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のろわれたポピー  作者: ゆずこ
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どのように呪いをうけたか、の話



 ルノワール国には、魔女や妖精などの昔話がいくつも残っている。

今はおとぎ話として語られているが、昔は魔法使いや妖精によって国の発展を支えたそうだ。

しかし、機械工学の発展や町が大きくなるにつれ、魔法使いや妖精はこの100年近くで一気に減少してしまう。国は数少ない魔法使いを城に囲い、更なる国の発展に尽力をしてもらっている。



 そんな魔法や妖精の話が多くある中の一つに、鏡の呪いの話がある。



 恋に破れた魔女が、婚約者からもらった手鏡に呪いを授けた。

美しい町娘に婚約者を取られてしまった年若き魔女。

姿を映した者の容姿を吸い取ってしまうように。

吸い取られた者は、他者からとても醜悪な容姿に見えてしまう呪い。

この呪いの恐ろしい所は、他者にだけ醜悪な容姿に見えてしまうこと。

呪いの媒体である手鏡に本来の姿が映るが、他の鏡には呪われた容姿でしか映らない。

自分の視界には何の変哲もない姿なのに、他者からは醜悪な容姿をした人として認識され、蔑まれてしまう。

そして、手鏡の持ち主は精神的に病み、手鏡はどこかへ流れていった。




 そんな手鏡の呪いを実際にポピーがうけてしまったのは、わずか6歳の頃だった。






 ポピー・プルシア。プルシア家の長女で、兄が一人いる。

父譲りの深い夜色の髪はふんわりとしていて、綺麗な碧の瞳は長いまつ毛に縁どられていた。

両親の良いところを上手に引き継ぎ、ポピーは将来社交界の花になること間違いなしと噂されるほどの見目麗しい少女だった。

 それに加え、母同士が友人であることから、ピーコック公爵家と縁があり、その3男であるタイラーとは生まれたころから仲が良く、二人が笑いあえば、周囲もつられて笑顔になれる、そんな関係だった。



 ある日、ピーコック公爵家に母と呼ばれていたポピーは、挨拶も早々にタイラーと二人でピーコック家の大きな書斎へ探検に来ていた。

代々続く公爵家というのもあり、多くの本がそろっている。最初はそれぞれ気に入る本はないかと探していたが、いつの間にかかくれんぼに遊びが発展。


 ポピーとタイラーの侍女たちは、何か壊してしまうのではないか内心ハラハラしていたが、悪い予感は違う形で的中してしまう。




「タイラー、みーつけた」

「ポピーは見つけるのが上手だね」

「うふふ、だってタイラーだもの」

「なにそれ。まあいっか。次はポピーがかくれてね」


 タイラーが隠れていた書棚の隙間から立ち上がろうとした瞬間、カシャン、と足元で音がした。


「どうしたの?タイラー」

「いや、何か落ちたみたいで…」



 タイラーの足元には、何かキラキラ光るものが落ちている。

手鏡のようだ。金の細工が美しい。



「これは…?」



 タイラーが手を伸ばそうとした瞬間、ポピーは悪い予感がした。

最近兄から聞いた怖い話を思い出す。


あれって呪いの鏡に似てない?


本当に呪いの鏡だったら…




「タイラー、だめ!」



 鏡に手を伸ばしたタイラーを慌てて制する。鏡はタイラーの手から滑り落ち、ガラス面が表になる。

そこに映りこんだ、ポピー。


何の変哲もない鏡のようだが、鏡の中のポピーがにやりと笑ったような気がした。

その瞬間、床に落ちた鏡が鈍色に光る。

タイラーはポピーを庇うと、すぐに光は消えた。




「ポピー、ごめん、大丈夫?」

「タイラーもけがはない?」

「うん。ありがとう。それにしても何だったんだ?」



 ほんの一瞬の出来事だったが、控えていた侍女たちが心配して二人の様子を見に来た。そして顔を上げたポピーを見て、侍女たちは卒倒。

ポピーから離れたタイラーも、顔が真っ青になった。


家族も顔が真っ青になったことを、ポピーは今でも昨日のことのように思い出せる。



 それからすぐに、ポピーの呪いのことは社交界で話題になった。

呪いを受けた悲劇の侯爵令嬢。


友人たちは何度か見舞いに来たが、ポピーのあまりの変貌に、どんどん疎遠になっていく。

変わらず接してくれるのは、本当に一握りになった。



 呪いの件は国にも報告し、鏡の研究をすることになったが、古の魔法であり、誰が呪いを作ったのか記録になく、解呪は難しいということであった。


 しかしこの呪いは「視覚の呪い」であって、ポピーが本当にこのような姿になった訳ではなく、他者の目にそう映るだけであることがわかった。


 そして、ポピーに触れると、視覚の呪いの効力は薄れて、触れている本人たちだけはポピーの本来の姿を見ることができる。



 呪いをかけた魔女にどのような思惑があるのかは理解できないが、家族はたいそう喜んだ。可愛い愛娘は呪いにかけられているが触れれば本来の姿を見られる。ポピーが肉体的に傷を負ったり体調を崩したわけではない、と。


 もともと仲の良い家族ではあったが、より一層ポピーを慈しみ育てた。





 ポピーは最初、自分の身に起きたことを嘆いていた。

鏡に映る自分の醜さ。不健康そうな手足。

自分は至って普通なのに、周囲は嘆きと同情・興味や蔑みの視線を送ってくる。


 しかし、あそこでポピーがタイラーを庇わなかったら、あの呪いはタイラーを襲っていたのではないか…そうなると、この理不尽な思いを、あの優しいタイラーが背負うことになるのか。

そう思えば自分で良かったと思った。


 このまま呪いが解けなくても、侯爵家は兄が継ぐし、家族仲も良い。使用人たちもこんな自分をいまだに慕い、尽くしてくれる。

自分は恵まれているのだ。

そのうち領地へ引っ越して静かに暮らしても良いかも、と、幼いながらにもポピーはその考えに行きついた。




 しかしそうもいかない事態に発展する。


ピーコック家がタイラーとポピーに縁談を申し込んできたのだ。


ポピーとタイラーが13歳になったころである。





「タイラー、どうしてこの縁談を受けたの?」

「今決まった訳ではないよ。昔からあった話だ」

「こんな呪われた容姿のわたしを妻にして…」



あなたまで好奇の目で見られるわ、とポピーは続けようとした。


「僕にはメリットだらけだよ」

「どこがよ…両家で決まったことなら、それに従うわ」




ふい、と視線を逸らす。ポピーの伸びた前髪がタイラーを隠す。

長い前髪は周囲の視線から自分を護る手段の一つだ。



タイラーは伸ばしかけた手を、少しためらわせて、スッと下ろす。




困ったように笑う幼馴染が、婚約者になった。





ポピーの兄(当時11)

「ポピー、お前すごい呪いだな。完璧な擬態だ。絶対にポピーってわからない」

タイラーの次兄(当時11)

「こうして触れるといつものポピーか。すごい差だな」

ポピー(当時6歳)

「ふさぐひまもないわね」

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