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旅の友にはガラス玉

拙作『ぽむぽこりん』の書き直しです。

かなり違う部分も出てきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 私の名前はリン・リーリウム。

 生前は(つむぐ)という名前だった。ごく普通の女の子……だったと自分では思う。というか今も生きているのだけれど。言うなれば前世の記憶? なのかしらね。

 (つむぐ)の時は高校二年生で人形部の部長だった。

 どんな活動をしていたかというとボランティアで幼稚園や老人ホームに行き、人形劇を演じたり球体間接のドールを作って展示したり、生徒やその家族向けに小さな指人形をオーダーメイドで作って販売したりしていた。他にも人形用の服を縫ったり。と、言っても材料費と少しの手間賃くらいしか貰っていないからプロの業者に頼むよりは良心的な値段だった筈。


 この世界にリンとして産まれてきたという事は、たぶん(つむぐ)の体は死んだのだと思う。

 あの日も部活が遅くなってしまって校舎に残っている生徒は私くらいだった。

「すっかり遅くなっちゃったなぁ。あの先生の話は面白いんだけれど長くなっちゃうのが玉に(きず)ね」

 私はひとりごちると自分の教室から出る。

「うわぁ……。真っ赤ね。逢魔(おうま)が時ってこんな色の空を言うのね」

 廊下に漏れる(あか)(あか)い色は黒い闇との境界線をどこまでも薄くしていく。まるで世界が一つの赤いスープになって溶けてしまっていく様に。

「アハハ、何感傷的になってんだろ。早く帰ろ……きっと赤色が苦手なせいね」

 私は鞄を持ちなおすと階段を降りる。

 階段の踊り場にある鏡に映った自分が目に入って一瞬ドキリとするが、何ら変わりの無いいつもの私だった。

「痛ッ……!」

 沈みかけの太陽の光が丁度鏡に反射したのか、突き刺す様な眩しさを感じて目の奥が痛んだ。

「うー……。大きいガラスもやっぱり苦手……」

 立ち止まり、コメカミを押さえて深呼吸。黒髪を長く伸ばしてポニーテールにした自分が映っている大きな鏡も同じ動作を返していた。……当然だけれど。

 痛みが収まると再び階段を降りて、昇降口で靴を履き替える。静かな校舎に自分の靴の爪先で地面を蹴るトントンという音が響いた。

 校舎外に出て何気なく振り返ると、四階にある人形部部室の窓が開いてカーテンが揺れていた。

「あっちゃー……! 誰か締め忘れてたのね。仕方ない、戻りますかぁ……」

 部長である以上、戸締まりと照明の確認は私に責任がある。最も、今日私はずっと先生と話していて部室には行ってないのだけれど。

 先程降りてきた階段を再び上がっていく。今度は急ぎ足で。外はもう暗くなりかけていて、非常灯の灯りが目立つくらいになっていた。

 部室のドアをガラガラと開けるとヒュウと泣いている様な風が私の髪を巻き上げた。

「うぷ。やばやば、人形(ドール)のウィッグが飛んじゃう!」

 私は慌てていたせいで照明のスイッチを入れるのも忘れて暗い教室に入り、窓に近づく。

 その時、何かを踏んづけてガクリと前につんのめった。

「わわ!? きゃ、キャー!?」

 そのまま平均より小さめな私の体は開いていた窓から放り出されて……。

 人形の眼に使うガラス玉を踏んでしまったと気付いたのは私と一緒に外に飛び出したいくつもの色鮮やかな(たま)だった。

 人間死ぬときに見えるっていう走馬灯なんて全く無くて、床に人形(ドール)のお目々ばらまいたのはどちら様? イタズラな風が容れ物の箱を落としたのかしら? とか私と一緒に落ちていくガラス玉達が綺麗だった事くらいしか覚えてない。

 で、気が付いたらばぶばぶと言うだけの赤ん坊になってました、ってお話。

 

 そんな私だけれど、今日12歳の誕生日を迎えます。


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