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妖精の里、そして星海へ

挿話ラストです。うまく回収できるかわかりませんが、いろいろネタを仕込んだつもりです。挑戦ですね。

12.妖精の里、そして星海へ

 

 いつまでも、竜たちの相手をしている訳にもいかず、再訪を約束して、最後の目的地、妖精の里に向かう。乗せてくれているリームが、やたらと竜たちの羨望を浴びていた。きっと戻った後大変だろうな。


 クルルが、ソイラとフーレ、特にフーレに会いたがったので、妖精の里にも寄ることになっていた。精霊たちは他にもたくさんいるらしいが、特に気になる者たちはいないのでおいおい尋ねるとクルルは言う。たぶん旅の足はリームが務めるんだろう。そういうことが竜たちの間では自慢になるらしい。


 いきなり妖精の里を訪れたので、みんなびっくりした。クルルを見てまたびっくりした。そして大騒ぎになった。とんでもない騒ぎになった。ソイラとフーレがクルルに抱き着いて泣いている。クルルも泣いている。その横でイリーゼも泣いている。嬉しそうだから良いか。またまた、大宴会に雪崩れ込んだ。


 隅っこでリーム、ピッピとちびちびやりながら、

 「ピッピたちも海の近くから引っ越したんだな?」。

 「フーレ様とレイム様がこっちで暮らそうというからね」。

 「海もいいけどこっちはいろんな木の実があるから暮らしやすいらしいよな、ピッピ?」。

 「そうそう。リームも時々遊びに来るしね」。


 「エルフのような人族に似た亜人たちは街に出てくるようになったけど、ピクシーたちはまだ街に出るのは危険かもね」。

 リームのコメントに頷くピッピ。

 「人族は体の小さい私たちを舐めてて、怒らせたら怖いことを知らないんだよ」。

 プリプリしているピッピ。

 「まあ、ドレンたちの種族融和がすすめば、変わっていくと思うけどね」。


 ドルン、カレン、そしてセイジャックの今後には大いに期待だ。


 「ギンガ、カレンやセイジャックには会わないの?」。

 「今回はやめておこう。人族も魔族も私の印象が強すぎる。今は自分たちのチカラで前に進む時だ。私が合えば意見を聞かれる。それは判断を曇らせることになりかねない」。

 「ボクたち竜族や、亜人たちはどうなの?」。

 「君たちが種族として人族、魔族と交わってこの星の未来を作るようになれば、会うことを控えるかもしれないな。いずれにせよ人数が少なすぎる。数に頼らない平等を目指せるようになるまではまだ時間が必要だろう」。

 「そうだね。寿命が違いすぎる問題もあるしね」。


 ピッピはイリーゼたちのところに飛んで行ってしまった。


 ギンガは今のリームとの話を思い返していた。人口と寿命、この大きな違いを乗り越えられるかが、この地球(もう惑星クルルと四でもいいのだが)が星海連合加盟の最大の課題だろう。多くの文明では、少数の者は衰退・消滅をたどってしまう、それが現実だった。ここもそうならないことを願うギンガであった。



 三日に及ぶ大宴会が果て、隠れ里に戻ることにした。隠れ里のことを聞いたソイラとフーレは、お茶作りに燃えている。クルルが大のお茶好きと知ったからだ。今は二ヵ所だが、リームとクルルが行脚し始めると、競争に乗ってくる郷が増えるかもしれない。面白い文化ができるかも知れない。



 リーム便で隠れ里に帰還。メカ体のメンテナンスを教えてギンガとイリーゼは星海に戻ることになった。ウィンとヴォルに一つお願いをされてしまった。クルルはメカ体でどこでも行ける(それ以前に星の意思であるからどこにでもいるとも言えるのだが)が、自分たちは郷を離れられない。離れると魔力供給が激減して郷が衰退してしまうのだ。で、クルルと一緒に出歩けるような体を作ってくれないかというのだ。こういう話になるとギンガよりイリーゼがノリノリで、約束してしまう。話を聞いてもらえず肩を落とすギンガに、ウンウンと頷きながらリームが笑っていた。



 アークフェニックスに向かう艇内で、話をするギンガとイリーゼ。

 「イリーゼの記憶によれば、スター・マインドの星でリセットされたことは無いんだよな?」。

 「そうですね。接触すらルルー姉様の情報が初めてです」。

 「つまり、イーヴィル・ダストはこれまでスター・マインドの産みだした生命体の文明をリセットしたことが無いということになる」。

 「そうなりますね」。


 「何故だろう?」。

 「・・・わかりません」。


 「リームと話していて気になったことがあるんだ」。

 イリーゼは真剣なまなざしで先を促す。


 「あいつが言うには、竜族も若いうちは、他者より強いとか速いとかを競いたがるらしい。でも歳をとってくるとそれは些細なことになり、もっと広い知識とか考えを追求するようになるそうだ」。

 「だから、母様の、スター・マインドの膨大な記憶を熱心に聞いていたのね。・・・そう言えば、あの普段は飽きっぽいピクシーたちの中でも長老たちは母様の話をじっと聞いていたわ」。

 

 「リームはそれを、成熟、と言った」。

 「でも人族だって、魔族だって、成熟するんでしょ?」。 

 

 「そこなんだよ。人族や魔族の成熟と、竜族の成熟は同じ言葉だけれど、その示す内容は違うんじゃないのかな」。

 「どういうこと?」。


 「知的生命体の成熟には二つあると思う。体の成熟と知の成熟だ。体の成熟は、その生命体の寿命に合わせて発現する。でも、知の成熟はそのあと、多くの経験に培われて現れるとおもうんだ」。

 先を促すイリーゼ。


 「だけど、知の成熟にはどうしても時間が必要だ。人族はその時間が足りないのかもしれない。魔族でもそうなのかは、別に調べたいと思っている」。

 「では、人族には知の成熟が無理なの?」。

 「フロンテアで時間がある時にギルドで昔の賢者の書物があった。読んでみたがかなり深い考察がされていたと思う。人族もそこに到達できると思う」。

 「希望的観測ね」。

 「そうだ。でも、そこに竜族の賢者が関与すれば?」。

 「えっ?」。


 「その書物の冒頭にとある竜族への感謝が述べられていた」。

 「竜族の?」

 「賢者自身は、その竜族を先達と見たんだろうな。でも竜族の中では普通のレベルだった可能性もある。重要なのは、知の成熟に達した同じ星の仲間を知ることができる、それが重要な気がするんだ」。

 

 イリーゼはよくわからないという顔をしているが、ギンガは話を続ける。

 「スター・マインドの星ではそういう寿命の長い生命体が比較的早い段階で誕生しているんじゃないか?そもそも精霊姫は寿命など内に等しいし」。


 はっと気が付いてイリーゼが答える。

 「スター・マインドは自分の子供としての精霊姫をまず産み出します。そして星の環境を整えつつ知的生命体を誕生させます。確かに当初は魔力も十分に循環していないので、強靭な、だからこそ成長が遅く寿命の長い生命を先に創造しているようです」。


 「だろう?スター・マインドがいない星で誕生した知的生命は、生存競争が激しく知の成熟を迎えることなく滅んでいくことも多いのではないだろうか?たまたま、その試練を乗り越えた種だけがその先に進むことができる」。

 「では、イーヴィル・ダストは何を?」。

 「例えばだけど。都の成熟に至らずに宇宙に乗り出したらどうなるか?他の生命体、特にスター・マインドの子供たちを侵略してしまうかもしれない」。

 「そんな!」。

 「イーヴィル・ダストは、そこまで行きそうな危険な種を刈り取っているだけかもしれない。あくまで仮説だが」。


 今まで話に入ってこなかったファザーが質問してきた。

 『ギンガ、その仮説ならばヴィオネロン帝国は?』。

 「ヴィオネロン帝国の元首がどこで誕生したのかわからないが、そこをイーヴィル・ダストが監視している可能性はあるな。もう【リセットの意思】を残している可能性すらある」。

 『カタストロフィーの可能性ありと?』。

 「ああ、要注意だな。・・・だが、介入は困難な点が悩ましいな」。



 多くの課題を抱えて、アークフェニックスは、ウィルスターに帰投した。


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