帰宅
本編投稿開始です。前作より一回分の量を増やしています。
1.帰宅
アークフェニックスは母星ウィルスターに向けて航行中である。
艦長室
ギンガとイリーゼ、ファミリーは、クライン・シュバルツ事件の報告書をまとめつつ、反マジュ粒子関連の情報整理を行っていた。
「マザー、現状でイリーゼおよび真マジュ粒子の探知・解析は不可能なのだな?」。
ギンガの確認にマザーが回答する。
「肯定。正確にはファミリーとして現状で不可能です」。
「ということは、現時点では反マジュ粒子も探知・解析が不可能と推測されるな」。
「肯定。マジュ粒子に関しても素粒子の一つとして仮説が提示されているレベルです。その一部の要素が検出可能に過ぎません」。
「やはりマジュ粒子から始めるしかないのか」。
ギンガの嘆息にイリーゼが応じる。
「スター・マインドとなった私はマジュ粒子の生成が可能です。また、本来スター・マインドでは不可能な属性魔力への変換も可能です。私の行うことをトレースして行けば何かわかるのではないでしょうか?」。
「イリーゼ、正しいことを言っているが、その君を解析不能と言っているんだよ、ファミリーは。そこをどうするかなんだよ」。
「そうでしたね」。
肩を落とすイリーゼと考え込むギンガに、マザーが提案する。
「現状の解析ターゲットはギンガです」。
「「どういうこと(だ)?」」。
「イリーゼは完成された、というかさらなる進化も想定されますが、エネルギー生命体ではないかと推測します。そしてギンガは、そのエネルギー生命体への移行過程にあるのではないかと考えます」。
「何???私が?!」。
「肯定。帰還したギンガの生体反応は変化していません。しかし、解析不能な要素が存在します。例えば、”気”に関してはこれまで生命活動電位の飛躍的活性化として計測していましたが、現在では、細胞内一部組織が存在しません。にもかかわらず生命活動電位が10倍程度に向上しています」。
「物質的なものからエネルギー的何かに移行しているという仮説か?」。
「肯定。組織の消失に関して継続的アプローチが有効と判断します」。
「・・・判った。頼む、マザー」。
「続いて、クラインの言っていたイーヴィル・ダストだ。それが根源なのかはわからない。だが、他に情報がない。そこから当たるしかないだろう」。
ファザーが調査の基準点を指摘する。
「場所の情報はありませんが、クライン・シュバルツの変節直前の行動履歴と星海先史文明遺跡との照合が有効と判断します」。
「そうだな。クラインの足跡は把握できているのかい?」。
「大筋はトレースできていますが、一か月ほど足取りが消えていた期間があります。消えた時点の所在はこの地点、そして復帰はここになります」。
「消えた場所を調べよう。あらゆる情報をあたってくれ」。
「了解」。
「ウィルスター周回軌道まで15時間です」。
ファザーの声が伝える。
「今回はアークフェニックスで降りる。降下後オーバーホールし、次の作戦に備えてくれ」。
「了解」。
ウィルスターに近づいてきた。
艦長室から青い星を見ているギンガとイリーゼ。
「これが星なの?小さいし、半分しかないのね」。
「まあ、私が作った人工天体だからなぁ。自律航行も可能だ」。
イリーゼの疑問に苦笑しながら答えるギンガ。
ウィルスターはギンガの作った人工天体半径300kmほどの円形半球状。内部に強大な重力エンジンと重力航法システムを搭載している。当然強力な防衛システムを内蔵している。
「住人は2000人くらいと動物が1万頭くらいかな」。
「なぜこんなものを作ったの?普通の星を開発すればよいじゃない?」。
少し溜息をついた後、ギンガが応える。
「人に限らず、知的生命体っていうのは問題を起こす。だから面白いし、進化もある。でも、思い込みや時には自分たちの都合で他の生命体を排除しようとしたりする」。
「もしかして、人族と魔族のように?」。
「ああ。その排除された種族は滅ぶしかなくなることもある」。
「それで、そのようない生命を連れてくるために作ったのね」。
「ささやかではあるがね。他の星に連れて行ってもそこでも問題が起きてしまう。だったら、星を作ったほうが早いと思ってね」。
「それで良いのかしら?」。
「良くないさ。それらの命が自分たちで自らの未来を決められるようになったらその時考えるしかないな」。
「すぐにイーヴィル・ダストの調査に行かないの?」
「しばらくアークフェニックスを離れていたからな。艦体を点検したい。それと、刀を折っちゃったからな。一本打つ予定だ」。
「鍛冶やるの?私もやりたい!」。
「そうだな、一緒にやるか。今までは気で練成していたが、ひょっとして真マジュ粒子でできないかなぁ」。
「チャレンジね!」。
「着水します」。
陸地から少し離れた海(と設定されている水域、塩分はある)に着水し、そのまま潜水。あまり深くは潜航せず、海中を陸地に向かう。
しばらく潜水航行して、屋敷の地下に連絡する海底ドックに入る。艦を下りると、メンテナンスマシーンたちが集合していたので支持を出す。後はオートカートで屋敷まですぐだ。
眼を丸くして楽しんでいるイリーゼに、
「時間はいくらでもある。何で動くのかとか、ゆっくり勉強すれば良いさ。私自身今でも日々勉強さ」。
嬉しそうに微笑むイリーゼ。やる気は満々だ。
屋敷に着くとお茶の準備ができていたが、庭で飲むことにする。
庭に出ると体高2メートルはあろうかという青い狼のような生物が2頭駆けてきてギンガにじゃれつく。そして、イリーゼをじっと見つめた後お腹を上にして寝転がる。
「認めてくれたようですね」。
笑いながら二頭のお腹を撫でるイリーゼ。二・ああ、それで群れに居られなくなったのね。それでギンガに誘われてここに来たのね」。
「完全に会話が成立しているな」。
「私の中にはラージャもいるからかしら」。
ダイとセイも会話ができることに満足したのかイリーゼの両サイドに座ってまるで護衛のように気取っている。おもしろい奴らである。なお、ダイが雄、セイが雌で番である。
「ん?何かセイのお腹が大きくないか?」
「やっと気が付いたの?もうじき生まれるわ」。
「そうか。ダイ、セイ、おめでとう」。
ギンガの祝福にに頭とも満足そうであった。
ギンガの屋敷に住んでいるのは彼らだけで、紹介はこれで終了した。
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