協力
第6回!
「違うんだ!」
僕は慌てて否定した。
いや、否定など意味がないほど、見たままの状況だったんだけども…
その…少女の変態をみるような目だけは納得できない。
「何がですか…?」
怪訝そうな表情で少女が答える。
あ…れ…?
言葉が分かる…。
気絶する前は、何を言っているか分からなかったのに…。
「その…返してもらっても良いですか…?」
「え?」
あ、このナイフの事かな…。
でも…この中には…小野さんが居る。
渡したくないのが本音だけど…。
ちゃんと説明してみようか…?
いや…説明した所で、自分達でもこの状況をちゃんと理解できていないのだ、ちゃんと理解して貰えるのだろうか。
「気絶してる時も離してくれなかったので……ずっと目が覚めるのを待っていました」
やろうと思えば、手を切り落とすことも出来ただろうに。
ここまで運んでくれたばかりか、ずっと待っててくれたらしい。
もしかしたら、話を聴いてくれるかもしれない。
「聞いていますか?」
余程、大切なものなのだろう。
早く返して欲しそうにそわそわとしている。
「…その前に聞いて良いかな?」
「なんですか?」
何を聞く?何を言えば良いんだ…。
混乱した僕が発した言葉は…。
「助けて欲しいんだ」
助けを求める言葉だった。
「は…い…?」
―――僕は少女に、この世界に来た現状を分かる範囲で説明した。
少女は…少し考えてから。
「その衣服は…こちらでは見受けられませんね…。それに魔物の多い森で軽装だったのも頷けます」
「…うん」
「魔法…でしょうか…。モノや人を移動させる魔法…聞いた事はあるけど…」
…魔物や魔法。
この少女はその単語を普通に使っている。
と、いう事は、あるのだろう。ここには魔法というものが。
それなら、それを使いこなす事が出来れば、もしかしたらこの僕達の問題も解決できるかもしれない!
「それに…魂が武器に混入してしまうだなんて…でも、この剣だからこそ…」
ぼそぼそと最後の方は聞き取れなかった。
「…そうですね、私も助けて頂きました。その人の魂を元に戻して、あなたを転移して貰える様手伝います。」
「あ…ありがとう!」
僕は全力でお礼を述べた。
ここで一つ分かった事がある。
小野さんの声はこの少女には聞こえないという事。
だから、先程の僕と小野さんの会話は聞こえていなく、僕が独り言をしゃべっていると思われていたのだ。
「いえ…今の状態だと私も困りますので…あ、お名前を聞いても大丈夫ですか?」
「川本 雄太…で、このナイフに入ってるのが小野 雫」
(小野 雫です)
きっと姿が見える状態なら、小さく頭を下げながら挨拶をしただろう。
少女に彼女の声は聞こえてないだろうに律儀である。
「カワモト・ユウタとオノ・シズク…ファーストネームはどっち?」
「雄太と雫かな…?」
「はい。分かりました。私はクラサ。剣の番人をしています」
剣の番人…?
「剣って、このナイフみたいのが…?」
「はい、そのユウタが持っている剣は、『神殺しの剣』と呼ばれています」
「神殺し…?」
「はい、神を唯一殺せる剣として言い伝えられている剣です。」
(えっ…えっ…)
小野さんが混乱している。
いやいや、僕だって混乱してるよ…
だって、神だよ?話が大きくなりすぎてる。
でも、魔法がありえるのなら、神もありえるのかなぁ…ありえそうだなぁ…。
「今はそんな状態ですが、来るべき時がくれば、剣の姿を現すそうです。…私はその剣をある場所に運ぶ役目を受け、こうして旅をしています」
「それって、森での出来事と関係してたりする?」
だとしたら結構ヤバイ品物かもしれない。
「…狙う者は多いでしょうね…。神の天敵となりえるもの…ですからね。」
神を守るもの、神を倒したいもの両方から狙われるという形だろうか。
「私としては…あなた方に迷惑をかけたくはないのですが…」
そう…僕達も逃げられない。
僕達の理由もこの剣なのだ…。
そういう奴らから、命を狙われるのは同じというわけだ。
「でも、何で君みたいな子が…?」
(うん…もっと強そうな人でもいいと思うけど…)
小野さんが僕の意見に同意する。
確かに、もっと強そうな人でもいいはずだ。
別に、仲間が殺され、怯え、腰を抜かしていたこんな少女に任せなくても…。
「どういう意味ですか?」
むぅ…っとした顔で僕を見つめる少女。
今までも散々言われてきたのだろう。
明らかに機嫌を悪くしている。
これ以上は突っ込まない方が懸命かもしれない。
「えっと…これから宜しく…」
(えへへ、よろしくね)
むすっとした表情のまま、少女は口を開く
「…はい、宜しくお願いします」
こうして、僕達はこの世界の少女・クラサの協力を得る事が出来た。
戦える戦力が欲しいところ…。