傷心
第40回!
宿屋につくと、クラサは宿を早々に取った。
お金の関係上、今回も同じ部屋だ。
もちろん、ベットは別ではある。
そこが一線を越えてはならない、最終防衛線である。
僕たちは、荷物を部屋に置くと、息をつく事にした。
「はぁ…」
僕達は互いのベットへと腰掛ける。
ため息もつきたくなる。
ただでさえ、狙われる立場にある自分たちであるが、それが都市レベルのものを敵に回すとなると、話が変わってくる。
何故、この世界の権力者達は、こぞって神殺しの剣を欲しがるのだろうか…?
あの力は伝承のものとされているはずだ。
クラサも使った事はないと言っていた。
僕だって、雫がいなければあの剣は使えない。
使えるか分からない力を欲するものなのだろうか…。
それとも、力じゃない部分であの剣を欲する理由があるのだろうか…。
「……」
色々思考をめぐらしたものの、答えなどでるわけがなかった。
だが、はっきりしている事はある。
僕は、キリヤードを渡せないわけがある。
クラサも同様だろう。
だが…。
ウィーネは違う。
僕は小さな少女を見る。
少女は、ベットの布団でゴロゴロと猫のように転がっている。
あの子を安全な所に預ける事はできないだろうか…。
信用出来るところ…。
ロッカさんとあの屈強な男達がいる、あの村ならどうだろうか…。
僕がこの世界で一番信頼できる場所だ。
だが、簡単にここから出られるものなのだろうか。
明日、ヒリナと呼ばれていた少女が、もう一度クラサに問いをかけるだろう。
それに対し、クラサは首を縦には振らないだろう。
…一人で考えても仕方ないな。
僕はクラサに質問してみた。
「クラサ」
「……」
…?
集中しているのか、クラサは自分の組んだ手を見つめているようだった。
「クラサ?」
「…あ!はい!」
次は僕の呼びかけに反応してくれた。
もしかしたら、同じキリヤードの件について考えていたのかも知れない。
「話したいんだけど、良いかな?」
「…はい。キリヤードの事ですね?」
「うん…。ここの権力者が何故キリヤードを狙っているのか思い当たる節はない?」
「当たっているかは分かりませんが…。多分、魔法都市が関係しているのかもしれません」
魔法都市が関係…。
「仲が悪いって事?」
僕はそこから思い当たる事を口にした。
「そうです…。二大都市と呼ばれ、常に競争し、繁栄し合ってきたので…。首都としては、未知の力である。キリヤードの力を魔法都市に奪われるのを良しとしないのではないのでしょうね」
「都市競争に巻き込まれたって事か…」
「はい…」
「でも、今までは興味はなかったんだよね…?」
何故急に…。
「そうですね…。こんな事はありませんでした。どちらの都市も協力的でしたし、もしかしたら、ユウタが使っていた力が影響しているバレてしまった可能性はあります」
「見られていたって事?」
「いえ、強力な魔力を感知した程度だと思います。大体どちらも、伝承を信じている様子はなかったので…ただの儀式として協力を得られていたはずなので…」
「僕達を襲った、あの男は?」
「あの人たちは、信仰深いので…そういう伝承がある事自体許せないんです」
「そっか…」
ここで僕はふと疑問に思った。
「あれ…?そういえば、クラサは何処から来たの?」
「はい…私達が出会った森からずっと先の場所です。詳しくは言えないんですけど…ごめんなさい」
「ううん、気にしないで」
場所が特定されると困るのかもしれない。
聞き出す気はない。
今は必要な情報でもないはずだ。
ん~…どうしたものだろうか…。
「…あの」
考える僕に、クラサは真剣な表情で僕に呼びかけた。
「明日、ここの権力者に会ってみようと思うのですが…」
「え…?」
「ヒリナに言えば、面会ぐらいはさせてくれるはずだと思います」
「危険じゃない?」
「いえ…今の状態でも変わらないかと思います…きっと、外にはもう騎士団員が配置されているはずです」
僕は窓から外を見る。
その通りだった。数名の騎士団員が見張りについている。
「ホントだ…。ご苦労な事で…」
「はい…なので…」
一瞬、間を空けて。
「逃げられる状態でないのであれば、より踏み込もうと思います」
クラサは、しっかりと僕を見据え、そう答えを述べた。
「ですが…これは私一人の問題です。なので、私だけで行こうと思います。ユウタはウィーネを連れてここを出てください」
そして、クラサは淡々と言葉を繋げる。
「それは、君が囮になるって事?」
「…いえ、ですが、これは私の問題で」
僕は少しカチンとしてしまう。
僕達の事を考えてくれているのは分かっている。
あぁ…なるほど…。
ウィーネの件でクラサが怒った理由が少し分かった気がする。
「僕達はクラサにとって邪魔?」
「!…いえ、そんな事は…!」
「なら、一緒に行く。これは、僕の決断でもある。君と一緒に進むと、僕の決意を甘く見ないで欲しい」
あの時の言葉を僕は少し捩ってクラサに伝えた。
「あ…」
クラサは目を大きくした後、顔を赤くして。
「卑怯です…」と、自分の台詞を返された事に赤面した。
キリヤードから離れられない理由もある。
でもそれ以上に、クラサにそういう事を言われたのがたまらなく寂しかった。
だが、ウィーネはどうなのだろう。
僕はウィーネに質問してみる。
「ウィーネはどうする?」
「行く。二人と一緒に居たいから」
単純な答え。
クラサにああ行った手前、ウィーネに駄目とは言えなかった。
それが間違っているのであろうとも、ウィーネの気持ちを尊重してあげたい。
「行こう。三人で、何とかするしかない」
僕の答えにクラサは
「…ありがとうございます」
と、涙を流した。
ひとしきり時が立ち。
僕達は食事とお風呂を済ませ、部屋に戻る。
その間も、騎士団員は交代で外を見張っているようだった。
ランタンを消し、暗闇の中で数分間、目を瞑っていると。
「☆※…」
クラサの声が聞こえてきた。
「…?」
僕は物置台にあるはずのキリヤードに手を伸ばす。
「…すみません。眠っていましたか?」
クラサが声のトーンを抑え僕に話しかけてきた。
既に寝息を立てている、ウィーネを起こさない為の配慮なのだろう。
「どうしたの?」
ヒソヒソ話で、僕は返事をした。
「もう一度お礼が言いたくて…」
掛け布団で、口元を隠し、クラサは話を続ける。
ベットの距離は、50センチぐらいの物置台を間に挟む程度の距離なのでかなり近い。
「本当は…ヒリナに、今回の事を隠されていて、辛かったんです。とても…信じていた人でしたから…」
それに、もう一人の幼馴染。
きっと彼の事も信じていたのだろう。
「うん…」
「でも、ユウタの言葉で、心が軽くなりました」
ふふと、クラサは笑っていた。
「そっか、良かった」
僕はそれしか言う事ができなかった。
どれだけ辛く、心の傷になったかなんて、僕が計れるものじゃない。
安易な言葉はかけられなかった。
「聞いてくれてありがとうございました。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
僕は出来るだけ、優しくそう口にした。
クラサが良い夢を見られるようにと…。
あれ…チート剣持ってるはずなのに、俺つえー出来てない…(今更感)




