郷帰り
ちょっとした息抜きを。三話ほどイリーゼの故郷へ帰ります。
10.郷帰り
当然のように、イリーゼの故郷、惑星cn-207865-4が次の調査地となった。何を調査するのかって?そんな野暮なことは聞かないように。
アークフェニックスが惑星周回軌道に入った時、さっそく訪問があった。リベイタ大陸の神殿で会ったイリュージョンが現れた。
『お帰りなさい、イリーゼ』。
「母様!」。
実体があればここでハグと言うところだが、当然今はできない。ところが、記憶を交換すると、
『イリーゼ、私にプレゼントがあるの?』。
「そうなの、私がギンガに頼んだの!」。
ウィルスターでファミリーが使用しているメカ体である。姿はイリュージョンにそっくりだ。ただし、基礎部分はマジュ粒子合金(こういう表現しかできない)、エネルギー中枢にはなんと真マジュ粒子金属(もはや合金レベルではない新しい物質)が使われている。普通ならアブナイ代物である。しかし、スター・マインドの依り代としては、ここまでやらないと劣化が激しすぎて長持ちしないらしい。
しかし、イリーゼの母様は、スッとメカ体に同化。あちこち動作確認をして、歓喜の声を上げてイリーゼとハグしている。
『イリーゼ、これが体と言うモノなのね。本当にありがとう!』。
「母様が喜んでくれて、私も本当にうれしいです」。
上陸する前にスター・マインドとしての知見を聞こうと打ち合わせを持ったのだが・・・。
『名前を頂戴!』。
いきなり来ました。
「えっ?」。
『私に名前をつけて頂戴。イリーゼのように』。
「はぁ。・・・クルルでどうでしょう?」。
『クルル。気に入りました。イリーゼ、これからクルルと呼んで頂戴』。
「わかりました、クルル母様」。
『うん』。
めちゃくちゃ機嫌がよくなった。
そして次は、
『これ美味しい!』。
味覚というモノをファミリーにも経験させるため、メカ体には五感が実装されている。だから食事もできる。ちなみに、食べたものはエネルギー分解されてメカ体維持に使うこともできる。
イリーゼの出したクッキーに夢中になっている。食べる、ということに感動しているらしい。
さらにちょっと意外だが、お茶にハマった。落ち着く、この感覚に目覚めたらしい。リベイタの隠れ里でつくっているお茶を知っていて興味を持っていたというのもあるらしい。
早く隠れ里に行こうと言って、とても騒々しい。どうも、ヴォルとウィンに会いたいというだけではなく、隠れ里自慢のお茶を飲みたいらしい。
しかし、その前に意見を伺いたいことがある。ここは、イリーゼに任せる。何せ、空間記憶の内容を使いながら膨大な情報交換をしつつ考えてもらうのだ。スター・マインド以外には不可能な芸当だ。
イリーゼによると、議論の結果は以下の通り。
1.この宇宙創成時にスター・マインドとイーヴィル・ダストを産み出した存在(創造主)の可能性
2.その存在は、生命を求めつつ、過度の攻撃性のある生命を排除しようとしたのではないか。
3.イーヴィル・ダストが複数存在するかは情報不足で判断できない。
4.【リセットの意思】の作用が永続してしまい、後続の文明、他星系文明に干渉するのは想定外
5.反マジュ粒子および真マジュ粒子の出現も想定外
6.スター・マインドとイーヴィル・ダストは最終的に争う可能性がある。
7.イーヴィル・ダストとの接触、場合によっては捕捉が有効
8.イーヴィル・ダストの破壊は創造主の介入を招く恐れがあり、避けるべき。
特に6,7,8の仮説には充分留意するように言われたそうだ。イリーゼ自身はスター・マインドではあるが、特殊な形態であり、スター・マインドの持つ強い生命創造の衝動を実感していないらしい。クルルもその衝動については何度も考えたそうだ。そして記憶によれば、その母も、始祖も。
イーヴィル・ダストの存在とその記憶を知った今、創造主存在の可能性は極めて高い、という結論だ。情報が少なすぎるので、古い世代のスター・マインドと接触したほうが良い、とのサジェスションも貰った。これにはギンガも納得したが、何処に行けばよいのかは皆目わからない。はっきり言えば、クルルの母様がどこにいるのかもわからない。クルル自身がどれくらいの期間、星の間を旅していたのかがわからないのだ。
クルルは、ルルーの情報にも興味を持った。イリーゼにも会ったら教えてねとか言っていたから大事なことなのだろう。他にもスター・マインドを見つけたら報告に来るように念を押された。さsがに連れて行けとは言われないだろうが・・・、あるかな?
話も一段落したところで、上陸艇で隠れ里に向かう。ここは人族の目が届かないので活動拠点として非常に良い場所だ。
メカ体のことは内緒にしておいて、イリーゼからウィンとヴォルに到着を伝えてある。二人とも驚いたが歓迎してくれるそうだ。たまたまリームも来ているようだ。
広場に着陸すると、住人たちが恐る恐る近づいてくる。ハッチから降りると物見高いピクシーが飛んできてイリーゼに纏わりつく。歓迎してくれているようだ。
そして、イリーゼがクルルを紹介する。
全員が腰を抜かした。
亜人たちはもちろん、竜も精霊さえも。
当のクルルはホホホと高笑いして絶好調!!!
イリーゼも一緒に絶好調!!!
後ろで呆れているギンガのもとに、こそこそとリームがやってきて、
「何やってくれてるんですか、ギンガ!」。
「まあ、まずいかもとは思ったんだけど・・・」。
「イリーゼに押し切られた、と?」。
黙っているギンガ。それが全てを肯定していた。
席をあらためて、あれからのことを話していくイリーゼ。クルルはもう知っているが、空間記憶を使えない精霊やギブリ、亜人たちはじっとその話を聞いている。この星の外の話には興味津々だ。
(精霊は、精霊姫として生まれた瞬間に母なるスター・マインドに空間記憶を作ってもらう。能力のキャパシティに限界があるので、精霊姫または精霊は姉妹の空間記憶を読むことはできるが、他の精霊姫や精霊、ましてやスター・マインドの空間記憶は相手が許可しない限り読めない。)
ギンガとリームはその語りには参加せず、その後のこの地球(この世界の生命体も自分たちの星を地球と呼んでいる)の状況を話し合っていた。ちなみにギンガが去ってから、この地球の時間で1年の時間が経っている。
「まず、竜族のことから話そうかな。まあ、ゲルダはまだ目覚めない。長老たちは問題ないと言っているけどね。あんな異変があったからか、今まで顔を見せなかった連中も顔を見せるようになったと、トリアがぶつぶつ言っていた」。
「そうか。でもちょっと顔を出すか」。
「3人とも喜ぶと思うよ」。
「魔族は共和国を作った。セイジャックが政府代表さ。ぼやいていたけどね」。
「他に誰がやるんだ。初めから判っていたことだ」。
「そうだね。初めは旧帝都にいたけど、協力してもらってガーマに戻って市街を再建している最中だ。脱出作戦の時に行動を共にした人たちがセイジャックを支えているよ」。
「人族との関係は?」。
「ドルンが全てを国民に説明し、共存を宣言した。あっ!ドルンは王になったよ」。
「そうか」。
「あの戦場は全体を祈念公園にしたよ。旧帝都もそのまま残すつもりらしい」。
そこでリームが黒い笑みを浮かべて爆弾を落とす。
「ギンガとクラインがたたっか場所の真ん中に大きな石碑ができたよ」。
「??」。
「英雄・星皇降臨の地。そう刻まれているよ」。
「な・ん・だ・と?」。
「クッ、クッ、クッ。・・アハハハハ。・・我慢できないや。その顔ホントに面白いや」。
ひとしきり笑った後、リームは話を続ける。
「魔族との共存を選んだ結果、他の亜人との関係も同じ形にした。みんな平等だ。ボクたち竜族もね」。
「ゲルダはまだ動けないんだろ?」。
「何とボクが交渉した。まあ、長老方がボクに押し付けたんだけどね~」。
「フッ」。
今度はギンガが笑っている。
「まあ、良いことじゃないか」。
「こういう事、嫌いじゃないんだけどね」。
そう零すリームは笑顔だった。
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