閃光
第4回です
何故、『狼のような』と表現したのには、理由がある。
僕が知っている狼にしては、大きく…そしてライオンのオスのようなタテガミを持った風貌をしているからだ。
きっとこの蒸し返すような血の匂いに誘われて来たのだろう。
僕達は一歩も動かず大柄の狼を見入ってしまっている。
大柄の狼は僕達の居た方の反対側。
つまり、死体を通り越した先に居る。
僕達を警戒しながらも、その大柄の狼は死体の方へと近付いていく。
まさか…。
そのまさかだった。
ケモノは死体を捕食しだしたのだ。
「うっ…」
逃げたい気持ちが先走る。
だが、逃げたとしてもすぐに追いつかれるだろう。
獣は逃げるものを追う修正がある。
そして、その嗅覚から逃げられるものなどいないだろう。
それほどまでに、獣と人間では基本的な能力値に差がありすぎるのだ。
武器…そう。
武器が必要だ。
いや…あの巨体だ。
武器があっても意味があるのだろうか…。
しかし、あるとないのでは雲泥の差だろう。
チラリ…と、僕は死体の近くにあるであろう剣を目で確認した。
近くでは、大柄の狼が食事を行っている。
無理だ…。あの剣に近付くのは…。
もう一人が持っていたはずの剣だが、見当たらない。
剣戟で弾き飛ばされて、何処かに飛ばされたのかも知れない。
他に武器になるもの…。
僕は先程まで対峙していた少女のナイフを思い出した。
あの巨体にナイフ…役に立ちそうだとは思えないけど…。
その少女といえば、怯えを通り越したのか、腰を抜かし尻餅をついている。
そうしていると、大柄の狼はもう一つの亡骸を口にしだした。
時間がない。
僕は音を立てないように少女の近付き声をかける。
「そのナイフを貸して…」
「☆※?」
案の定、僕の言葉は伝わっていなかった。
(ナイフ…?ナイフってどういう事?)
小野さんの不思議そうな声が聞こえてくる。
近くに居るのか…?
いや、それよりも…。
少女は少し混乱しているのか、より強く両手でナイフを握り締めている。
仕方ない…取り上げるしかないか。
僕はナイフを取り上げようと、少女の手を掴みとった。
「△×☆×!!」
「大人しくして!!」
何とか、少女の手からナイフを取り上げる事が出来た…が。
先程の騒ぎで、食事中だった大柄の狼の大きな頭もこちらを向いていた。
「っ…」
ナイフの刃を相手に向け、構えてみるもののまるで心持たない。
勝てる気が全然しないっ。
(温かい…)
「え…?」
ナイフから聞こえた…?
一風変わったデザインのナイフ。
そこから…
(何か私の心に流れ込んでくる…何…これ?)
小野さんの声が…?
(これって…)
その瞬間、ナイフから見た事もない光が場を照らしつけ。
その光と共に、またも僕の意識はそこで途切れてしまった。
能力の目覚め