ラーノ奮闘す
いよいよ物語の佳境の入り口です。いろいろ捻ったつもりですがただのひねくれに終わるかもしれませんが・・・。
46.ラーノ奮闘す
いま、私はアークフェニックスの司令席に座っている。
ギンガは今、六連星系の中枢で六人のスター・マインドの力を借りてマジュ粒子を生成・蓄積している。だから、カタチの上でもアークフェニックスの指揮を執るのは私ということになる。
能力、経験ともファミリーのほうが圧倒的に上ではある。しかし、人というのは妙な生命体である。AIを肝心な時に信用しないのだ。普段はベッタリ頼っているのにね。ということで、見かけ上の指揮官は私、このラーノさんである。そして、私はベッタリとファミリーに頼っているというわけ。
一応、権限はある、新米ギャラクシー・コマンダーの私でも、法律上の非常時全権指揮権は持てる。あと必要なのは度胸だけだ。
『まもなく、ラクエンド本星周回軌道に到着します』。
ファザーの報告に気合を入れなおす。
「シスター、直ちに主席とコンタクトしてください」。
『了解』。
直ちにリンクが開かれ、スクリーンに主席が映し出される。
「君は確かラクエンド駐在のコマンダー・ラーノ・・だったかな?」。
「はい、ラーノです。現在、作戦の指揮を執っています」。
「君が?・・コマンダー・ギンガはどうしたのだ?」。
「コマンダー・ギンガは、自ら治療宇宙線照射のため準備中です」。
治療という言葉を聞いた途端、主席の表情が明るくなる。まあ、本人も首の部分に静止属性による黒色病変が出ている以上やむを得ないだろう。
「治療できるのかね?ラーノ君」。
勢い込むように聞いてくる主席に頷きながら、
「可能です。私がその事例です。腕に出ていた黒色病変は消失しました。副反応などは出ていません」。
「そうか!」。
「で、どうすれば良いのだ?ラーノ君。どこかに人を集めれば良いのかね?」。
「何も必要ありません。惑星全体に照射します。宇宙線自体ニュートリノ同様に惑星を貫通します。一人ひとり照射していては時間がかかりすぎます。・・ギンガの試算では感染から10日で死亡となるほど、病状は深刻です。すでに使者が出始めているのではないですか?」。
主席の顔が曇る。
「うむ。その通りだ。だが、いまの話だと全市民に照射するということなのだね」。
「はい。問題があるとすれば、封鎖前にラクエンド外に出た人だけです」。
「その件については、至急追跡させよう」。
「非常に重要です。よろしくお願いします」。
続いて、封鎖艦隊司令にコンタクト。状況を説明する。司令の表情も明るくなる。
「感染リスクが疑われる艦船がいるなら、ラクエンド近くに配置をお願いします」。
「了解だ」。
「非感染者が放射線を浴びても問題ないと思われますが、感染者にとっては致命的です。命令を徹底してください」。
「わかった。コマンダー・ギンガに、期待している、と伝えてくれ」。
「必ず伝えます」。
準備は整った。あとは頼みましたよ、ボス!
あてにされたギンガは、六連星系の中枢でマジュ粒子の蓄積中だった。
『なぜラクエンドで【リセットの意思】が発動したのか、解っているの?』。
この時間を使ってリュミエルが質問してきた。
「これは推定の域を出ないのですが、寿命を延ばすというのがトリガーの一つなのは非常に可能性が高いと思います」。
『私たちスターマインドにとっては、宿る星の寿命が自分の寿命。あまりピンとこないけど』。
『そうね。フレアーノたちもあまり寿命にこだわってないし』。
若い?エスポ―とオランジェが本当にピンと来ていない雰囲気で話している。
「私たちのような人は長くはない寿命をどう生きるかが大事です。でも、それが大幅に長くなるというと・・」。
「ギンガはもう関係ないんだけど、人はどうなるの?」。
イルミがさらっと伝えてくる。
「何かはっきりした目標を持てるならば良いんだろうが・・・。時間の使い方を今まで未経験だから、ろくでもないことを始めるか可能性が高い」。
「それは、侵略だ。他の星の生命を害することを始めるだらう。残念なことだけどね」。
「そんな・・・」。
「きっと与えられた寿命を何らかの方法で伸ばし、その結果他の星の生命を害するようになる、それをイーヴィル・ダストはジャアクが生まれたと判断するんじゃないかしら」。
イリーゼも同じ結論に達したようだ。
「この事件を解決したら、その仮説を追跡する必要があるんだ」。
『私たちスターマインドは生命を生み出す母』
『イーヴィル・ダストは、生まれた生命が誤った時にそれを糺す役目。そういう補完的な役割なのかもしれないわね』。
ロクサとシャルーが静かに意思を紡ぐ。
『ギンガの探索の先に私たちがこの宇宙に送り出された意味、大いなる意思の願いも見えるかもしれ無いわね』。
スターマインドたちも自分の存在の答えを求めていたのだ。
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