記憶はそのまま自分で持っていけます。それをしていないということは、自分の記憶をリセットしていますね」。
「なぜリセットするのでしょう?われわれAIはメモリこそが自分の存在に価値を与えます。リセットは時間の無駄なのではないですか?』。
ブラザーは理解できないというようにかなり激しく主張する。
「イーヴィル・ダストの存在意味がリセッターならば説明がつくと思う。文明のリセットは重大な結果をもたらす。判断ミスは許されない。記憶があるということは過去の事象と照合する子になる。それは予断だ。今生じている事実でなく、イーヴィル・ダストのシミュレーションで結論を出すことだ。それは許されないことじゃないかな」。
「だから、記憶もリセットする・・・。スター・マインドは、イーヴィル・ダストとは、何なのでしょうか?」。
イリーゼの疑問に答えるものなかった。
しばらくして、ギンガが、今後の方針を明確にする。
「それもこれから調べるんだ。私たちがすべきことは、イーヴィル・ダストの記憶の回収と今もどこかで観察を続けているイーヴィル・ダスト自身の確保だ」。
よろしければ、ブクマ・評価をお願いします。