奴隷
第21回!
僕達は道に立っている標識に従い宿屋を探す。
すると…。
「早くしろ!置いていくぞ!」
そんな罵倒が聞こえた。
「…はい」
声のした方向を見てみると、…無駄に奇麗な格好をしたおじさんの後を、みすぼらしい恰好をした少女が大きな荷物を背負い込み運ぶ姿が目に見えた。
その表情からは生気を感じられない。
その二人の事実関係など、僕は知らない。
でも…あれは…明らかに…。
(あの子…)
雫もそれに気付いたのだろう。
とても心配そうな声が聞こえた。
先程話していた事が脳裏に浮かぶ。
「…フラグ回収早くないですか?」
(…フラグって言わないでください)
雫に突っ込みを入れられてしまう。
そのまま少女は、とぼとぼと…おじさんの後をついていく。
「やっぱり、さっきの…」
僕はクラサに意見を求めた。
「クラサ…今のって」
「……」
クラサもあの少女には気付いていたのだろう。
僕に対して、暗い顔をして一言だけ言い放った。
「忘れたほうが良いです」
「……」
自分は無力だと自覚している表情をしていた。
「なんで?あれってさっき言ってた…」
蒸し返すように、僕はさっきの話の続きをした。
「はい…そうです。ですが…私達では手を出す事は出来ないんです」
…手を出す事は出来ない?
「何で?」
「一番の理由は、契約書にかかっている魔法です。誰もその関係に干渉できない魔法がかかっています。先程言ったように、本人同士の契約。ならば、契約外のものを使い、契約を切られる恐れもある。それを防ぐ為の魔法もかかっているんです」
確かにそうする事で本人同士の契約は守られる。
「あれを解くには、高魔力…。最上級の魔法使いをも凌ぐ力を持たなければなりません。そうしなければ、簡単に解かれてしまうので…」
もし、簡単に契約が破られるのであれば、小物の魔法使いが、それで荒稼ぎするものも現れるだろう。
そして、契約は破られ本末転倒だ。
故に、そういう小物が手を出せないものとなっているのだ。
確かに、騙される方が悪い。
あんな小さな子でも…騙される方が悪い…。
そういう世界なのだろう。
でも…
でも……。
騙す方が断然悪いに決まっているだろう…。
僕の手には力が入ってしまう。
「破ろうとしたらどうなるの?」
「…そうですね…。単純に最上級の魔法使いの魔力をその身で知る事ができます」
それは死を意味するだろう。
だから…誰も手を出せない。
出せるとしたら、本人。
死という解放を望んだ本人だけなのだろう。
僕に何が出来るんだろう。
「……」
クラサは、静かに僕の事を見守っていた。
「…ごめん、クラサ」
最初に僕はクラサに謝った。
死は怖い。こんなところで死ぬわけにはいかない。
でも…。
あの子の姿を思い出す。
この先もずっとあんな顔をして歩いていくのだろうか…。
それとも死を選ぶのだろうか…。
それを考えるだけで、胸が張り裂けそうなくらい痛かった。
きっと、これは自分の為だ。
こんな気持ちをこの先も背負うのは絶対に嫌だ。
「はぁ…」
ため息をつくクラサ。
「もし、あの子を救えたとしても、他に奴隷は数え切れない程居ます」
途方もない事を口にする。
きっと、全てを救う事は出来ない。
ここで一人を救うことが何の意味があるかも分からない。
綺麗事なのだろう。偽善なのだろう。
「…うん」
僕は答える。
「命がいくつあっても足りないんですよ?」
次に、現実的な忠告を口にした。
正直、命が懸かっている実感はない。
それで命を落とした人も見た事はないから。
「…うん」
僕は答える。
「あなたは元の世界に戻らないといけない。それにキリヤードに入ったシズクの魂の事もあります」
最後に、僕のやるべき事を確認し、意思を確かめてくる。
「…それでも、やるんですか?」
こればっかりは、僕だけの意見じゃダメだ。
「雫…?」
(……うん、分かってる。私も同じ気持ちだから)
「うん…ありがとう」
流石、僕が好きになった人だと思った。
僕はクラサの顔を見据え…
「…それでもやる」
答えた。
クラサは一度目を閉じ…。
「私にも使命があります。死ぬわけにはいきません」
ぽつり…。
「ここで少女一人を助けるよりも、大事な使命です」
ぽつりと…。
自分の理由を…自分の使命を確認するように言葉でこぼす…。
「ですが…」
もう一度、自分の心を確かめるように。
「…一緒に行きます」
そして、目を見開き、僕の目を真っ直ぐ見据え、決意を口にした。
「うん…行こう」
「…はい!」
僕は、奴隷と思われる少女の後を追うように歩き始める。
その後ろから…
「…きっと…私は…番人として失格だったのでしょうね」
と…クラサは寂しそうにつぶやいた。
類は友を呼ぶ…?




