臆病者な僕のお話
童話みたいなノリで書きました。
僕は臆病者です。
僕は怖がりです。
僕は泣き虫です。
僕は夜が怖いです。
僕は血が怖いです。
僕は闇が怖いです。
だから僕は、目を閉じました。目を閉じれば何も見えないから。
何も見えない。『夜』も見えない。『血』も見えない。『闇』も見えない。
見えない。
何も見えない。
何も見ることができない。
でも瞼の隙間から、ちらちらと見えてしまう。
そんな事がないように、僕は目を取りました。
とても痛くて、血が出たけれど、見ることができないのなら大丈夫。
僕は臆病者です。
僕は怖がりです。
僕は泣き虫です。
僕はお父さんが怒る声が嫌いです。
僕はお母さんの泣き声が嫌いです。
僕は周りの家の笑い声が嫌いです。
だから僕は、耳を塞ぎました。耳を塞げば何も聞こえないから。
何も聞こえない。『怒る声』も聞こえない。『泣く声』も聞こえない。『笑う声』も聞こえない。
聞こえない。
何も聞こえない。
何も聞くことができない。
でも塞いだ隙間から、ちらちらと聞こえてしまう。
そんな事がないように、僕は耳を切りました。
とても痛くて、泣く声が聞こえたけれど、聞くことができないのなら大丈夫。
僕は臆病者です。
僕は怖がりです。
僕は泣き虫です。
僕は悪口が嫌いです。
僕は噂話が嫌いです。
僕は暴言が嫌いです。
だから僕は、口を噤みました。口を噤めば何も言えないから。
何も言えない。『悪口』も言えない。『噂話』も言えない。『暴言』も言えない。
言えない。
何も言えない。
何も言うことができない。
でも噤んだ隙間から、ちらちらと言ってしまう。
そんな事がないように、僕は口を縫いました。
とても痛くて、『暴言』を言いそうになったけれど、言うことができないのなら大丈夫。
僕は臆病者です。
僕は怖がりです。
僕は泣き虫です。
僕は両親が嫌いです。
僕は友達が嫌いです。
僕は他人が嫌いです。
だから僕は、ドアに鍵を閉めました。鍵を閉めれば誰にも会わないから。
誰にも会わない。『両親』も会わない。『友達』も会わない。『他人』も会わない。
会わない。
誰にも会わない。
誰にも会うことができない。
でもドアの隙間から、ちらちらと会ってしまう。
そんな事がないように、僕は人を殺しました。
とても痛くて、『他人』と会ってしまったけれど、会うことができないのなら大丈夫。
僕は臆病者でした。
僕は怖がりでした。
僕は泣き虫でした。
僕は夜が嫌いでした。
僕は血が嫌いでした。
僕は闇が嫌いでした。
僕はお父さんの怒る声が嫌いでした。
僕はお母さんの泣く声が嫌いでした。
僕は周りの家の笑い声が嫌いでした。
僕は悪口が嫌いでした。
僕は噂話が嫌いでした。
僕は暴言が嫌いでした。
僕は両親が嫌いでした。
僕は友達が嫌いでした。
僕は他人が嫌いでした。
だから、取って、切って、縫って、殺しました。
僕は臆病者ではありません。
僕は怖がりではありません。
僕は泣き虫ではありません。
僕は夜が見えません。
目を取ったから。
僕は血が見えません。
目を取ったから。
僕は闇が見えません。
目を取ったから。
僕はお父さんの怒る声が聞こえません。
耳を切ったから。
僕はお母さんの泣く声が聞こえません。
耳を切ったから。
僕は周りの家の笑い声が聞こえません。
耳を切ったから。
僕は悪口を言えません。
口を縫ったから。
僕は噂話を言えません。
口を縫ったから。
僕は暴言を言えません。
口を縫ったから。
僕は両親がいません。
人を殺したから。
僕は友達がいません。
人を殺したから。
僕は他人がいません。
人を殺したから。
怖い物は無くなりました。
怖い者は無くなりました。
怖い物を無くしました。
怖い者を無くしました。
僕は今、とっても安心です。