激怒
第27回!
「グルルルルル…」
僕らを威嚇するようにモンスターが唸っている。
ヤバイ…!
一匹なら、なんとかなるかもしれないけど、数匹になると僕の力だけじゃ無理だ。
逃げるしかない…!
だが、相手は狼のような姿をしたモンスターだ。
けして足の速さだけでは敵わないだろう。
どうする…?
僕は、とりあえず少女の前に出て、腰に装着していたキリヤードを取り出す。
やるしかない。
すると、後ろに居る少女が突然僕の服を『くいっ』っと引っ張った。
「え…?」
僕は構えだけを解かず、顔だけを少女の方へ向けた。
しかし、その一瞬の隙を、モンスター達が見逃すはずもなく、一気に襲い掛かってきた。
「あっ…」
ダメだ…やられる。
そう感じた瞬間。
僕は目を閉じてしまった。
「「キャインッ!!!!」」
暗闇の中。狼の叫び声が聞こえる。
(すごい…)
次に雫の声が。
僕は、ソロリと目を開いた。
すると、足を引きずり、森へと引き上げようとするモンスター達の姿だけが見えた。
戦闘は僕が目を閉じている間に終わっていたのだ。
「…え?何が…」
本当に何が起こったのか理解できなかった。
誰かが助けてくれたのかと、周りをキョロキョロと見回す。
だが、誰の存在も確認出来なかった。
少女は、何事もなかったかのように、水がたんまりと入った水桶を持ち上げると、僕を置いて村へ向けてヨロヨロと歩き出す。
ここに居ても仕方ない。
僕はその後を追いかける事にした。
なんだったんだろう…。
「…一体何が起こったの?」
僕は少女に話しかけた。
「…モンスターに襲われただけですが」
いつも通り、と言った感じで歩いていく。
すると、雫が説明してくれた。
(えっと、どう説明したら良いんだろ。私達の後ろから、狼のモンスターに向かって一斉に弾が飛んでいったの。その弾がモンスター達に着弾して…モンスターが怯んで、逃げていった感じで良いのかな…?)
雫も全てを見ていたわけじゃないのだろう。
要点だけ教えてくれた。
弾って事は、銃?
いや、それらしき音は聞こえなかったし。
そもそもこの世界に銃なんてあるのだろうか。
あ…。
そこである事に気が付いた。
魔法である…。
それは、なんらかの魔法だったのではないだろうか。
僕は少女に確かめて見ることにした。
「さっきのって魔法?」
少女はチラリと僕を見る。
「…そうです」
と、答えた。
少しびっくりしてしまう。
こんな少女でも、魔法が使える世界なのだと。
僕はこの世界で初めて見る魔法を、目を瞑ってしまって見れなかったようだ。
…少し残念である。
なんにしても、僕は少女に助けられたようだ。
「助けて貰ったお礼に、それ持つよ」
そう言いながら、僕は少女の持っていた水桶を持ち上げた。
「え…?」
その行動に驚いた少女は、目を丸くして僕を見つめる。
事あるごとに僕の行動にびっくりしているようだ。
僕としては、当たり前の行動のはずなのに。
「困ります…」
あいた手を空中に彷徨わせ、どうしたらいいのか分からない状況の少女。
(かわいい…)
雫が子猫を見た時のような感想を述べた。
…確かに可愛い。
「じゃあさ、さっきの見せてよ」
僕は少し考えてから、そう提案した。
さっき見逃した魔法が見てみたかったから。
「…分かりました」
その提案に少女は、コクリと頷いてくれた。
少女は一旦足を止め、集中し始めた。
すると…。僕が持っていた水桶から、卓球ボールぐらいの大きさをした水の塊が数個浮き上がった。
例えるなら、無重力で零れた水のような感じでだ。
「すごっ…」
その異様な光景に、僕は歓喜の声をあげてしまう。
そして、その中の一つを。
数十メートル先の地面に向かい撃ち放った。
ビシュッっという音と共に、地面に穴があいていた。
あんなものを受けたら、そりゃモンスターだってビビッて逃げる。
僕が感心していると。
「私が出来るのはこれだけです」
と、少女は謙遜する言葉を投げた。
「いやいや、十分すごいって、僕なんてただ震えてただけだよ?」
いや、震えてまではいなかったよ?ドキドキはしたけど!
「…でも、守ってくれた」
少し嬉しそうに下を向きつぶやく少女。
この子は守られた事などないのだろうか。
ふと、そう思ってしまった。
「戻します」
そういうと、少女は地面に放たなかった他の水の塊を、水桶の中にポチャンポチャンと戻した。
森を出て、村へと繋がる道を歩く。
話しているうちに、少女から敬語が抜けて行った。
少しは、打ち解けてくれたという事だろうか。
そういえば、クラサはずっと敬語で話してくるけど…育ちのせいなのかな?
それとも、まだ完全に打ち解けてくれていないのか…。
そんな事を考えていると、キュルルルルと可愛らしいお腹の音が鳴った。
僕のではない。もちろん雫のでも。
僕は、チラリと少女を見る。
少女は少し赤い顔をしながら下を向いている。
そうだ。昨日少女の為に取っておいたパンと食料がある。
それを思い出し、僕は少女に提案してみた。
「ご飯あるけど、食べる?」
すると…少女は。
「…なの?」
「え…?」
「…あなたも…なの…?」
悲しそうな顔で、僕を見ていた。
僕がその言葉と悲壮な表情に、固まっていると…。
「お前等!何をやってる!!!」
と、男の怒鳴り声が、静寂だった早朝の村に鳴り響いた。
「あ…」
モンスターにも怯えなかった少女が、その姿を見た途端に、ブルブルと震えだす。
目の前に現れたのは、あの時少女と一緒に居た。小奇麗な格好したおじさんだった。
「おい、答えろ!」
男は、僕ではなく少女に問いただす。
少女は急いで僕から、水桶を奪い取るとその男に近付いていく。
「ごめんなさ…」
その瞬間、パァアアン!という破裂音と共に、少女の顔が跳ね上がった。
謝る前に、男は少女の顔を引っぱたいていたのだ。
その反動で、少女は水桶ごと倒れ、水桶の水が零れてしまう。
僕はその光景に、まず動揺し…そして、怒りを覚えた。
「おいっ…!」
僕は怒りのままに、男の前に立ちはだかった。
「な、なんだ…?」
今までこんな風に言われた事がなかったのか、男は少し驚いているようだ。
「叩く事はねぇだろ!」
「お、お前…!契約の事知らないのか?」
見当違いの返答が僕の感情に火を注ぐ。
「そういう事じゃない、叩く必要はないって言ってんだよ!」
「くっ…なんだこいつ。俺のモノに何をしようと俺の勝手だろう!」
その返答が、ますますそれが僕を苛立たせた。
「どうせ騙して契約したんだろ!」
「はぁ?騙される方が悪いんだよ!要するにこいつがバカだっただけじゃねぇか!飯貰って良い人と勘違いしたこいつがバカなんだよ!」
だから…あんな顔をしたんだ。
こいつにご飯を貰って、嬉しくて、信用出来る人だと思って。
それが…こんな…。
「はい、論破!正義感ぶってても、お前には何もできねぇんだよ!悔しかったら破って見ろよ!この契約をよ!」
ギャハハと笑い、胸元に仕舞い込んでいた契約書をこれみよがしに僕へと見せてくる。
その行動に僕は完全に頭に血が上った。
僕はキリヤードに手を置き、一歩ずつ男に近付く。
一瞬たじろいたものの、男は笑みを浮かべている。
(雄太君?!)
「やる…契約を破る…!」
完全に頭に血が上っていた。
「だめ!!!」
すると、僕に向かいドンッっと小さい体があたってきた。
それはあの少女だった。
「死んじゃう…」
きっと僕の事を言ってるんだろう。
「大丈夫…!」
きっと、雫も同じ気持ちだ。
だから…成功するはずだ。
「……っ!!!」
ブンブンと首を振り、止める少女。
その少女の必死な姿に…。
僕は冷静さを取り戻した。
「はっ…その程度だよなぁ…」
勝ち誇ったように、僕に近付く男。
「おい…いくぞ!」
ぐいっっと、男は少女の腕を強引に引っ張り、自分の元へと寄せた。
顔を苦痛に歪ませながら、抵抗する事もせず少女は男に連いて行った。
その騒動に気付いたのか、村の人たちが少数ながら集まってきたようだ。
そんな中、少女の残した水桶だけが、悲しく転がっていた。
ユウタは激怒した。必ず、かの 邪智暴虐 ( じゃちぼうぎゃく ) な男を除かなければならぬと決意した。




