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花誘ふは君の香  作者: コウ
第一章:
6/13

5.ココロノトビラ

 7月に入り、日が沈んでも暑さは和らぐこともなく、日本特有の蒸し暑さを感じる毎日が続いていた。

 夜になっても蝉の声が町に響き、より一層張り付くような暑さを感じる。



 馨は受験の追い込み時期と期末試験が重なり、せわしない日々を送っていた。

 今日も塾の帰り、新たちと一緒にファミレスで夜食をとりながら、期末試験の勉強をしてきたところだった。

 信号待ちで立ち止まると、まだ駅からそんなに距離を歩いていないにもかかわらず、一気に汗が噴き出してくる。 



 「…暑い…。」



 何の気なしに汗を拭おうとポケットからハンカチを取り出した途端、思いがけず口からこぼれた。

 しまった、と思ったがもう遅い。

 口に出したことで余計に暑さを感じた。

 信号が青に変わり、歩き出す。

 あと5分歩けば、お風呂に入ってベタベタ気持ち悪い汗を流して、クーラーが効いた部屋に入って、夕食とアイスが食べられる。

 それを想像して、頭から暑さを吹き飛ばすように歩いた。


 いつもの公園を通り、一月ひとつきほど前にちいこ先生と分かれたT字路までやってきた。

 あれからちいこ先生とは、公園はおろか近所のコンビニでも見かけることはなかった。

 見るのは授業のときだけ。

 しかも先生が一方的に喋って、先生と生徒としても休憩時間さえ会話をすることは無かった。


 ふと左から照らされるヘッドライトと共に車が来る音を感じ、少しT字路手前で車が行き過ぎるのを待つ。

 少し徐行しながら、黒のSUVが通り過ぎて行って少し先で停まった。



 ――…ちいこ先生…?



 目の前を通り過ぎた車がスローモーションのようにはっきりと視界を横切り、中の様子がクッキリと残像として残った。

 普段だったら、きっと気が付かなかったことだろう。


 何故気付いてしまったのだろう。


 助手席にいたのは、ちいこ先生だった。

 運転していたのは、知らない男だった。

 こちら側に顔を向けていたけれど、きっとちいこ先生の瞳に馨は映っていなかったに違いない。

 横の運転している男に見たことのない笑顔を向けていた。



 「…すげー可愛いじゃん。」



 ぽつりと口から吐息が漏れた。

 吐息が言葉となって耳に戻ってきた途端、自分の発した言葉とこれまで見たことの無かった表情に血液が一気に逆流した。

 しかし、それと同時に胸から腹に向かって流れていく感情もあった。


 ボーっと立ち尽くしていることにハッと気が付くと、SUVの助手席から人影が降りてきた。

 暗くて遠く、顔も確認できないが、女性らしいシルエットだった。

 学校ではパンツ姿だから、スカートなんてこれまで見たことがない。



 ――…なんだよ、いんじゃん…彼氏…。



 しかも車でデートなんて、大人の男の人だ。

 告白で振られたときのことを思い出す。

 そりゃ、生徒になんて手を出さないだろう。

 大人の彼氏がいるのであれば。


 そこまで考えて、自分の心情の変化に戸惑った。

 馨は、スッと視線を外すと、T字路を曲がって家路を急いだ。


 笑顔を向けられる対象でないことも、着飾ってもらえる対象でないことも。

 ちいこ先生が向ける相手が自分でないことがただただ口惜しかった。






 カーテンが風にそよぎ、ときどきうっすらと朝日が差し込み、顔にかかった。


 ピピ…ピピピピ…


 半分頭は眠ったままだが、手を伸ばして棚の上に置いた目覚ましを探る。

 ちいこ先生と彼氏を目撃したあの日から数日が経った。

 心乱しまくったことで、どうなることかと思った期末もなんとか無事終わり、1学期も残すところあと僅かとなった。

 ざわついていた心も、少し落ち着いてきたと思う。


 ベッドに転がったまま、腕を瞼に乗せて日光を遮る。

 多分、気になる存在から好きな存在まで格上げされていたのだとは思う。

 気付かなかった…否、認めていなかっただけで。

 それがあの日、一気に噴出して自覚、そして告白するまでもなく終わった。

 いや、正確にはとっくに告白して振られているのだが、あれはなんとも思っていなかったときの罰ゲームでのことだ。


 階段を上ってくる音がして、馨の部屋の前で足音が止まった。

 トントントンとノックがあり、ひょこっとドアから顔が覗いた。


 「おはよう。起きてる?」

 「おはよう、母さん。起きてるよ。」

 「馨、今日塾無い日でしょう?

  パパが誕生日のお祝いにシェ・ヤマグチに連れて行ってくれるって言ってるから、早く帰ってきてね。」

 「分かった。誕生日おめでとう。」

 「ありがとう。朝ご飯できてるわよ。降りていらっしゃい」


 母さんはにこっと笑うとドアを閉めて階段を下りて行った。

 シェ・ヤマグチとは大倉家で懇意にしているイタリアンのお店で、家族の誕生日には必ずディナーを食べに行くのだ。


 馨はうーんと伸びをひとつして、ベッドから起き上がった。

 そして、シャワールームへ向かおうと着替えを手に部屋を出ていった。




こんばんは、コウです。

実生活が忙しく…お待たせしてしまい、すみませんでした。


せっかく二人いい感じだったはずなのに…!?

いきなりなんとなんと!?な展開です笑

馨くん、2回目の失恋。


さて、次話は馨くん、頑張りますよ。

次話もよろしくお願いします。




*・゜゜・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゜・*

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