表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のろわれたポピー  作者: ゆずこ
6/7



「ポピー、ポピー!」




 身体をゆすられる感覚で、ポピーは目を覚ました。ここは…。

そして、目の前にはタイラー。今の今でなんとも言えない気持ちになるが、当の本人は全く気にしていないように見える。




「あの、タイラー…」

「ポピー、ここは公爵邸ではない。どこだ?」

「え?」


 言われて辺りを見渡せば、ここが今まで自分がいた世界とは違う場所だということがわかる。

世界がセピア色なのだ。木々も、空も、家も。


 そこで異質な存在かのように、ポピーとタイラーだけが色鮮やかにそのままの姿で存在していた。



「これは一体…」

「鏡の魔法かしら」

「そうかもしれない。君は、僕が触れていなくても、ただのポピーだ」


 え…このタイミングで解呪になったというのか。しかし、ポピーには確かめる術がない。

それにしても、だ。

 

 ここは大きな町なのだろう。賑やかで人の通りもある。しかし、誰もポピーとタイラーを気に留めない。見えていないのだ。



 どうしよう、そう思った瞬間だった。




『アイビー!』


アイビー、その名前にどきんと心臓が鳴る。

思わず声の主を探した。




『ウェルド!』



 二人は恋人同士なのだろう。ぎゅうと抱きしめあって、穏やかにほほ笑んだ。手をつないで歩き出す。

その姿を追いかけないといけないと思い、ポピーとタイラーも続いた。



 アイビーと呼ばれた女性は、二人が想像していた通り、探し求めていた魔女アイビーだった。

彼女は魔女の傍ら、恋人と逢瀬を重ね、魔女としての仕事もこなし、順風満帆の生活を送っているようだ。




『アイビー、今日は君の18歳の誕生日だ。受け取ってくれないか』

『まあ、これは手鏡?こんな繊細な細工、とても素晴らしいわ。ありがとう。一生大切にする』



 アイビーが恋人から受け取ったのは、あの鏡だった。



これは、アイビーと鏡の記憶なのだろうか。





 アイビーと鏡の記憶は、早回しのように進んでいった。そして幸せな恋人との生活を映し出す。町では数いる名のしれた魔法使いの一人だったようで、町の人の信頼も厚いようだ。

 そんな彼女に、これから何が起きるのだろう。


 すると、ある時から恋人のウェルドがアイビーの元を訪れなくなった。



その日から、アイビーは恋人に囁くように、鏡に語り掛ける。





『鏡よ鏡、鏡さん。聞いてくれる?彼は今日も来てくれなかったわ。

きっと彼女の元へ行ったのね。彼女はね、最近町に越してきたの。領主さまの末娘なんですって。

彼は町の大きな商家の息子だし、きっとお世話係みたくなっているのよ。彼は優しいから』



『鏡さん、聞いて。今日町に薬を卸しに行ったの。

彼と彼女が噴水広場のベンチに座っているのを見かけたわ。

声をかけようと思ったけど、声は出ないし、足も動かないの。

不思議ね。わたしは魔女なのに』



『鏡さん、今日はね、彼が久しぶりに家に来てくれたのよ。彼女と一緒に。

でも彼女、近くの森の広場で転んで足を捻ってしまったみたいでね、彼に背負われてきたのよ。

顔を真っ赤にした彼女は、とても恥ずかしそうにしていたわ。

処置をしたわたしに、優しく笑ってお礼を言ってくださったの』



『鏡さん、今日彼にお別れを言ってきたわ。すぐに承諾してくれたの。

だってね、彼、結婚するんですって。笑ってお祝いの言葉を言えたわ。偉いわよね』



『鏡さん、今日ね例の彼女にお会いしたの。

彼女から声をかけてくれて、結婚の話をされたから、お祝いを述べたの。

するとね、彼女、お腹に新しい命が宿っていたの。

彼女は彼の子だって、幸せそうに話していたけど…』





『魔女アイビー!』

『まあ、先日はどうも。あら、何か気分がすぐれませんか?

顔色がよろしくないようですが…』

『貴女、魔女なのよね。医者が話していたわ。

魔女は新しい命に宿る生命エネルギーを感知することができるって。性別もわかるって』

『そんな万能なものではありませんよ。

微々たる魔力を感じ取って、少しでも健やかに産まれる日が来ますように、と微力ながら…』

『じゃあ、貴女はすぐにわかったのではなくって?』

『何を…』

『この子の父親よ』

『ウェルドさんではないということでしょうか』

『やっぱり知っていたのね。何が目的?お金?地位?名誉?』

『わたしは、何も望みません。今の生活が守られればそれで』

『なんでよ!わたしは貴女の恋人を奪って、父親を偽って子どもを産もうとしているのよ。

何で何も言わないのよ!』

『…生まれてくる命に、罪はありません。

わたしは他言いたしませんし、望むのであればこの町から出ていきます』

『…そう、じゃあさっさと消えて』





『鏡さん、やっと荷物をまとめ終わったわ。どこへ行こうかしら。

彼がよく、王都の話をしていたのを思い出したの。

心機一転王都に行ってみようかしら』



『鏡さん、同じ魔女の伝手で王都でもお仕事ができそうよ』



『ふふ、鏡さん、今日は驚いたことばかりだったわね。

道に迷っていたのが公爵家のご令嬢だったなんて。驚きの人助けよ。

お礼にってお茶会に呼ばれてしまったのだけど、何を着て行けばよいのかしら…』



『鏡さん、公爵家のご令嬢…サファイア様はわたしより3つ年下なのに、もうご結婚なさるんですって。

お相手は侯爵家のルアン様って言ってたわ。

サファイア様が婿を取る形になるんですって。

あーあ、わたしも誰かいい出会いがないかなあ』



『ねえねえ鏡さん、今日ね、お花屋さんのエペルに、花をもらったの。

可愛いでしょう。花をもらうなんて、とても久しぶり。

そういえば、彼と彼女の子どもも、そろそろ生まれた頃ね。

健やかに育ちますように』




『たいへん、どうしよう!エペルに交際を申し込まれたの!

あなたの笑顔は花のようだって…嬉しくって、困っちゃって…逃げ出してしまったの。

やっぱりだめよね。ちゃんとお話しないと…』



『鏡さん、今日エペルと二人でお出かけするの。

どう?変じゃない?』



『鏡さん、今日サファイア様とお会いしたの。

わたしが毎日鏡に話かけているって話したら、とっても笑うのよ。失礼しちゃうわ。

そしてエペルのこと、話したの。

とても喜んでくださって…わたしも嬉しかった』



『聞いて鏡さん、サファイア様ったら、お忍びで出かけたいから姿を変える魔法をかけて、っていうの。

わたし、姿を変える魔法って使ったことないわ。

練習してもいい?鏡さんを媒体にすればうまくいきそう』



『鏡さん、今日はエペルと会ってくるわね。

…あら?誰かしら…はい、アイビーはわたしです。

ええ。え?ウェルドさんと夫人が近くまで?

わかりました。今晩宿泊先へ伺うとお伝えください。

…一体何の用かしらね』







『あーあ、あの魔女、こんなところに住んでいたのね。

王都に住んでるくせに、地味な家。

まあ、もうどうせ帰ることなんてないでしょうけど。

あいつだけ幸せになろうだなんて、虫唾が走るわ。

善人面して、子どもの父親のことだってあいつがウェルドにリークしたにきまってる。

ああ、憎い。ん?この手鏡見覚えがあるわね。

ウェルドが魔女に贈ったっていう鏡?

品はよさそうね。

この細工。せっかくだから私がもらってあげる』




『なによ!なによこの姿!!

わたしはこんなイボだらけの醜悪な顔じゃないわ!

なんなのこの鏡!呪われているんじゃない!?』









『アイビー…?………そうよね。呼んでも返事をするはずないわ。

どうしてわたくしを置いて先に逝ってしまったの?

エペルさんも悲しんで…あなたを追いかけたわ。

あなたを死に追いやったあの女性も、酷い容姿になり果てて亡くなったみたい。

あら、この手鏡は…アイビーの宝物じゃない。

あなたは無事だったのね。ふふ。あなた、ですって。

だってアイビーが毎日鏡に話しかけてるって話していたもの。

鏡だって…物だって大切にされていると命が宿るって聞いたわ。

昔のおとぎ話よ。あなたもそうなの?命が宿っているの?』



『まあ!これはアイビーの魔法??

いやだ…アイビーったら、わたしのわがままを叶えようとしてくれたのね。

公爵令嬢とばれずに出かけたい、だなんて。

ふふ、もう…アイビー…この容姿じゃ絶対に私だってわからないわよ

そもそも、こんな容姿じゃ誰もわたくしに近寄らないじゃない。

魔法の解き方、一緒に考えておいてよかったわ。

ねえ、ルアン!うふふ、そんな驚かないで。

ほら、わたしよ。サファイアよ。手を握って。ね、わたしでしょう。

これ、アイビーの魔法なの。わたしのわがままをかなえてくれたのよ。

ちょっと容姿に難ありだと思わない?これじゃあ一緒に歩くあなたが好奇の目に晒されるわ。

逆に目立つと思わない?

ええ、この魔法の解き方知っているの。だって一緒に考えたから。

簡単よ。おとぎ話にもあるでしょう。

魔女による魔法は…』










アイビーーー!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ