考察
第7回!
「それでは、キリヤードを返してもらってもいいですか?」
「キリヤード?」
「はい、その剣の正式名称です」
「……」
僕が渋っていると。
「大丈夫です。持って逃げたりはしませんので…約束します」
少女…。クラサは優しくそう言ってくれた。
僕は、小野さんの入った剣に視線を送ってみた。
(…うん…大丈夫だよ。渡してあげて)
最初の「うん」にこそ不安そうな声だが、その後の言葉には強さを感じた。
「…分かった」
僕は渋々、クラサに小野さんを預ける事にした。
ほっとするクラサ。
これで良いのだろう…。
「△$○♪×¥◆&%#」
え…?
「…今なんて?」
僕は自分の耳を疑った。
さっきまでちゃんと通じてた言葉なのに。
「…?◎△♪×●%?」
言葉が分からない…まさか…。
「剣を…」
僕は手をクラサに向ける。
察してくれたのか、クラサもその手に剣を乗せてくれた。
「この剣がないと、この世界の言葉を理解できないみたい…」
ちょっと嬉しかったり。
これも何かの魔法だったりするのだろうか。
「ぐぬ…仕方ないですね…。行動を共にするのに、会話できないのは不便ですし…その剣はお預けします。」
まさかの展開に、少し困惑しながらも、クラサは渋々了解してくれた。
(えへへ…ただいま)
ちょっと照れくさそうに小野さんは声をかけてくれた。
「うん、おかえり」
僕が剣に向かい、そう囁いてるのを見て、小さいため息をつきながらクラサは言葉を繋げた。
「…体は動きますか?」
僕はその言葉を聞き、上半身をあれこれと動かしてみた。
気だるさは残っている。
動こうと思えば動けるが、やはりヘロヘロなのは変わらないだろう。
「まだ無理みたい」
僕の正直な意見を聞き。
クラサは小さく薄めの唇に手をつけ、しばらく考えるそぶりをしてから、これからの方針を述べた。
「分かりました。では、明日の夜明けと共に出発しましょう、ここにはかなり長居してしまったので…」
「長居って…?」
「あ…言っていませんでしたね。あなたは丸一日眠っていたので…」
「あれからって事?!」
「そうですね。あれから丸一日です」
僕は剣の中の小野さんを信じられないという目で見つめると。
(うん…嘘はついてないよ)
クラサも同意した。
「…理由は、光を放った後遺症だと考えます」
確かに、光と共に僕の意識は遠退いたから、間違ってはいない…。
「あの光はなんだったと思う?」
敵を瞬時に倒したという光。
使いこなせればかなりの武器になると思うけど…。
「多分、剣の力かと…。ですが、私はそんな能力は聞いた事がありません」
聞いた事がない…?
その返答に。
「剣の番人なのに?」
ちょっと意地の悪い返しになってしまう。
「むっ…その剣の伝承では、そんな話はなかったはずです」
気分を害したのか、クラサの口はへの字に曲がっている。
(今のは、川本君が悪いと思う……謝ったほうがいいよ…)
「ごめん…」
僕が素直に謝ると。
「いえ…きっとあなたの立場だと、私も不安で仕方ないと思うので、気にしてはいません」
クラサは手を横に振り、僕の気持ちを肯定した上で、機嫌を直してくれた。
「…ありがとう」
僕の笑顔に、クラサは慌てるように
「では!今日は食事を取って早めに休みましょう!」
照れくさかったのだろう。
クラサは椅子から立ち上がり、ドアの方へ近付いていく
「食事を取ってきますね」
笑顔で、クラサはその場を後にした。
(いい子だよね…)
小野さんがそうつぶやいた。
「うん、とってもいい子だよね」
僕は同意する。
本当に、とってもいい子だから…。
「きゃあぁああああ!!!」
ガシャン!という音と共に、喧騒が聞こえてくる。
男のボソボソ声と。
「知りません!」
クラサの大声が聞こえてくる。
!?
ここまでの大声をクラサが上げるとしたら、理由はただ一つだ。
刺客に襲われているのだろう。
「行かなきゃ…!」
僕達の話を聞いてちゃんと信じてくれたクラサ。
今の自分が行っても何も出来ないと分かっていながらも、動かずには居られなかった。
僕はベットから立ち上がると、まだ回復していない身体で、フラフラと覚束ない足取りでドアへと向かおうと試みた。
ガタン!
(川本君…!)
僕はクラサがさっきまで座っていた椅子に躓き、転んでしまう。
「くそっ…!」
喧騒は続いている。
だが…
さっきまで騒いでいたクラサの声が聞こえなくなった。
どうなったんだ…?
クラサは…?
嫌な予感が頭をよぎる…。
寝転がっている場合じゃないのに…。
これ以上、僕の身体はいう事を聞いてくれなかった。
テンションあがってきたぁ!