商売のチャンス!ーアントンの視点
またもアントン一人称
「頼む、バトルしてくれぇ!じゃないと破産するぅ!」
「知るかバカ!離せ!」
夕暮れの大通りに僕の声が響き渡る。切羽詰まった漢の魂の叫びだ。だというのにあっさり断るスズキはなんと薄情な男なのだろうか。
ヤツがハルギ峠でコースレコードを打ち立てたあの伝説の春からもう、夏になる。
その間コイツはバトルしないし全開走行もなし、コースレコードは誰も破れないしで商機を逃しまくって散々なのだ。一大ムーブメントもすっかり過ぎ去って峠には人がもうまばらにしか残っていない。
「半分はスズキのせいだろ!責任とれやぁ!」
「だーかーらー!知らねぇっつてんだろーが!」
当事者のくせに知らないはないだろ!スズキが走らないからイマイチ盛り上がらないというのに、だいたい走らない理由も酷いもんだ。
スズキのやつ、あの伝説の春からずっとエブリイを!あの奇跡のドライブを魅せたエブリイを!
喫茶店にしやがったのだ!
ハルギの夏はとにかく暑い。盆地側にある街はもうゲンナリする暑さだ。石畳の大通りには蜃気楼が立ち昇り、靴底は鉄板で焼かれるように熱い。なので夏は氷菓子を出す屋台が立ち並ぶのだが、そこにスズキは目をつけた。
エブリイのエアコンとやらは氷魔法のような冷風が出るらしい。それを利用した15分銀貨1枚の喫茶店は連日大繁盛してしまい、エブリイはすっかり走らなくなってしまったのだ。
いまや車庫でエンジンを空ぶかししている哀れな車だ。ここ最近は走ってるほうが珍しいくらいである。
と、ここまではスズキのせい。ここから僕のせいになるのだが。
前述のとおりに盛り上がらず、カスタムパーツとかで大量の在庫を抱え、借金で首が回らず、追い詰められてにっちもさっちも行かなくなったとき、聡明な僕は気が付いた。
珍しいは商売になるのだと。
滅多に走らなくなったエブリイとのバトルを斡旋すれば、紹介料と出走前のカスタム費用で儲けが出るかもしれない。峠に残っているのは走りに自信がある奴らばかりだ。直接対決を餌にすれば絶対食いつくに違いない。
と思ってスズキに言う前に見切り発車で募集をかけたらなんと貴族が来てしまったのだ。しかもこの街の領主が。
「もう応募来ちゃってるんだよォ!1回だけ!まずは1回だけでいいから!」
「タイヤがもう限界なんだよ!無理だ!」
「嘘つけ、今朝峠を走ってたの見たぞ!」
「抑えてんの!全開じゃないの!」
「じゃあ全開じゃなくていいから!」
「却下!」
もうここ数日ずっと同じ問答を繰り返している。なんだかんだ負けず嫌いなやつなので、手を抜いて走りたがらないのだ。
だが今日ばかりは引くわけにはいかない。だって予定日が今日だから!
「ホントに頼むぅぅぅ!領主様が来ちゃったんだよ、マジでヤバいんだよぉぉぉ!!」
「くどい!もう戻るからついてくるな!」
「相手は走鳥だぞ!でっかくて騎士様が乗ってる鳥、見たことあるだろ!?バトルしたいだろぉぉぉ!?
「ぐぐぐ…!配達があるんだよ!帰る!」
「配達?今からか?」
「ホンットお前は…。さっき言ってたじゃねぇか、毎朝4時くらいに空港に行ってんの。3時には出るからもう寝ときたいんだよ」
配達…朝4時…空港………
ーこの時、僕に天啓がーーー!
「そーかそーかそれは大変だな、失礼した!すぐに帰ってしっかり休むといい。配達頑張ってくれたまえ」
「はぁ?」
僕の態度に怪しむスズキ。だが今はフォローしている暇はない。直ちに計画を実行しなければ!
「そうだ、今日の油はもうエブリイに入れといたからな!満タンだぞぅ!」
「馬鹿っ!満タンは燃費悪くなるって言ってんだろ」
「まぁまぁ、もしかしたら要るかもしれないしな、もしかしたら!」
「バトルはしないぞ」
「まぁまぁ、まあまあまあ!配達頑張りたまえよ!それではまた明日!さらばだ我が友よ!」
言うだけ言ってその場を走り去る。
急いで領主の屋敷に行って計画を伝えなくては。スズキの日課、配達を利用した強制バトルだ!
配達を終えてエブリイが空になったところで、後ろから近づいてバトルに持ち込む!負けず嫌いなやつのことだ、吹っかけられたら絶対乗ってくるに違いない。もし追い付けなかったら、挑戦する資格なしのシビアなバトルなんだと言えばいい。朝早くなのは他の車を巻き込まないためとか適当な理由をでっちあげよう。
どうにか光明が見えてきた!さすがは聡明な僕である。いかなる窮地であろうとも必ず生き残ることができるのだ。神童と言われていただけはあるナイスな発想だ!
これで頭金を返さずにすみそうだ!
ここからプロローグに続きます。
白銀の騎士はいったい何に乗ってるんでしょうね!わかりませんね!(棒
ちなみに、エンジンを空ぶかしし続けると車に良くないです。フケが悪くなるよ