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忍の異変

 そのまた次の日も太一と忍は霊を退治しに行っていた。

「隣町へ向かうぞ!」

「うん!」

忍が何故自分と似たような境遇であるはずの霊を、太一に退治させているのか、それは明かしてはくれなかった。

それでも太一は、自分の能力をここぞというときに使おうと、頑張っていた。

「次はどんな霊なの?」

「さあ、それを俺が知ってると思うか?」

「うん…」

太一は前を向くと、自転車を漕いで隣町へ向かった。霊の忍は荷台には乗れないが、素早く動けるのを利用して太一についていった。


 隣町との境目である橋に着いて、休憩してると、その横で、太一の母親よりも年上くらいの二人が喋っていた。片方は女性で花の髪飾りをしていて、もう片方は黒髪に緑目をした男性だった。

「あっ、こんにちは」 

二人は太一の方を見ると驚いていた。

「こんなところまで二人で来て…、大変だね」

「えっ…、まさか…視えるんですか?!」

二人は頷くと、男性の方が忍の方を見た。

「お前…、人間じゃないな…」 

忍は男性の目を見ると後ずさりした。

「君は分かるんだね?」

「だって、人間じゃない気を感じるし、目が妖の目をして…」

「人間じゃない事は確かなんだけどね、僕は生死者、生きてるんだけど死人の性質を持ってるっていう事かな」

「そうなんですか…」

太一は何を思ったのか男性にカメラを向けた。

「死人だったらこれで…」

だが、男性は異変を感じるどころか嫌がりもしなかった。

「写真?撮って良いよ、杏ちゃんとツーショット何年振りかな…」 

太一は躊躇いもなくシャッターを押した、だが、男性に変化は何もなく、太一は首を傾げた。

「あれ?僕の能力でこの人は…」

「能力?」

女性の方が首を傾げた。

「あっ、いや、何というか…」

「君は能力持ちなの?」

「すみません、変な事言って…」

すると、男性の方が首を振った。

「変な事じゃないよ、僕の友達も能力というか、強い力を持っててね…」

「あっ、そうなんですか?!」

太一は言うかどうか躊躇ったが、二人には自分の事を明かしても良いと思い、話しだした。

「僕は、何かに取り憑いてるものとか、霊とか魂を殺す力があるんです」

「へぇ…、それって生きてても死んでても効くの?」

「それは…、僕にはよく分かりません」

「多分…、今は心身共に生きてた状態だったんじゃないかな?」

男性の方がそう答えた。

「そんな事があるんですか?」

「生死者は身体か魂がどちらか、あるいはどちらも死んだ状態や生きた状態になるからね」

「そうなんですか…」

すると女性の方が男性にこんな事を聞いてきた。

「息子さん…、浩介君は元気なの?」

「ああ、僕と違って生きてる人間だからね、これだけは遺伝しなくて良かったよ」

「あの…、お二人は夫婦ではないんですか?」

仲睦まじくしている二人が夫婦ではないと分かった太一は驚いた。

「ううん、お互い結婚してるし、子供も成人してるから…」

「へぇ…、で、さっきおっしゃってた友達ってどんな人なんですか?」

すると女性がクスリと笑った。

「あー、あいつは私の夫なんだけどね、もうめちゃくちゃでね…、でも、一途で、強くて、いいやつだよ」

「へぇ…、そんな人が…」

太一の頭ではその人がどんな人かは想像出来なかったが、そう話している女性が幸せそうなので、これ以上の事は聞かないようにした。

「それじゃあ、僕達そろそろ行きますね」

 太一は一言そう言ってお辞儀をすると、自転車に乗って橋を渡った。

「あの二人何だったんだんだろうな」

「さぁ、でもいい人達だったよ」

忍は首をひねると、太一の先を行った。

「さぁ、とっとと霊退治しようぜ」

すると、二人の脇を犬の霊が横切り、奥の路地で鳴いた。

「追うぞ!」

「うん!」

太一は自転車をたちこぎして必死にそれを追ったが中々追いつかない。

「あいつ、すばしっこいな」

「忍、先回り出来ない?」

「出来る訳ないだろ?!」

 犬はこちらの動向には気づいてるらしく、威嚇するかのように吠えると、何処かに走って行った。 

「なんで僕達に…」

「おい、あれは何だ?!」

 背後から気配を感じたと思うと、追っていたものと同じような犬の霊の大群が、二人を威嚇していた。

「えっ…」

「群れれば勝てると思ってんのかよ」

「いや、退治するの僕なんだけど…」

太一がカメラを向けると、犬は太一の視線から逃げるように逃げ、忍の方に向かった。

「どうしてまた忍の方に?!」

「早くこの霊どもを何とかしろ!」

「うん!」

太一は忍に寄り付いてる犬の大群を一気にファインダーにいれようとしたが、忍まで殺してしまうのでやめた。

「早くなんとかしろ!」

「でも、今やったら忍が!」

「太一…」

太一は忍を逃がすと、一匹一匹確実に霊を撮っていった。

「俺を庇ってくれてんのか…」 

太一のカメラに写った霊は蒸発するように消えていき、忍に寄りつくものも居なくなった。そして、最後の霊を退治した太一は、忍の方を見て笑った。

「これでいいんでしょ?」

「お、おう…」

その笑顔をみて何処かむず痒くなった忍は、太一に背中を向けた。

「なぁ、なんで俺を守ってくれるんだ?」

「約束でしょ?僕、ちゃんと約束守るからね」

忍は太一の言葉に答える事が出来ず、そのまま前に向かって行った。


 太一は自転車を漕いで路地を抜けると、河川敷に来た。

「忍?僕変な事言ったっけ?」

「いや…、変なのは俺の方だよ」

忍は波打つ川面を見ると、自分の姿が映ってない事に気づいた。

「俺はもう死んでる、それなのにどうして生きてるはずの太一が俺を庇ってるんだ?」

「それは…」

「何かを守る為に必死になって…、ホントにどうかしてるよ…」

「うん、僕もそう思うよ」

だが、忍は同情は求めていなかった。

「どうかしてるって分かってるんだったらさ、なんでどうにかしないんだよ?」

「それは…」

「お前は大事な話に限って言葉が詰まる癖があるよな?!」

すると太一は珍しく大声で叫んだ。

「当たり前でしょ?!」

それに驚いた忍はこれ以上詰め寄るのをやめてしまった。

「何が、当たり前なんだよ…」

「困ってる人が居たら助けるのは当たり前でしょ?!」

「あっ…」

「僕はそう思ってるし、それに、そうしないとご先祖様に色々言われそうだから…」

「ご先祖様?」

「変な話だって言われそうなんだけど…」

そう言って太一が語りだしたのは、『風見の少年』の物語だった。

 風見瞬、太一の五世代前の先祖で、今の太一と同い年の頃、自分の能力を使って、狂気に陥っていた怪奇小説家の渡辺茂を助けたというものだった。その時の瞬は、この事を成し遂げられるかという不安に陥りながらも決意を決め、それを成し遂げたのだ。この物語は茂の手によって広まり、太一の一家など、死出山を知る者達の中では最も有名な話となっている。

 だが、太一はその話を誰からも聞いた事は無いし、本も読んだ事が無かった。太一はその物語を、あたかも自分の物語のように記憶していたのだ。

「確かに、変な話だよなぁ…」

「僕ね、一つ思うことがあるんだ、それは…、僕がその『風見の少年』だったんじゃないかって」

「太一が?!ヘッ、笑わせるなよ」

「でも、僕は本気でそう思ってるよ」

「でも…、考えてみれば太一に似てるよな…、そして太一は俺の事で必死になってる」 

忍はふわりふわりと浮き、水面に立った。

「俺だって、俺の事何も知らないのにな…、それをもっと知らない太一が俺を助ける事なんて、出来るのかよ…」

 忍は俯いて水面を覗くと、自分の姿とは違う黒い影が映っていた。

「あっ!」

「どうしたの?!」

黒い影は太一の目の前に姿を見せると、忍を黒い腕で掴み、川に引き摺り込んだ。

「忍?!」

太一は何も考えずに川に飛び込んだ。だが、中には忍どころか忍を攫った黒い影も居ない。川は思ったよりも深くて流れも早く、泳げるはずの太一もどんどん沈んでいく。

「そんな…」

 太一はこのまま、死んでしまうのではないかと思った。ふと横を見ると大切なカメラと一緒に沈んでしまったと気づき、後悔した。

「みんな、ごめん、…忍、このまま僕は死んじゃうのかな…」

すると、上の方から声が聞こえた。

「おい、そこの命知らずの少年」

「えっ?」

太一は頑張ってその声がする方にむかったが、意識はそこで途切れ、そのまま川の底に沈んでいってしまった。

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