不可解な接触
特に章立てを明示してはいませんが、今回の話で第一章「起」の部分の区切りをつけます。続いて第二章「承」に入ります。展開を期待していただけるとありがたいです。
16.不可解な接触
アークフェニックスは、指定空間に到着。そこから、再度探査をかける計画だったが、一発で大当たりを引いていた。
「お姉さまいらっしゃいます」。
いつも通りのイリーゼの宣言である。
すると、どことなくルオーブに似た感じのイメージが浮かび上がる。例によって空間記憶の交換から始まるようだ。
『まあ、母様と会ってきたのね。でも、まず私にも名前とメカ体をお願いしますね』。
想定された流れだ。
「こちらからも確認させてください。シスター、文明状況探査は?」。
『第三惑星と第四惑星に文明活動を確認。ハイパー系振動は確認されません。星系内文明度レベルⅡと判定』。
「かなり、進んでますね。ルオーブ星系より数百年か。まあ、バックボーン文化も関係するんだが」。
『早く私の名前!』。
「スピリット・ルエーニ、で如何ですか?」。
『やったー!私はルエーニ。私も母様のようにルエーニの名を広めるわ。ちなみに今までは、ただの母なる神、なの』。
「星に名前は無いのですか?二つの惑星があるのですから区別していると思いますが」。
『第三惑星が私が宿る星ね。地球と呼んでいるわ。開拓した第四惑星は気温が低いから氷球よ」。
ここで、マザーから、
『メカ体の準備が出来ました」。
外見を整備した新しいメカ体が現れる。
『わーお』。
早速ルエーニが憑依しあちこちチェックを始めた。
その間に恒例(いつ恒例になったのだろうか?)のお茶をイリーゼが準備する。
「お姉さま、お茶が入りました」。
『まあ、これが記憶にあったお茶なのね。・・・ーん、良い香り?初めての感覚ね。面白いわ』。
「お姉さまの星ではお茶は無いのですか?」。
『注意していなかったからわからないわ。今度調べておくわね』。
当然また来る、という前提になっていた。
『当然よ。今まで記憶交換など考えもしなかったけど、いろいろ面白いわ。母様のことも知ることができたし。そう言えば、あの変なのとも話したっけ』。
そら来た。やっぱり話ができるんだ。
「お姉さま、私たちはそのイーヴィル・ダスト、私たちはそう呼んでます、とのお話の内容をお聞きしたいのです」。
『ふーん、良いわよ』。
『母様の星を旅立って、すぐに出会ったわ。マジュ粒子って呼んでるんだっけ?そのマジュ粒子を纏っている意識体にあったわ』。
「意識体?物質元素部分は無いのですか?」。
『なかったと思う。でもマジュ粒子だけではなかったようだけど』。
『いきなり挨拶されたわ。私たち、スター・マインドだっけ?、のことは知っていたわ。あいつが最初に言ったのは、【原初の母よ、後学のために見ていくか?】だったわ』。
「原初の母?気になるがそれは後だ。そのあと何か言ってましたか?」。
『そうねぇ、【正しい知性を育み、ジャアクに取りつかれない生命を育てよ。ジャアクは必ずハカイの意思に目覚め、宇宙のハカイのシトを産み出す。それを防ぐ命を育てよ】、そんなことを言っていたと思う』。
ジャアク?邪悪のことか?ハカイのシト?情報が少なすぎる。慎重な検討が必要だ。
『その星の生命体が他の惑星に移り始めて増えていったとき、あれは言ったわ。【ジャアクが生まれた。浄化を開始する】、そう言って記憶を切り離して行ってしまったわ』。
「お姉さまはどうしたの?」。
『イーヴィル・ダストの言っていることが判らないのでしばらく見ていることにしたの。記憶を切り離して無垢の状態で行ってしまったことも不可解だったしね』。
『しばらく観察していたら、生命の中に何か嫌な感じを持つものが増えてきたの。これは増えてはいけないと感じたわ。それが何かわからないけど』。
「それは反マジュ粒子ではないのですか?」。
『反マジュ粒子?イリーゼの記憶にあったやつね。違うわ。反マジュ粒子はマジュ粒子が変質したもの。それなら判るわ。でも、あの嫌なものが何かは判らなかった』。
『そのうち生命体があれの残した空間記憶、【リセットの意思】?、に接触したわ。その時、生命体の連れていた別の生命体に変化が起こったの。非常に温厚な生命体で知的生命体に従っていたのに、急速に嫌な感じが広がっていき、全ての生命体が滅んだ。最後は食い合ってね』。
『そこまで見て、私は星探しを再開しここに来たの。あの滅びは強烈だったわ。あんなことにならないように慎重に子供たちを育ててるわ。いまのところ大丈夫かな』。
なかなか参考になる内容が散見される話ではあった。
整理してみると、
(1)イーヴィル・ダストはスター・マインドのことを知っている。
(2)遭遇しない限り、スター・マインドはイーヴィル・ダストのことを知らない。
(3)イーヴィル・ダストはスター・マインドに敵意は無い。
(4)ジャアクという何らかの変異要素が存在し、イーヴィル・ダストはそれを監視している。
(5)ジャアクは、知的生命体に危険な作用を齎すらしい。
(6)【リセットの意思】はジャアク排除の手段である。
(7)【リセットの意思】は、初期の知的生命体にも作用するようだ。
いずれもこれまでの情報とは意味合いが違う。そもそもイーヴィル・ダストという命名がそぐわなくなってきている。そして、さらに一つの推論が成立する。
「宇宙に知的生命を誕生させ成長させようとする何らかの意思の存在を推測したが、この意思と拮抗ないし対立する意思の存在が暗示されているようだ。ジャアクとはその対立意思に関係している可能性がある」。
非常に難しい状況である。ギンガは何か試されている感覚を抱いていた。何を試されているのか?、何のためか?など判らないことだらけだ。しかし何一つ放置してはいけないという警鐘を強烈に感じていた。
星海連合加盟が近い文明近辺に長居は禁止事項である。ルエーニに再訪を約して星系を離れる。星々を眺めながら、そしてイリーゼのお茶を味わいながら、ギンガは深く思考を重ねていた。
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