回復術師のプロローグ
異世界ものだからいいかげんファンタジー要素マシマシでお送り致します
異世界の街に激しいスキール音が響き渡る。ゴムタイヤの跡が路面を走り、焦げた匂いに道行く人が振りかえる。馬車とは比べようもない異様な物体が、異常な挙動で走り抜けているのだ。
それは眩しい黄色にして正面に十字のエンブレムを備えた洗練されたボディ。しっかりとした足回りでコーナーをクリアしていく優雅さ。いずれも馬車にはありえない素晴らしい要素である。
そう、これは異世界のものではない。その名は
「シボレー ME63S」
つまり自動車である。ここでは便宜上ロクサンと呼ぶことにしよう。
このロクサンはただの自動車ではない。そもそもシボレーとはアメリカの自動車会社、ゼネラルモーターズの1ブランドである。コルベット、カマロと言えば聞き覚えのある方も多いのではないだろうか。名高いスーパーカーを輩出する言わばスーパーブランド。それがシボレーだ。
そして、異世界を走るこのロクサンはただのロクサンでは無い。
異世界転生したチート能力持ちが自作した上に、チートスキルでチューンしまくったバケモノマシンなのだ。
今、交差点に向かって猛スピードで走るロクサンの前にひとりの子供が飛び出した。ボールを追って飛び出したのだろう。両手に黄色のボールを捕まえて立ち上がった姿勢のまま、異形のロクサンを前に固まってしまっている。
一方のロクサンは減速も方向転換も間に合わない。
60キロ超で走る重量970キログラムの鉄塊を、わずか5メートルで完全に止める物理法則などこの世には存在しないのだ。
だから運転手は左前輪を縁石に乗り上げさせる。不自然に跳ね上がった車体は2輪状態の曲芸走行のまま子供をまたぐように走り抜けた。
これははっきり言ってありえない挙動だ。曲芸走行は車の持つスペックに成否が大きく左右される。特に方輪走行などは車の重心が低くかつ安定していて、タイヤに斜めからの荷重がかかっても問題ない強度が要求されるのだ。いかにシボレーブランドと言えそうやすやすとできることではない。
ならば、なぜロクサンは走り抜けることができたのか。答えは運転席にある。
運転席に収まるこの女、眉目秀麗につき女らしさがかけらしかない。後頭部に束ねた流るる髪のたおやかさがかろうじて女性と認識させる。
彼女はシボネ。ロクサンの所有者でありチューナーでもある、稀代の天才回復術師。その才能は他の追随を許さず、独創的発想は異世界人に「異世界的発想だ」と言わしめる。
その正体は当然、異世界転生を果たし「回復」と「再生」のチートスキルを司る日本人OLなのだが、彼女の特筆すべきはチートスキルではない。
スキル以前に持って生まれた能力で、彼女は記憶力が良いのだ。風景は一度記憶しただけで写真のように細部を思い浮かべ、単純な数字なら例えば円周率で指定された桁数をピタリと言い当てる。完全記憶能力とまではないものの、一般人の我々にその差はわからない精度で彼女は物事を記憶する。
元の世界ではせいぜい暗記科目が得意、程度の活用しかなかったこの能力はチートスキル「再生」と結びつき彼女を稀代の天才に押し上げた。
日本にあった近代科学の結晶を、自身の記憶力で再生し異世界仕様に回復するのだ。素材を見直し動力に魔力を使い、丈夫で異世界人が使いやすくする。彼女のおかげで異世界の技術レベルがどれだけジャンプアップしたかは計り知れない。
新進気鋭、時代の寵児、次世代魔術の申し子などなど……彼女についた通り名は数知れず。時代の最先端を牽引する転生者なのである。
だが彼女は自身のことを控えめに形容する。
彼女には野心がないからだ。日本での人生は彼女にとって辛いものだった。2度目の生は心安らかに、せめて自分の信じる生き方をしたい。
そんな彼女がなぜスズキの次の対戦相手なのか。理由はエリルとの対戦直後にさかのぼる。
どこかで見たことある導入だなぁ(棒
どんな車なんだろうなぁ(棒棒




