極限の戦い
昴は太一を突き落とした後も、ずっと神界に居た。
「蘇芳、ここに居るんだろ?」
昴が後ろを向くと、噴き出す炎とともに、蘇芳が現れた。
「流石だな、冥王様」
「そういう割には敬意が無いなぁ」
「俺は獄炎の輩の元締めだからな、むしろ払われる側なんだよ」
蘇芳は昴の前でも平然とした態度をとっていた。
「別に俺は鬼の子とか、そういうのは興味ないって言ったろ?ただ、俺はまともに戦える強い奴と戦いたいんだよ」
蘇芳が手をかざすと、何処からともなく炎が噴き出した。
「蘇芳、ならどうしてお前にとって有利なはずの鬼界じゃなくて不利な神界に来たんだよ?」
「お前に合わせる為だよ、俺は戦う場所なんて関係ないからな」
蘇芳は更に周囲を火の海にして、上空の結界の一部を割った。
「さぁ、やろうぜ!」
昴は鎌を振り上げ、そこを一気に氷漬けにした。
「あぁ、蘇芳!」
蘇芳は昴に向かって拳を振り上げた。
「早速いかせてもらうぜ、『冥道裂斬』!」
昴は鎌でそれを受け止め、振り解いた。
「俺の力、しかと受け止めよ!」
蘇芳の右目は鬼火のように燃えていた。
「それをそのまま倍にして返してもらうぜ!」
昴は蘇芳が開けた結界を割って破片を降らすと、それを修復した。
「やるな!月輪とはまた違う力を感じる」
蘇芳は火球を全方位から飛ばすと、更に骨の槍の雨を降らした。
「『冥土の流星群』!」
昴は、それに流星群をぶつけ、何発か蘇芳に当てた。
「『獄炎爪』!」
蘇芳は炎の爪で昴を裂いた。それで昴の服が焼けたように見えたが、すぐに修復されてしまった。
「『火神円舞』!」
昴は、もう一度攻撃しようとした蘇芳を炎で足止めすると、爆発で蘇芳の炎をかき消した。
「『獄炎弾』!」
蘇芳は空から火球を降らすと、周囲はまた炎に包まれた。
そして、強烈な蹴りで昴を炎の海の中に沈めると、拳一発で押さえた。
「ぐっ…!」
「俺の方が一枚上手だ!」
その時、二人の背後から、大量の鏃が飛んできた。
「俺の前に姿を現すのは何千年振りかな、墨竜」
昴が背後を見ると、冥府神霊が全員来ていたのだ。
「その名はもう捨てた!」
その中から黒い竜が飛び出して、全方位から鏃を降らせた。
「我が名はグルーチョ、冥府神霊の長だ!」
「お前も堕ちたものだな、獄炎の輩の重鎮だったお前が、こんな無様な姿になっていようとはな!」
「お前ら、来るな!」
蘇芳は炎を纏った足でグルーチョを人蹴りすると、尾を引っ張って地面に叩きつけた。そして、残りの冥府神霊達を火風で一気に吹き飛ばすと、焼き尽くしてしまった。
「あっ…!」
「これで俺の力を思い知っただろ?」
蘇芳は炎の海の中に沈んだ昴の方を見た。
「そんなもんか?」
自分も焼かれ、仲間も倒されたはずなのに、昴は笑っていた。
「その余裕はなんだよ?」
「生憎、火に焼かれるのには慣れてるんだ、お前ら、言ったろ?俺は負けねぇって」
「昴様…」
「例えなんと言われようとも、俺は俺だよ」
昴は炎の中で立ち上がり、旋風で炎を消し飛ばした。
「風見昴だよ!」
蘇芳は口を大きく開けたが、またすぐに笑った。
「そうか、それでこそ俺の相手だ!」
蘇芳は両手に炎を纏い、昴に向かって来た。
「『冥道斬破』!」
昴はそれを受け止め、鎌で蘇芳を斬った。
「俺の本気を見せてやるよ!」
昴の手には金色の水晶があった。
「有水晶…、この力を放て、『神化』!!」
すると、神界の結界が爆風で割れて吹き飛び、昴は黄金の炎に包まれた。そして、紅い花弁とともに蒼い星が舞い、昴の姿が変わっていた。衣は一段と豪華なものになり、腰に巻いた縄は金属のベルトに変わり、五色の水晶が付いていた。
「冥府超魔神皇帝•昴…、ここに降臨!」
蘇芳は一瞬顔をしかめたが、すぐに笑った。
「これがお前の真の力か!」
「ああ、そうだよ!」
昴は結界を新たに造り、空高く舞い上がった。
「これが俺の力だよ!」
昴の周囲に六水晶が集まると、その光が鎌に集まりだした。
「『六連輪斬破』!」
昴の鎌は蘇芳を切り裂き、地面ごと吹き飛んだ。
「流石だな…、それでこそ俺の相手だよ、昴…」
蘇芳は笑い、そのまま炎となって消えてしまった。
「蘇芳…」
昴は有水晶の力で神界を元に戻すと、また何処かに行ってしまった。