恒星精霊姫
ここから第三部に入ります。起承転結の転なんですが、ストーリー上の転はもう少し先に設定しています。いつもより長いです。
27.恒星精霊姫
リュミエル達はかなり盛り上がっていて、早々に通信を切って準備に入ったようだ。特に末っ子オランジェは初めての精霊姫を生み出すようでものすごい張り切りようだった。
アークエンジェルは逆にまったりとした時間が流れていた。ファミリーは精霊姫たちをどう観察するかを高速会話しているようだ。
クルルとイリーゼは、楽しそうに母娘の会話をしている。
『イリーゼ、面白くなってきたわね。あなたをギンガのところに行かせてホントに良かったわ』。
「私は自分たち以外の精霊姫とは初めてですので楽しみです。でも、太りの母様から生まれたのではない六精霊姫なんて聞いたことありません』。
『私だってないわよ。今まで宇宙のどこかで複数のスター・マインドが六精霊姫を生み出したことはあったかもしれないけど、六人全部なんて、ね。ここにも連れて来てね、絶対よ!』。
郵便屋兼託児所になったな、のんびりとギンガは考えていた。
六連星系に向かう前に、ラクエンド星系駐在のラーノに状況を確認する。
現状特段の異常は無し。内容はまだ発表されていないが、いくつかの発見があり、評価後発表のスケジュールになっていると報告があった。コマンダーなら中身の確認が許可されているので、慎重に確認するよう指示。
とは言え、なにか・・何かが引っ掛かっているギンガだった。
最近頻繁にに来ているような気がしている(事実そうなのだが)六連星系である。
到着と同時にメカ体が起動する。今回違うのはそれぞれの肩や手、頭に精霊姫がtyコント乗っていることである。
「あっ!居る!」。
妙なテンションでカラルの頭に乗っていた精霊姫がギンガのもとに飛んでくる。
ギンガの正面に浮かぶと、丁寧にお辞儀をしてくる。
「ルチェです。光属性です。よろしくお願いします」。
するといつの間にか黒髪の精霊姫がギンガの肩に乗っていた。
「これが、気、なの?変わった感触ね」。
味わうように目を閉じていたが、再び開いて、
「私はネーロ。闇属性」。
そのまま胸ポケットに滑り込むとそこを占領した。
他の四属性たちは、イリーゼに纏わりついていた。すでに自己紹介をしてギンガに紹介しろとせっついているようだ。生み出した六人のスター・マインドは興味深そうにそれを眺めてコソコソ話をしている。
『みんな引っ込み思案ね』。
『礼儀がなっていませんね。四人を甘やかし過ぎましたね、ふぅ―』。
どうやらギンガのもとに挨拶に来た二人は、リュミエルとカラルの精霊姫のようだ。
四姉妹は黙って自分の精霊姫を注視しているようだ。
四人と話していたイリーゼがやってくる。
「はい、ちゃんと並んで}。
まさしく幼い子供たちを引率する先生である。
「じゃあ、オーレ、自己紹介」。
「オーレです。次元属性です!オランジェ母様から生まれました!」。
元気だ。それしかない。
「はい、次はテポ」。
「・・テポ。時間属性。・・母様はエスポー」。
すごく内気に見えるが、しっかりとギンガを見ている。意外と好印象。
「続いてラヴィ」。
「はあい、ラヴィでーす。重力属性なのー。母様はぁ、シャルー母様」。
のんびりした性格だな。食いしん坊かも・・・。
「最後にパツィ、締めてね」。
「押忍!自分はパツィ。空間属性です。母はロクサです。押忍!」。
君はその言い方をどこで覚えたんだ?
「で、ルチェとネーロは?」。
「ネーロの母様はリュミエル母様」。
「私はカラル母様」。
「わかったよ。・・まず、気の循環を味わってもらおうか。私の体のどこかに触れてくれ」。
締め役(まとめ役じゃないの?)を自任しているらしいパツィがみんなに気合を入れる。
「みんな!これは私たちに対する挑戦だ!気合入れて受けて立つぜ!!」。
なんだこのノリは?と思っていると、イリーゼとリュミエル、カラルが肩を震わせている。何か遊んでるな?と呆れつつ、気を大きく練り始める。同時にファミリーのセンサーが超高精度で稼働を始めた。
「いくよ」。
循環していた気を少しづつ六人に流し始める。
「おっ?」。
「何これ?」。
「暖かい」。
「ん~?」。
「ふぁ~」。
「来た、来たー!」。
何か一人変なテンションだ。わかりやすい、お判りでしょう?あの子です。
見ている親たちは感心してイリーゼにいろいろ質問している。
『へぇー、これが気、と言うモノかい?なかなかおもしろいねぇ』。
『うまく取り込めれば、相当パワーが上がりそうね』。
年長組は結構客観的に観ているようだ。
『私たちもデータを取っておりますが、マジュ粒子を解析できずにおります。パワーが上がるということはどういうことなのでしょうか?』。
今度はマザーがカラルに質問をしている。
『あなた達が言うところのマジュ粒子、その属性はスピンのパターンが異なるんだけど、あの気っていうのはそのスピン速度を上げるように見えるんだよ』。
そこにリュミエルが補足する。
『この前、ギンガとイリーゼがフュージョンしていた時は、そのスピンが全方向に超高速スピンしているように見えたんだよ。正確に言うと私たちにも見えない速度だった、ということだね』。
『スター・マインドにも見えない速度?これは重要な情報だ。ありがとうございます』。
ブラザーが興奮している。ファミリーはまた高速会話をさらに加速させているようだ。
『すごいわねぇ』。
『キラキラしているよ』。
『興味深い』。
『・・・(ドキドキ)』。
四姉妹はおとなしい。
小一時間ほどして、いったん休憩に入る。イリーゼがさっとお茶会を整える。最近のスムーズさは目を見張るものがある。完璧と言ってよいだろう。
で、問題は六精霊姫である。もちろん初めてのお茶会。しかもクッキーが山盛りになって出てきた。当然六人ともクッキーの山に突進!
さすが、それぞれの母親に怒られている。ギンガは家庭の教育に口出しをするほど野暮ではない。ゆっくりお茶を楽しんでいた。
すると、締め役パツィがフヨフヨと飛んできて、ギンガの前でふんぞり返る。そしてギンガを指さして、
「お前の気の力で私はパワーアップした。さらなるパワーアップを目指して協力を要請する」。
実に偉そうな態度にギンガの目が一瞬点になる。
ロクサが娘を怒ろうと立ち上がろうとするのを制して、
「ほう、どんな力か見せてもらえるのか?」。
「良いぞ。ここでやれば良いのか?」。
「いや、ここで騒ぐとイリーゼに怒られるぞ。トレーニングルームへ行こう」。
ということで、艦内のフィジカルトレーニングルームにやってきた。
ここでは、重力制御や温度、その他の環境をコントロールして訓練をすることができる。ルーム自体に強力なシールドとショックアブソーバが装備されていて相当激しい訓練も可能である。面白そうだ、という理由で全員ついてきた。というか、スター・マインドたちは、お茶のテーブルごと移動である。艦内は当然そういう移送もできる。
パツィはふんぞり返ってギンガの前方15メートルくらいの場所に浮かんでいる。
ギンガはニヤリと笑い、片手をあげて来いよ、とばかりに挑発する。
予想通り怒ってヴォルテージの上がるパツィ。
『あらあら、挑発に乗っちゃって』。
カラルのコメントに、あ~あとばかり視線を逸らすロクサ。
『でもギンガは、空間属性の性質は知らないはず』。
『そこにつけこむスキがあるかもね』。
「ギンガの戦闘センスを甘く見ないほうがよろしいですよ」。
シャルーとエスポーの鑑定に、イリーゼがニコニコしながら注意点を指摘する。
オランジェは緊張しているのか、じっと見つめているだけ。
「いくぜ!」。発生と同時にパツィの姿が消え、ギンガの眼前に姿を現す。顔面にキック一閃!
タイミングはクリーンヒット!と思われたが、・・パツィはギンガに首根っこをつかまれ摘まみ上げられていた。
「くっそぅ!!負けたーー!」。
「「「「「えッ?どうなったの?」」」」」。
精霊姫たちは訳が分からず騒いでいるが、
『あなたたちには見えた?』。
カラルが娘スター・マインドたちに質問する。
四人は頷いて、代表してパツィの母親のロクサが答える。
『空間を歪曲させて瞬間移動。そのままキックに入ろうとしたけど、その前に見事に摘まみ上げられた』。
『でも、ギンガはどこに来るか分かっていたように見えたけど‥?』。
オランジェの疑問に、シャルーとエスポ―も頷く。
リュミエルが笑いながらその質問に答える
『見えていたというより判っていたというべきだね。頭に血が上ったパツィは真っ直ぐ突っ込んでくることが判っていたから、角度を瞬時に判断したんだろう?』。
最後の疑問符はイリーゼに向けられたものだ。
「それだけではないと思います。物質生命の肉体には、五感と呼ばれる感覚以外の感覚があると言われているようです。ギンガはそれを、結界、と呼んでいます」。
『フュージョンというのをしている時は、イリーゼも感じるんだろう?』。
「それが、よくわからないのです。感じているというのはあるのですが、それが何かは・・・。ギンガはそのうち判るんじゃないか、経験だな、そう言っています」。
『イリーゼのパートナーはなかなか面白いですね』。
リュミエルとイリーゼのやり取りを聞いていたカラルが感想を漏らす。
『私たちの娘もそこに加わるということでしょう?』。
オランジェが問いかけるが、カラルは微笑んで、
『それは娘たち次第。複数のスター・マインドが同じ相手に宿るなんて考えたこともない。ましてや、物質生命とフュージョンなんてね』。
『それをさせたクルルもすごいかでね』。
リュミエルも優しい声で感想を加えた。
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