表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

鬼界へ

 長い間落ちた後、太一は尻もちをついた。目の前は、さっきの青空とは変わり、赤黒い空と、鬼の角のような岩石がところどころにある場所だった。川だと思った場所には溶岩が流れており、泡からは何かが湧き出て来る。

「忍、何処に行ったんだろ」

太一は勇気を振り絞って一歩を踏み出した。人気は全くなく、溶岩が流れる音と共に、何かが呻く声が聞こえる。

「でも、なんでこんな所に…」

 その時、溶岩の中から黒い犬が現れた。目は赤く爛々と光っていて、明らかに太一を狙っている。

「あっ!」

 太一は鎌を持ち上げると必死にそれから逃げた。今までは、霊や怪を見つけた時はカメラで撮って倒していたが、今はそれがなく、昴に手渡された鎌しかない。

「こんなの…、どうやって使えばいいの?」

太一は鎌の扱いに戸惑ったが、お構いなしに怪は襲いかかってくる。

「…やるしかないの?」

太一は鎌を構え、怪の方を見た。そういえば太一は死神の戦いをあまり見ていない。それでも、太一は飛びかかってきた怪の方に鎌を振り下ろし、それを弾き飛ばした。

「やった?!」

だが、怪がそんなので倒されるはずもなく、再びこちらに向かってくる。その時、太一の目が黄色く光った。

「行こう、それが僕の進む道であるならば!」 

太一は、一旦後ろに引き下がり、走りながら鎌を振り下ろした。

「『霊葬斬』!」

すると、怪は蒸発するように消えてしまった。

「よし!」

 太一は先へ進んだ。鬼界には道なんてものはなく、剥き出しの岩盤を歩いて行く他ない。また、溶岩が至る所から吹き出しており、一歩間違えれば、命を落とすどころでは済まないだろう。それでも太一は歩き続けた。

「忍は何処なんだろ…」 

目の前には火山が見える。それも見上げても頂上が見えない程高かった。噴煙は盛んに吹き出し、何かが流れる音も聞こえた。

「鬼界って、こんな場所だったんだ…」

 そして、岩場が少し落ち着いたと思うと、目の前には大勢の魑魅魍魎の太一を見下ろしていた。

「えっ?!」

それらは太一を火やら毒液やら針などで一気に攻め込んだ。

「あっ!」

それをまともに食らった太一はひとたまりもないはずだった。だが、太一の周囲は強い光に包まれ、怪は一歩も寄せ付けなかった。目の前には水晶の欠片がある。

「これは…」

太一はそれを手に取り、ポケットの中に入れた。そして、次々と襲ってくる怪を倒していった。

「これが、鎌の力なのかな…?それとも、僕の力?」

「太一!」

 誰かが呼ぶ声が聞こえたので、太一はその方を見た。

すると、忍が縄で縛られている。その横には褐色の肌に黄色い二つの目、そして赤い第三の目がある半裸の鬼が居た。

「お前があいつを庇う奴か」

「どうして、鬼が忍を…?!」

「俺の名は刈安、魂を刈る鬼だ。そして、そいつは鬼の落とし子なのさ、生まれ変わって力を失い…、今まで現世に居たが…、そいつは本来俺達の仲間のはずなんだよ」

「えっ…?!」 

太一の頭の中は真っ白になってしまった。

「忍、それ、本当なの…?」

「俺だって分からない!」

忍は縄を解こうと藻掻いたが、刈安に睨まれ動けなくなってしまった。

「あいつは今死んでる、だが、俺の力を使えば禁忌なんて平気で犯せるさ」

「駄目だ!それをしてしまったら俺は…」

「忍!」

太一は鎌を取り出して縄を斬ろうとしたが、刈安に鎌で受け止められてしまった。

「生身の人間が、俺に敵うのか?」 

「うっ…!」 

太一はポケットの中の水晶を握りしめ、前を向いてもう一度鎌を構えた。

「いこう!」

「調子にのるなよ?『鬼の鎌刈』!」

刈安は鎌を太一に向かって振り下ろし、突き飛ばした。

「あっ!」

「お前にはこいつらの相手をしてもらうぜ」

 刈安が地面を踏み鳴らすと、そこから死人達が這い出し、太一に向かって来た。

「あいつは魂や肉体を操り、鬼術を使って蘇らせたり出来る厄介な奴だ。この鬼界は現世では奈落の底とも捉えられてるようだな…太一、大丈夫か?」

「『火葬斬』!」

太一は水晶を握り締めると、炎を纏った鎌を振り回した。

すると死人達は一掃され、周囲は炎に包まれた。

「人間の割には、中々やるな?」

「忍!早く…!」

太一は刈安の脇を急いで駆け、忍の縄を断ち切った。

「太一!」

そして、忍を側に連れて行った。

「お前、大丈夫か?!」

「うん…」

太一は頷いたが、鬼界にずっと居たせいなのか、違和感を感じて胸を抑え、跪いてしまった。

「生憎俺は死神なんかよりもずっと生きてるからな、そんな俺とは比べ物にならない生身の人間であるお前が、俺に敵うとでも思ってるのか?!まぁ、どうせここは鬼界だ、例えここで息絶えたってすぐに俺が蘇らせて、お前を下僕にでも使ってやるよ」

すると、太一は刈安を睨んで、立ち上がった。

「僕は、こんな所で果てたりしない!」

「口だけは達者なんだな?」

刈安は死人を再び呼び寄せた。

「僕は…、何としてでも忍を助けるって約束したんだ!」

太一の目が黄色く光ると、死人達の魂は抜け、身体は朽ち果てていった。それを見て、ずっと笑っていた刈安の顔が一瞬引きつった。

「あいつ、人間の癖に魂を…?!そんなはずは…」

「太一!刈安の胸を刺せ!」

忍が遠くでそう言った。

「あっ!」

太一は一瞬躊躇ったが、このまま居てもらちが明かないだけだ。太一は、鎌の先端に水晶を付け、動揺している刈安の胸に突き刺した。

「くっ…!お前…よくも…」

刈安は抵抗していたが、遂に魂も身体も朽ち果ててしまった。そして、薄い水色をしていた水晶は、黄色く光り、太一の手の中に収まった。


「お前、まさか鬼を倒してしまうとはな」

 忍は笑っていたが、太一は自分がした事に戸惑っていた。

「これ、僕の力なの…?」

「ああ、これは紛れもなくお前の力だよ」

「これが、僕の…」

太一は水晶を握り締めた。

「だんだん思い出してきた…、俺は獄炎の輩の一人の織部っていう鬼だったんだ…。そして、太一、お前が持ってる水晶は魔水晶、怪や鬼の力を封じた水晶なんだ。俺達はその力を使って鬼界の怪どもを支配してた」

「そんな事が…」

「ここを抜け出さないとな…」

 二人が立ち上がったその時、突然爆風が吹いた。そして、周囲が急に明るくなったと思うと、二人は何処かの上空に投げ出されていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ