霊殺カメラマン 太一
彼は突然能力が目覚めた。両親も、そのまた祖父母達も、能力は持っていなかった。昔は持っていた人も居たらしいが、彼の周囲には誰も居なかった。
自らが死にかけた時、能力が目覚める事がある。彼の場合はまさしくそうだった。
風見太一は朝日が照りつける部屋で目を覚ました。栗皮色の癖毛とおどけたような目をした、見た目だけでは冴えない小学五年生の少年だった。
太一はいつものように朝の支度をすると、玄関から声が聞こえた。土器色の髪の毛を一部分結んだ少女と、代赭色の跳ねた毛の少年、クラスの中でも仲の良い河瀬早苗と三輪駆だった。
「太一、そろそろ行くぞ」
「うん、分かった!」
太一はランドセルを背負って駆け出して行く。何気ない日常の一ページだった。
ただ、太一にはある力があった。そのせいで危険な目に遭うことも多く、二人に迷惑をかけることもあった。
休日になると太一はよくカメラを持って出掛けていた。別に誰の影響でもないが、昔は家にあるカメラを持ち出していた。そしてある年に、お年玉を貯めて一眼レフカメラを買ったのだ。
はっきり言って自分が上手く使いこなせているか自信はない。だが、こうして出掛けて風景を写真に撮るのが好きだった。
今日は自転車を漕いで少し遠くまで出掛けた。青波台も広いといわれていて、太一は今までそこから出た事が無かった。そこで川を超え、同じ町内である水鳥橋に向かったのだ。池の真ん中に行ってシャッターを押す。時期になったら鳥が行き交うのだが、今は池に何も居なかった。
一枚撮って確認し、もう一度シャッターを押したその時だった。何処からか悲鳴声が聞こえたのだ。だが、太一は何も驚かずにそのまま写真を取り続けた。
そして、橋から降りてもう一度写真を確認した時、真っ黒で何も写っていない写真や、居ないはずの女性が写った写真など、同じ場所で撮ったはずなのに最初の一枚とは全然違うものがあった。
「あぁ…、また写ったかぁ…」
太一にとってはよくある事だった。もちろん最初は驚いて悲鳴を上げ、目の前のものが信じられなくなった。だが、何回も同じような事が起こるうちに慣れてきたのだ。
小学三年生の時、太一は家の近くの交差点で車に轢かれかけた。後で話しても誰も信じてはもらえなかったが、実はその交差点には怨霊が居たのだ。
普段通りに交差点を通る太一に、暴走した車は容赦なく向かって来た。とっさに行動も出来ず、車にそのまま跳ね飛ばされ、車道に転がった。
気が動転していて、何故自分がそんな事をしたのかは今でも全く分からないが、太一は落ちた自分の携帯電話を拾い、親にも警察にも連絡を入れず、カメラを立ち上げて、自分を轢いた車を撮った。
すると、画面に黒い靄のようなものが映ったと思うと、何処からか悲鳴が聞こえ、何かが刺さる音がした。
「あっ…!」
画面を見ると、そこには怨霊が無残なまでに殺されている場面が映っていた。
「なんで…」
歩道に戻るにしろ身体は動かなった。膝からは血が流れ、異常な痛みも感じる。クラクションが鳴らされる中、太一の意識は遠のいていった。
気付いた時には病院に居た。両親は心配そうに太一を見ている。携帯電話は車に轢かれて壊れてしまったらしく、あの写真を再び確認する事は出来なかった。
だが、あの時写ったものは頭から離れなかった。それから、元から写真はよく撮っていたが、カメラを持ち歩くようになったのだ。
そこから、太一は人とは違う特別な能力を持つようになったのだ。『憑殺』、取り憑いている霊に干渉する事が出来るものだった。目に映ったものでももちろん可能だが、カメラで写すことにより精度が増す。写真にはしょっちゅう霊などが写り込むようになった。撮るときに悲鳴が聞こえるのは恐らく、霊がその場で死んでいるからなんだろう。太一は自転車を漕いで何も起こっていないかのように家に帰って行った。
平日は駆と早苗と一緒に居た。あの一件があってから、太一は霊や妖の姿がはっきりと見えるようになった。そして、そういう存在のものは居ないと信じる人が苦手になったのだ。そういう人程憑きやすいっていうのが分かっているからだ。
その点、駆と早苗は太一の言う事はどんな事でも聞いてくれるし、あり得ないと思われるような事も信じてくれた。最近では近所の霊を退治してほしいとお願い申し上げされる事もあった。
「太一、お前にお願いがあるんだ」
「良いけど、何?」
「この前クラスの子が町外れの交差点で幽霊をみたんだって、見てきてくれない?」
太一は一言、うんと頷いた。
「助かるよ、霊に何か出来るの太一君だけだもん」
「そう?なのかな…」
「絶対そうだよ!」
「分かったよ…」
駆と早苗はやったと言って笑っていた。
「僕に出来るか分からないけどね…」
太一は自信がなさそうにそう呟くと、自分の席に座り、ずっと考えていた。
「僕がやらないといけないのか…」
太一は教室の天井を眺めていた。
放課後、ランドセルを置いてカメラを持ち出した太一は、町外れの交差点に向かった。
「ここ、だったよね?」
太一がカメラを構え、シャッターを押そうとしたその時だった。突然何者かに腕を掴まれ、カメラを落とされたのだ。
「あっ!」
「俺が生きた証を…存在を消すな!」
掴んできたのは霊で、膝から下は透けている。若緑色のシャツに灰色のズボン、黒色の跳ねた毛をした自分と同じような少年だった。
「君が、この交差点に憑いてる霊か…」
太一は霊の腕を振り解き、カメラを持った。
「今すぐ死んでもらうけどいい?」
「おい!」
霊は太一に詰め寄り、必死に止めた。
「なんで…、駄目なの?」
「お前今まで躊躇いもなく霊を殺してきたのかよ?!」
「うん」
霊は溜息を付いた。
「全く…、お前はなんだ?人間か?死神ではなさそうだな」
「僕は人間だよ?」
「にしても…、力が人間のものじゃないな」
「どういう事?」
太一は霊が言っている事がさっぱり分からなかった。
「まぁ…、お前が分かってないならいっか」
「僕全然分からないんだけど…」
霊はニタニタと笑って太一に詰め寄って来た。
「俺は高田忍、ここで死んだ霊さ、まぁ…それ以外の事は全く覚えてないがな、と、言う訳でお前に永遠に取り憑いてやるぜ」
すると太一はカメラを向けた。
「僕に取り憑くの?霊だったら未練とかあると思うけどね…。それでこの世にしがみついてるなら、その未練が済んだら僕から離れてくれない?」
忍は頷いた。
「ああ、良いぜ、俺の未練が済むまでな、約束な」
すると太一はカメラのレンズを忍の目に付けた。
「その代わり、約束破ったら今すぐこのカメラのシャッター押すからね?」
忍は恐れを感じながらも頷いた。
「お、おう…、というか今すぐカメラを降ろせ!」
「えっ、駄目?」
「駄目に決まってるだろ!」
「…そっか、」
太一はカメラを降ろして歩いて行った。
「で、お前の名前は?」
忍は太一の後を付いて行く。
「僕?僕は風見太一だよ」
「太一か…、まぁ、覚えとくか」
そこから忍は家まで付いて行く事になったのだ。




