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第73回!
「気をつけて…」
ヒリナの声で、僕達は早足だった歩みを止めた。
深い森の奥。
少し霧がかかった靄の中。
人影のようなものが見えた。
ゴクリ…。
僕は喉をならし、その方向に集中する。
冷たい一滴の汗が頬を流れる。
僕は目を凝らし、それが何者であるか全身で感じ取る事に専念した。
フラフラと揺れる人影。
僕の背筋はゾクリとしてしまう。
その人影はあの女性に酷似していたからだ。
大丈夫のはずだ。
まだ、僕達はウィルの魔力を手に入れていない。
なら、あの人影が魔族だとしても狙われる事はないはずだ。
あちらの仕様が変わっていなければの話だが…。
人影が近づくにつれ、ヒリナが剣に手を当てる。
厳重な警戒の中、人影ははっきりとその姿を現した。
長い髪の金髪…
見たことも無いくらいの幻想的な、金髪だった。
人間とは違う。
その妖美に僕は再び喉を鳴らした。
(エルフだね)
ウィルが結論を述べる。
エルフとはこれほどまでに綺麗な種族なのか…。
(気をつけなよ?エルフは人嫌いだからね)
「え…?」
僕がウィルの言葉に気をとられていると。
キィンッ!と言う大きな音が、僕の目の前で響き渡った。
何かが何かを弾いた音だった。
次の瞬間、ヒリナが何かを剣で弾いた音だと認識できた。
「下がって」
ヒリナの声で、僕達は一歩後ろに下がる。
そこでヒリナが何を弾いたか気がついた。
矢だ。
弓を持ったエルフが僕たちに矢を放ったのだ。
ヒリナが剣を構える。
距離が遠すぎる、ここは、ウィーネの水弾に任せたほうが…。
と僕が思った瞬間、次の矢が放たれた。
ヒリナはそれを弾き、一呼吸でその間合いを縮めた。
え…!?あの距離を…?早すぎる…。
足場が悪いはずなのに、50mはあったかと思われる距離を、一瞬のうちに狭めたのだ。
ギィン!!!
重い音が辺りの森に響き渡る。
間合いを詰めたヒリナの一振りをエルフは短刀で耐え凌いだ。
だが、それも次の斬撃により、短刀を手元から失った。
「終わりね」
ヒリナがエルフの顔に剣を突きつけ、冷たく呟くと、エルフは観念したのかその場にしゃがみこみ、顔を伏せた。
僕達も恐る恐るも、そのエルフに近づくことにした。
近目で見ると、本当に透き通るような金の髪だった。
日を通さないこの深い森であっても、その髪は神々しく輝いて見える。
「綺麗…」
クラサがふいにつぶやいてしまい。
はっとして、自分で自分の口を塞いだ。
(エルフは、高魔力を生れ付き持っているからね。特徴として、それは髪に表れているんだよ)
それに対し、ウィルが補足を提示した。
(綺麗さ故に、その髪を狙う者もいる。人間族は業深き生き物だからね…それ故に嫌っているんだろうね。それ故に発展してきた種族だし、もちろんそうじゃない人間も居るけどもね)
何処の世界でも、人間というものは同じなのだろう。
僕は、ウィルの言葉に切なさを覚えてしまった。
エルフは、顔を上げると僕たちギッっと睨み付けた。
端正な顔立ちが、僕たちへの怒りで歪んでいる。
「…ヒリナ、剣を下ろして欲しい」
「え…?分かってる?剣を下ろしたら、反撃されるかも知れないんだよ?」
それは分かっている。
「僕達はいがみ合いに来たわけじゃない」
「そうだけど…」
「お願い、ヒリナちゃん」
クラサも一緒にお願いする。
「えぇ…」
困惑しながらも、なくなく剣を下ろすヒリナ。
「ごめん、ヒリナのお陰で助かった」
そう言葉をかけると、ヒリナはため息を吐いてから「甘ちゃん」と言い放ち剣を下ろした。
僕はその言葉に苦笑し、膝を折り、座り込んだエルフと目線を合わせ話す事にした。
「…殺さないのか?」
ここで、エルフが初めて口を開いた。
「うん、何があったか教えて欲しい」
情報は必要だ。
魔族の襲来は僕たちの勝手な予想上での状況判断であって、本当の情報からではない。
現場の情報は得ていて損はないはずだ。
「……」
じっと僕の目を見つめるエルフ。
僕はそれに答えるように目を反らすことはしなかった。
「…分かった」
僕の真剣さが伝わったのか、エルフは応じてくれたようだった。
ヒリナさんは強いんです!!




