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偶然。  作者: 璃維
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【10代手前の話】

無自覚に蝕まれる。

学校と家を往復するだけの毎日。

寄り道をせずに帰るのは、言いつけがあるからだ。

この約束を守り続ける限り、親とつながっていられる気がする。


家に帰り、手を洗って部屋着に着替え、冷蔵庫から適当に食べ物を出してきて胃に入れる。

宿題を済ませたら、ゲームをしたりテレビを観たりして、両親の帰りを一人で待つ。

宿題には音読があるけれど、親を相手にしたことは一度もない。

幼稚園の頃に買ってもらったフィギュアに向かって読むのが日課だ。

でも一度だけ、気まぐれで家の近くにある公園に行ってみたら、見るからに頭がよさそうで、つまらない顔をした人に音読を披露したことがある。

読み終えたとき、褒めもせず満足そうに軽く頷いたかと思えば、あとから来た同じくらいの人と一緒に去って行った。

あれ以来、人に対して音読を披露する機会はないから、今日もいつも通り相手はフィギュアだ。

家には、生活に必要なものは全てそろっているから困ったことはない。

それこそ最初は

「家に帰れば親がいて出迎えられる」

と口を揃える周囲に対する羨ましさがあったが、徐々にそれも薄れていった。

親の手料理を食べた記憶は特にない。

どこかへ出かけた覚えもない。

おかげで少しだけ、同級生たちとは感覚が違ってきていることには気づいているけれど、これを変えてしまったら親を困らせることになるのもなんとなくわかっている。

それでも埋まることのないこの空虚の埋め方を知らないから、抱えながら生きていくしかない。


いつも通りに下校している途中、ふと空を見上げたら、キラキラしたものが見えた。

周りは気にしている様子もない。

これが見えているのはきっと自分だけだ。

それは次第に形をつくり、輪っかになってふわふわと宙を舞った。

とても綺麗で、なんだか目が離せなくて、追いかけることにした。

追いかけていると駅にたどり着き、人にぶつかりながら構内を進むと、改札を抜ける必要に迫られた。

けれど、幸いお金はあった。

改札を抜けて、輪っかに従うままホームに立った。

「16時59分、横浜行きの列車が参ります」

アナウンスが聞こえて、止まらなきゃ、と思ったけど、浮遊を続ける輪っかを見ていたら、追いかけないと、止まったら消えちゃう気がして、止まるわけにはいかなかった。

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