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果てなき世界へ

 あれから、しばらく経ったある日の事だった。天気の良い休日に、太一と早苗と駆は、近所の小さな公園で、二人の子供と遊んでいた。一人は鳶茶色の髪の毛をした一歳くらいの少年で、もう一人は、暗めの茶色の髪の毛をサイドテールにした四歳の少女だった。二人は太一に近寄り、腕を引っ張りあっている。

「お兄ちゃん、遊ぼ!」

「真由ちゃん、照彦君、ちょっと待って…」

兄弟が居ない太一は、あまり幼い子供と遊んだりした事はないが、何故か二人には人気だった。

「凄いね、太一君」

「ああ、おもちゃにされてる気がしなくもないけど…」

 真由は太一を引っ張って砂場まで連れて行くと、バケツの中に入っていたものを見せた。それは、真由が集めたと思われる干からびたナメクジだった。

「えっ?!」

「どう?凄いでしょ!」

「えっ…、あ、うん…」

太一は、今まで生きてきた中で、干からびたナメクジなんてものを見た事がなかった。

「お兄ちゃん、ナメクジ嫌いなの?」

真由が不思議そうな目で太一の方を向いてくる。

「いや、そういう訳じゃないけど…」

太一はナメクジをじっと見た後、バケツの中に戻していった。

 その様子を、二人の両親が眺めていた。太一は、朝日と晃にはあった事があるものの、母親の方には会った事がなかった。

「流石、僕の娘なだけあるよ」

「ホントだな、晃の女版…」

太一は、晃の存在を今の今まで気づかず、声を聞いて驚いた。

「えっ、晃さんの娘さんですか…?!」

太一が振り向くと、そこには晃がすぐ近くに立っていた。 

「あっ、娘さんがいらっしゃったんですね…、てっきり浮浪者かと…」

「浮浪者って…、まぁ、分からなくもないけど…」

失礼な事を言われてるはずなのに、晃は笑っていた。

「私が引き取らなきゃ、まともな人生送らないから…」

真由によく似たサイドテールをした女性が腕を組んで、ため息をついた。

「姉ちゃん、よくこんな爆弾受け持ったよな…、俺だったらお金もらってもしないぞ?」

「あの、朝日さんのお姉さんって…」

よく見ると、陽和の目元と態度は、杏にそっくりだった。

「あぁ、風見陽和、俺の双子の姉ちゃんだよ」

「あっ、それで従兄弟って…」

真由は太一の元を離れ、陽和の元へ駆けていく。

「真由ちゃん本当に可愛いよね」

 朝日の妻である雪花が、陽和と並んで真由を見ている。

「由香さんと真海さんの漢字をとった名前なのに…、全然女の子っぽくないわね…」

「そういえば…、太一君って由香さんの子孫だったよね?」

四人が一斉に太一の方を向いてくる。それに戸惑った太一は冷や汗をかいた。

「えっ?!」

「まぁ、別に良いよ」

 太一はほっとして胸を撫で下ろしていると、駆が古そうなカメラを持ってきた。

「これ、叔父さんが是非太一にってさ」

そのカメラは、形式は少し古いものの、太一が今まで使っていたものによく似ていた。

「本当に?!ありがとう!」

太一は、駆の手を握ると、ぶんぶんと振った。

「良かったね、太一君!」

太一はカメラを嬉しそうに手に取ると、照彦と真由の写真を撮って、四人に見せた。

「これでまた、写真を撮りに行けるよ!」

太一の喜ぶ顔を見て、他のみんなも笑っていた。

 朝日は、たどたどしい歩調で歩いて来た照彦を抱え上げ、背中を叩いた。

「とりあえず、今日はありがとな」

「こちらこそ、ありがとうございます」 

 太一達三人は、朝日達に深々とお辞儀をすると、真由と照彦に手を振った。

「また、会いましょうね!」

そして、三人は一緒に歩いていった。

「今日は楽しかったね!」

「うん、それにまた、カメラを持って旅が出来るよ」

太一はカメラを大事そうに抱えていた。

「実は…、僕ずっと不安だったんだ。自分だけ強い力を持ってて、その辛さを誰にも明かせずに居た。二人ももちろん居るけど、僕の気持ちなんて分からないと思ってた。死神になったって分かった時、怖かったんだよ、なんで僕だけがこうなってしまったんだろうって思って、忍を助けた事を後悔して、自分を責めかけた。だけど…、駆や早苗ちゃんはそれを受け入れてくれたんだよ。あの時自分を捨てかけたけど…、僕を待ってる存在が居るって思ってはっと目が覚めたんだよ。だから、またこうしていつものように三人で過ごせるんだね」

「太一…、お前は何があってもお前だよ。大切な人の為に身を投げようとする覚悟は本当に凄かった。だけど…、太一が人を大切にしてると同時に、お前も大事にされてるんだよ。だから…、何があっても自分をないがしろにするな。俺だって太一の為になりたいんだよ!」

駆は太一を真剣に見つめていた。

「駆…、こんな僕を思ってくれて…、ありがとう」

太一は二人を見て笑った。

「それと、昴さんも言ってたけど、もっと自分に誇りを持てよ。少なくとも俺は太一の友達であることに誇りを持ってるぞ?だから、胸を張って、もっと自分を信じて進んでいこうぜ?」 

駆は力強く太一の背中を押した。

「うん…!」

それから、三人は駆け出した。そして、海辺にある『光の樹』がある小さな丘に着くと、そこの草むらに寝そべり、三人が同じ顔をして笑っていた。それに理由なんてなかったし、考えもしなかった。だが、今の三人の心はとても満たされていた。そして、海に日が沈む所を並んで座って見ていた。それは、太一が今まで旅してきたどの世界の光景色よりも、美しかった。太一はその光景に、いつまでも、いつまでも、見とれていた。



 太一達が夕焼けを見ている頃、同じようにそれを眺めている者が居た。青波台に暮らす会社員の有年幸弘だった。久々に定時に仕事が終わった幸弘は、ベンチに座って夕焼けを見た後、家とは違う方向に歩いて行った。

「実家に顔を見せに行くか…、二人共、元気にしてるかな」

幸弘の子供である源太は、すっかり独り立ちをし、今はK市の会社で働いている。今まで子供と接してきた幸弘は、今度は、両親である芽衣と奏音と接していこうと思ったのだ。

幸弘は、駅前の花屋で花束を買うと、それに合わないくたびれたスーツ姿で、ゆっくりと坂道を上がっていった。


 日が落ち、町が夜の活気に満ちた頃、K市の繁華街では、源太と、その先輩にあたる二見勝が、飲み屋に行っていた。

「なんか…、疲れましたね」

源太は顔を赤くして、半分以上残っているビールのジョッキを置いた。

「何言ってるんだ、お前の人生まだまだこれからだぞ?俺の人生もな」

「そういえば…、息子さんはお元気ですか?」

「文和か?まぁ、最近ずっと部活で忙しそうにしてるから、最近顔を合わせてないなぁ…」

勝はそう言いながら、小鉢にある漬物を取った。

「そうですか…、頑張って下さいね」

源太は残りのビールを無理矢理飲み干すと、財布を取り出した。

「ああ、良いよ、俺が全部払う」

「いいんですか?!なんか…、すみません…」

勝は、源太の分も勘定を支払うと、真っ直ぐ家に帰っていった。


 勝の息子の文和は、中学校てサッカー部をしている。まだ一年生なので、レギュラー入りはしていないが、それに向けて精一杯頑張っている。

「文和、お疲れ」 

その様子を並辺湊が見守っていた。

「湊…、いつもありがとう」

湊は、抜群の運動神経と、サッカーのセンスを持っている。文和が中学からサッカーをし始めたのは、湊の影響だった。

「俺に出来ることは、これぐらいしかないから」

「そんな事ない!サッカーも勉強も凄いし、僕なんか…」

「いや、俺にも出来ない事はあるよ」

湊は、文和の側に来て、一緒に座った。

「母さんの方がもっと凄いよ、大切な妹を助ける為に命を投げ出した事があるんだって。そんな事がもしあったら、俺は自分を大切にしてしまって、出来ないと思う。だから、俺は誰かに寄り添う事か、見守る事しか出来ない。俺が身を徹して誰かを誰かを助ける事なんか…」

落ち込み出す湊の肩を、文和はそっと叩いた。

「そんなこと無い、湊だって人を助ける事は出来るよ。現に、僕は文和の存在が助けになってるから」

「そっか…、ありがとな」

湊は文和の方を向いて微笑むと、傷だらけのサッカーボールを持って、グラウンドに出た。


 別れもあれば出会いもある。それはいつも思いがけないものばかりだ。同い年の粟生秋花と津久野貴は当たり前のように公園で仲良く遊んでいる。

 二人は、かつて親達の間に何があったのか知らない。いずれ知る事になるだろうが、今は何も関係がない。

親達が物語を紡いできたように、その子供達や、意思を継ぐ者達も物語を紡いでいく。それは決して全てが輝かしいものではない。辛い事や悲しい事、忘れたい事だってある。

本の中の物語はいずれ終わる、だが、人の人生が紡ぐ世界という膨大の物語は、終わりがないのだ。その中に、自分の、誰かの人生という物語が無数にあり、それぞれが全く異なるものを描いていく。


 ある時は異郷の地で、またある時は、何もない場所から、物語は始まっていく。

フランスで画家を目指す学生のアリスは、祖母のソフィアから、先祖である真海の話を聞いた。

かつて起こった物語から、新たな物語が生まれる事もある。だが、全く同じ物語は一つとして存在しない。

 もし、自分が誰かの産まれ変わりだったとししても、それとは違う道を歩む事だってあるだろう。

隆と紗佳は、縁側で並んで座っていた。ずっと昔にも、似たような光景があったかもしれない。だが、全く同じ道だった訳じゃない。確かに、隆はその後作家となって本を書いているが、あの時とは全然違うものだった。


 今日もまた一つの小さな、だが、その人にとっては大きな物語が始まっていくのだろう。その様子を遠い場所から、誰かが見つめていた。

「あいつら、本当に頑張ってるな」

神界で昴は、様々な人の様子を見ていた。空は今日も青く、七色の光の粒が舞っている。

「俺はこれからも生きていく、例え俺を知る存在が居なくなったとしても、この世界が俺だけになったとしても…」

眩しい光が、昴を照らしていた。

「昴様、我々はずっと昴様の元に鋳ますよ」

昴が振り向くと、そこには冥府神霊達が居た。

「お前ら…、でもいいのか?俺は全てを超えてやるつもりだ、この果てなき世界の、その先に行ってやるのによ」

「それでも、俺達は昴様に付いていきますよ」

冥府神霊達は一斉に駆け寄り、昴を囲んだ。

「本当に…、ありがとな」

 昴は一同の方を向いた後、もう一度上を見上げた。果てしなく高く、澄んだ空が広がっていた。

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