“異世界”最速の組み合わせ
エブリイの横を走る走鳥を流し見たスズキの感想は、(小さい)だけだった。
体躯はおそらく高さ1メートル、全長も2メートル程しかない。鳥が頭を上げれば高さは1.5メートル程度になるだろうが、今はその頭は地面から30センチと離れていない。
そして鳥に跨る騎士も小柄なのだった。150センチ台の身長の男が鎧を身にまとって鳥にしがみついている。
その様子はまるで大きな鳥のぬいぐるみに子供が抱きついているかのようだ。ある意味微笑ましい光景に、
スズキは脅威を覚えた。
モータースポーツの世界において、小さいということは武器になりうる。一概に強いということは無いが、小柄ゆえの空気抵抗の低さは騎士も理解しているのだろう。それは抱きつくように姿勢を低くしたライディングフォームから断言できる。
この騎士は自身の強みを理解して走っているのだ。
そしてさらに脅威と感じる点、それは騎士が鎧を着ているということである。
その意味は直後に実証される。
サイドバイサイドで走る直線の最後に右コーナーが迫る。直前まで加速してからのフルブレーキングは走鳥がリードし、鉤爪と路面が削れる独特な匂いをスズキは感じた。
誰もが走鳥をオーバースピードと感じ1秒後の未来を最悪なものと予感する中で、騎士とスズキだけが違う未来を予見する。
騎士が走鳥の上から姿を消し、走鳥はスピードを増してコーナーを駆け抜けて行く。
これは決して落馬では無い。
荷重移動のためのライディングフォーム、ハングオフだ。
ハングオフとはバイク左右にぶら下がることで荷重を極端に偏らせ、オーバースピードによる遠心力に拮抗しつつグリップを維持してコーナーを抜けるテクニックである。
騎士は走鳥の右側に落馬寸前までぶら下がることで、コーナリングスピードを殺さず走り抜けているのだ。
しかし白銀の騎士ほど小柄であれば荷重移動も小さく、エブリイを超えるオーバースピードに拮抗しうるものではない。
ならばなぜハングオフは成功したのか?
理由はスズキが脅威と感じた点、白銀の鎧にある。
銀は鉄、青銅と比べ比重の重い金属だ。
鉄より重い鎧を身にまとい、落馬と見紛うかのような限界のハングオフを繰り出すことで誰よりも素早いコーナリング性能を引き出す。
これこそが白銀の騎士の白銀たるゆえんなのだ。
走鳥の鉤爪が容易に路面を捉え、コーナーを減速なしに走り抜けて行く。
後ろで見ていたスズキは自分を追い込んだ正体を目の当たりにして舌を巻いた。ここまでの下り区間をこのコーナリングスピードで巻いてきたのだ。エブリイを超える速さでは差を詰められるのは当然である。
しかし速さはそれだけではなかった。
コーナーを抜けバトルは再び直線へ。ハルギ峠の中で比較的長いこの区間、走鳥はジリジリとエブリイを引き離し始めたのだ。
ギアを5速に入れたエブリイが追いつけない。アクセルをベタ踏みにした状態で今、スズキは完全に理解した。
異世界では、この鳥は直線を最も速く走る動物として知られている。
平地であれば静止状態から400メートルを10秒以内に駆け抜ける加速性能は、現実世界のスポーツカーと対等の能力を有していると言えるだろう。
『小細工を不要とする圧倒的な速さ』を持つ鳥を、異世界人はこう呼んでいる。
「ハヤブサ」
コーナリングを極める騎士と、トップスピードの頂点たるハヤブサ。
スズキの前を走るもの達は、今この時点において”異世界“最速の組み合わせだった。
スズ菌に感染してるわけじゃないんですがね
なぜこうなった
ーあいまいモコな用語解説ー
『サイドバイサイド』
横並びで二台が走る状態。コーナー突入前の鍔迫り合いは筆舌に尽くし難い熱さ。これは是非動画でご覧いただきたい
『ギア5速』
エブリイは5速マニュアル車だからトップが5速。これでエンジンが限界まで回ってたらそれ以上の速度は多分でない。
『ハヤブサ(改)でーた』
走鳥用ハミ&鞍
GT風切羽根
スポーツ用蹄鉄
飼料「ハマツ産無鉛プレミアム牧草」
『エブリイ(改)でーた』
すべて不明 (おい)
『GSX1300R(EBL−GX72B)』
市販車で最高速世界一の座を不動にするSUZUKIの変◯バイク。おまけにコーナーも得意で隙が無い。
なんで今説明したかって?察して