3
タイラーのターン
タイラーの幼馴染は、ちょっと有名である。
古の魔女の呪いを御身に受けた侯爵令嬢。
それがポピーだった。
呪いをうけた当初、タイラーもポピーも精神的にまいってしまった。あんなに可愛く、花のように笑う幼馴染から、笑顔が消えてしまったのだ。
それも、自分を庇ったばっかりに。
確かに、その呪いの効力は絶大だ。
見る人すべての視界に干渉する呪い。
みんな、彼女を全身イボだらけの顔色が悪い目元が窪んだ醜い女性。
そう思っている。
しかしそれは違う。
呪いがかかってしまった瞬間、ポピーはタイラーを庇ったし、タイラーもポピーを庇うように抱きしめた。だから最初、ポピーの姿が変化していることに気づかなかったのだ。
ポピーに触れていれば、いつもの、花のようなポピーに会えるのだ。
タイラーは公爵家の3男で、兄が二人いる。当時はまだ自立していないので、兄たちに何かあったら自分がどうにかしないといけないという使命感から、呪いの詳細がわからないポピーに近づくことは許されていなかった。当たり障りない手紙のやりとりだけ。
それから長兄に続き、年子の次兄も18歳の成人を迎えたその年、タイラーはポピーを婚約者に迎えた。
正直この一件がなくとも、ポピーを迎えるつもりでいたのだが。
まじめなポピーのことだ。きっとこの婚約が自分を庇ったことへの罪悪感だとか、傷者になった令嬢をもらう義務だとか、面倒なことをぐるぐる考えているに違いない。
そんなことないのに。
タイラーは、ポピーが大好きだった。
名前が花なので、ポピーから花言葉を聞いた記憶がる。
『いたわり』
『おもいやり』
『陽気で優しい』
どれも全部ポピーを作り上げる言葉だ。そしてこれは自分で調べたのだが
『恋の予感』
という意味もある。
正直予感どころではない。
もう深い泥沼だ。
魔女の呪いを受けても、しゃんと前をむいて、強く歩む。
周囲の視線や心無い言葉に傷ついてるのも知っている。
けど、それを支えるのは自分でありたい、と。
しかし、いくつか懸念すべき点はある。
いつか解呪できた時、本来のポピーの姿が学院に知れ渡ったら?
嫌な予感しかないが、婚約者の立場の自分だけが、異性である彼女に触れることが許される。
社交界の花になりうるポピー。
なので、タイラーは今日もポピーに会いに行く。
何度でも言葉にするのだ。
「君は僕の婚約者だよ」
タイラー(当時6歳)
「兄上…どこに行っていたのですか」
次兄
「いや、ちょっと擬態についての研究をだな」
長兄
「ばれるのも時間の問題だぞ」