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自動車で目指す『異世界“峠”最速プロジェクト』  作者: さけとみりん
異世界から来た男
2/16

で、ハコバンって何?ーアントンの視点

二度寝。それは人類を惑わす甘美なる罠。


 だから商人である僕ももちろん眠たいわけで、それでも今日の予定を必死に思い出し起きようとしている。

 今日は実家の商会で事業報告会…という建前の後継者アピールをしなきゃならない。他の兄弟を出し抜くためにもここは頑張って早起きして、1番に商会に行かなくては。

 ベッドでもそもそして壁掛け時計に目を向ける。


「え?」


 なんだろう。なんだか信じられないものを見た気がするので、もう一度時計を見る。

 するとそこには見間違いでも故障でもなく、長針があと20分で遅刻すると告げていた。


「えぇぇ… いやぁぁぁぁぁっ!!?!!!?」


 完っっっ全に寝過ごした!


 慌ててベッドから這い出てクローゼットに駆け寄る。今日という日に限って寝坊するなんて最悪だ!

 すばやく服を着替え、カバンとチケットをひっ掴み急いで玄関へと向かう。


 商売人は約束厳守だ。遅刻なんてしようものなら後継者どころではない。とにかく大通りで馬車を停めて、それから空港へ行って飛竜の時間に間に合わないと。

 幸い飛竜に間に合えば遅刻はまぬがれそうだが、残り時間があと15分!


 ジャケットを羽織り玄関扉に手をかける。

 せめて少しでも早く馬車を捕まえられますように、と祈りながら外に飛び出した。


 外は気持ちよく晴れ渡った春空で、市場の方からは活気が伝わってくる。僕の家の玄関は通りを一本入った小道なので人影はまばらだ。小走りに走り抜けて大通りへ向かう。


「ようアントン!今日も眠そうな顔してんな」


 小道を出た途端に薄く日焼けした小柄な男が声をかけてきた。

 この男はスズキという名のニホン人?だ。最近一緒に商売をやるようになった異世界人?である。ちなみにアントンは僕の名前だ。

 僕からすると目の付け所がシャープだがニホンとか異世界とか言う変なやつで、正直なところ商売以外あまり付き合いたくないと思っている。


 しかしこの状況においてはまさに天の助けだ!スズキは馬車を持っている。実にいいタイミングで来てくれた!


「おはようスズキ、そして頼む!助けてくれ!このままだと僕の将来が破滅する!」


「はぁ?何言ってんだお前」


 スズキは露骨にいやそうな顔をして僕を追い払うように手を振る。


「悪いが専門外だ!お前の将来とやらはそこのババァに占ってもらえ、俺は知らん」


 なんと薄情な奴だろう。そういえばこいつはそういう奴だった!


「いいから話を聞いてくれ!一族を追放されかねないんだ!」


「一族の問題だろ、俺にどうしろっていうんだ」


 そういうとスズキは後ろに停めてあった馬車に乗り込もうとする。僕は慌てて先回りし、カバンとジャケットを馬車に放り込んだ。


「あっ!テメェ!」


「いいから聞いてくれ! 15分以内に空港に行かなきゃ僕は破滅だ!今すぐ馬車を走らせれば間に合うかもしれない!か、金ならこれでどうだ!」


 ズボンのポケットから金貨5枚を取り出しスズキの手に押し付ける。相場なら馬車の初乗りで銅貨5枚、その100倍の金額だ。今月の生活費だけど背に腹は代えられない。もしこれで駄目ならもう僕は…


「なるほどなるほど、それなら俺の専門だ」


 そういえばこいつはそういう奴だった!金に転ぶ!


「おまえまだ俺の車に乗ったことなかったよな?運がいいぜ、俺なら確実に間に合う」

 

 スズキは自信満々に言い切った。

 本当か?ここから空港まで普通なら20分はかかる。道はハルギ山を抜ける峠道一本だけで、しかも曲がりくねっていてスピードを出しづらいのだ。

 当のスズキは余裕の表情で僕の荷物を馬車の後ろに移し、ドアをスライドさせて席に座るよう手招きする。


「裏道があるのか?」


「空港までは峠道一本だけさ」


 なんてこった、こいつ馬鹿だ!時間の計算ができない馬鹿に違いない!

 席に座って愕然とする僕を知ってか知らずか、スズキは黒いベルトで僕を席に固定する。

 それからゆったりとした足で御者台に座り後ろを振り向いた。


「それではお客様、運転中は揺れるので気を付けな」


「お前ここから何分かかるかわかってるのか? 20分はかかるんだ! もっと急いでくれ!」


「馬車ならな、だが俺のは違う」


 スズキが前を向いてキーを回す。

 車体全体が小刻みに揺れ、大気の震える音が響きだす。


「皮袋持っとけ、それと舌噛むから黙ってろよ」


 そしてスズキがハンドルをつかみ、アクセルを踏み込む。


 ついにスズキの馬車が、白くて四角くて後ろの荷台が広い『ハコバン』が走り出したのだ!


ここからプロローグに繋がります

ハコバンってなんぞや?って人は次話に解説してまっせ

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