絶望の序曲
ここから第4部分に入ります。起承転結ではなく、起承展転決のような構成になります。展とは承を補強するものという意味です。勝手に作りました。
38.絶望の序曲
少しばかり時間を遡る。
ラーノは、ラクエンド科学アカデミーへ向かっていた。いろいろ理由をつけて、宇宙遺跡調査隊へのヒアリングを渋る科学省を何とか説得し、2時間ほどだが副隊長と記録係との面談にこぎつけた。【魔帝の乱】で地に墜ちたギャラクシー・コマンダーの権威では、必要な調査すら儘ならない。コマンダー・ギンガの指示から推測すると、この調査は非常に重要のようだ。
昨日発表されたコマンダー・クラインの死亡は大きな驚きをもたらした。そしてその凶行というにはあまりのも凄まじい殺戮の原因がまだ調査中ということは、私たちギャラクシー・コマンダーの肩身を非常に狭いものとしている。とは言え、先日説明を受けた【リセットの意思】など現段階で公表できるはずもない。だいたい、スター・マインドなど誰も信じないだろう。私も信じられないが、コマンダー・ギンガが虚偽の情報を流すはずはない。ということは、それは事実なのだろう。
「お時間をいただき、ありがとうございます。ギャラクシー・コマンダーのラーノと申します」。
挨拶から始まるが、副隊長は不機嫌な表情を隠しもせず、はやく要件を言えと促す。記録係の若い女性は俯いてその表情は窺えない。
ラーノは、遺跡で採取した資料あるいはその保管方法、管理手続きを順番に聞いていく。
「こんな、くだらない質問で私の邪魔をしないでくれ!」。
突然、副隊長は怒りだした。そして部屋から出て行ってしまった。
「すいません」。
あまり、すまないと思っていないような口調で記録係が謝る。
「はぁ。・・ところであなたも調査隊には参加されたのですか?」。
深い溜息をついて、ラーノは記録係の女性に尋ねる。
「そうです。申し遅れましたが、アカデミー・ライブラリの司書をしているレーニアと申します。今回の調査にはサンプルの管理と会議記録の保存のため参加していました」。
「よかった。貴女に確認すれば私の任務は終了です。残る質問は一つ、資料の置かれている環境は、高度密閉環境になっていますか?」。
「そんな必要性は認識していません。したがって、通気されている隔離環境です」。
「んーー。採取後に異質生体除染措置は取りましたか?」。
「遺跡は真空の環境にありました。その必要は無いと思います」。
「惑星上である限り、真の意味での真空には該当しません。わたしや、あなた、あるいはこの惑星の生命体にとっては即死するような環境ですが、だからと言って真空とは言えません。そこは留意しておいてください」。
「わかりました」。
「大変失礼な質問ですが、隊員が資料を私物化しているということは無いでしょうね?」。
「それは重大な規律違反です。ないはずです」。
「ない、はず?・・常に確認する手順は無いのですか?」。
「・・・ありません」。
「ヒアリングは以上です。資料の除染が気なる旨の意見書をアカデミーに提出します。まあ、副隊長の対応を見れば無視されるような気もしますが」。
「ヒアリング、ご苦労様です。・・ですが、ギャラクシー・コマンダーは何を気にされているのでしょうか?」。
「申し訳ありません。機密につきお答えできないのです」。
「魔帝の乱に関係することではありませんか?」。
「機密につきお答えできません。そんな関連付けは意外です」。
「そうですか。・・遺跡は何の破壊も見られない。非常にきれいな状態でしたので・・」
「きれいな状態?」
「真空と申し上げた理由です。これ以上は私もお話しできません。調査報告をお待ちください」。
「・・わかりました。ご協力に感謝します」。
ラーノはアカデミーを後にした。
今のところ問題は発生していない。しかし気になる。資料が気密密閉されていない点だ。確かにあの遺跡には大気が無いとされている。しかし、コマンダー・ギンガの説明を聞いた以上そこが気になって仕方がない。
といことは、ギンガに報告を入れておこう。
ラーノからの報告書が届いた。彼女の指摘事項、つまり資料の密閉保管がされていない点が気になるというのは良い着眼点だ。ということで、次の指令を出す。細菌ないし生命痕跡を採取していないか、について調査を指示した。
ギンガからの指示が来た。また妙なものに言及している。細菌?そんなもの存在できないだろう?生命痕跡?何のことだ?
一緒にギャラクシー・コマンダー・ライブラリのインデクスが付いている。これを読めと言うことらしい。
生命痕跡とは、遺伝子の一部のようなものを指しているようだ。ギンガと彼の創造した統合システム・ファミリーの推測によれば、【リセットの意思】はターゲットとする生命体ないしその周辺の生命体に変異を起こさせる、らしい。ということは、遺伝子に取り込まれて変異を起こさせるのではないか?、という仮説らしい。遺伝子の一部なら、大気が無かろうと過酷な環境にさらされようと残っている可能性がある。
こういうものに興味を持つ者と言えば、生物学者、鉱物学者かな。と思って名簿を見ると、該当するのは二人。一人は、あの副隊長だ。なるほど名乗りもしないで退席したが、ルント氏か。あの態度は要注意だ。もう一人は、若手の女性で名はロロロ、生物系統分類学が専門だった。
ラーノは、本命をルント氏に定め、調査を開始した。
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