試し斬り
刀の話なら試し斬りも描かないとダメでしょう、ということで書いてみました。
3.試し斬り
太刀が生み出された翌日、ギンガとイリーゼは早速、実験衛星に来ていた。
実験衛星アペンド。ウィルスターのくっついて浮遊している衛星のようなもの。実は自律航行可能な巨大宇宙船だがそんな使い方をしたことはないし、アペンドとも誰も呼ばない。住人はオマケと呼んでいるし、ギンガとファミリーは実験衛星と呼んでいる。新しく作ったもののお試しをやる無人環境だ。内部もそうだが外部にも空気があり呼吸可能。人間の生存環境でのお試しにはちょうど良い。
「殺風景ですね。あっ、あそこにお花がある」。
ごつごつした岩の地表を眺めながら、イリーゼが感想を言う。
「それも実験だからな。その小さな花畑は新たに発見された種で、医薬品の原料になる可能性がある。ただ、毒素も含んでいるんで、ここで試験的に栽培しているんだ」。
説明をしながら荒れ地エリアにやってきた。
まず、気迅を鞘走らせて構えてみる。
「これはこれでしっくりくるんだよな。・・・ふん!」。
パチッ!音がして10mほど先の岩の表面が弾ける。
「ん?何もしてないのに?」。
「真空波が飛びました」。
四属性の状況をセンシングできるイリーゼが教えてくれる。
「こんな現象は今までなっかたが・・・」。
「鍛冶のレベルが上がったか、ギンガの刀術が上達したか、その両方かも知れませんが」。
お試しなので、気迅に気を流してみる。その瞬間、刀身が光に包まれ2倍くらいの長さになったように見えた。
「ほう!」。
そのまま、気だけで形成された刃の部分で岩を払ってみる。音もなく刃は岩の表面を撫で、しばらくしてずれ落ちた。切り口は磨いた表面のように滑らかだった。
「厚みの無い刃で斬ったようです」。
淡々と状況を伝えるイリーゼの言葉に目が点になるギンガ。メカ体で同行していたファミリーがセンシング内容を検討し始める。
『メカ体の映像回路にも刃の延長部分は写っています』。
メカ体を管理するシスターが検討課題を提起すると、マザーがその部分のセンサー内容を補足する。
『データ上は何も存在しません。センサーには名にも反応無し』。
続いて切断部分を調べていたブラザーが報告。
『強力なレーザーカッターもしくは高周波カッターで斬ったような状態です。水圧カッターもしくは空圧カッターによる断面よりも切断ムラ無し』。
以上に申告内容をまとめてファザーがギンガとイリーゼに報告する。
『今の切断は私たちには検知できない何か、による一種の波動カッターと想定されます。波動は気と推定されますが、その伝導物質も反応がありませんでした。よって、これは予測ですが、真空中でも切断事象が発生すると考えられます』。
「ひょっとして、私の自信の肉体、腕や拳、足と同様の使い方ができるってことか?そいつは良いぜ」。
「そうすると、煌刃だとどうなるの?」。
「もしかすると私一人では使えない、かも・・・」。
試しにギンガは煌刃を握り鞘から抜こうとするが、・・・ビクともしない。
「やっぱりな。まるで煌刃が意思を持っているかのように抜けない」。
「持っているかのように、ではなくて意思を持っているのです」。
「・・・」。
太刀が意思を持つというイリーゼの指摘に、ギンガが眉をしかめていると、マザーがあることを想起させた。
『お二人が太刀を形成している時、真マジュ粒子により太刀に生命反応らしきものが現れていました。現状は反応はありませんが、それが関係している可能性があります』。
「ということは、フュージョンしないと抜くこともできないか。・・・ん?もしかして煌刃は、斬る、こともできないかもしれないな」。
おかしなことを言いだしたギンガにブラザーが質問する。
『煌刃は武器なのではないですか?』。
「煌刃は太刀だ。武器として作ったが、生命を持ったのなら意思があるかもしれない。そこには自らの使い方も主張するかもしれない、ということさ。君たちファミリーと同じようにね」。
『私たちと同じ・・・?』。
ギンガの言葉に4体のAIは衝撃を受けていた。超高速会話を行い始める。あらゆる可能性を検討し始めたようだ。
「意思を確認できるかもしれないから、フュージョンしてみるかい?」。
「もちろんです」。
「「フュージョン!」」。
二人が融合したギンガが再び煌刃を握る。その瞬間、煌刃から光が迸り自らの意思で鞘走る。その時、ギンガとイリーゼは煌刃の意思を知った。
キンッ!
隅渡るような音色を残し、鞘に収まる煌刃。ギンガとイリーゼもフュージョンを解いた。
「なるほど、そういうことか」。
呟くギンガに、イリーゼが微笑んで頷く。
『なんと?』
ファミリー4体が一致して聞いてくる。
「希望を守る。そのために虚無の意思を斬る、そうだ」。
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