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花誘ふは君の香  作者: コウ
第一章:
5/13

4.月暈

 蒸し暑い。もうすぐ梅雨入りだな。

 この髪の感じだと、明日は雨が降るかもしれない。

 けいはこの時期は悩み以外の何物でもない、少し長めの髪の毛を指に絡めた。



 ――…あー、そろそろ髪切るかな…。



 道路の脇には他人ひとの庭から顔を覗かせた紫陽花があちらこちらで色を添えていた。


 あれから、特になにかあったかと聞かれても、何もない。

 「受験戦争」も本格化し、勉学に勤しむ真面目な受験生をやっている。

 あと数か月先にはセンター試験、本試験と通過し、人生を選択する瞬間がやってくる。

 学校なんて、どこを選んでも一緒なんて考えてたこれまでの受験とはまったく別だ。

 そこでの選択肢によって選べる未来が変わってくるなんて、なんと世知辛い世の中なんだろう。

 それでなくても、模試、模試、模試…休日も学校で模試だ。

 高層ビルに囲まれた道から空を見上げたときのような、水槽に顔を突っ込んで外の世界を見たときのような、そんな息が詰まるような感じ。

 


 今日も塾の帰りにいつもの公園を通ると、何やら女の子が巡回中の警察官2人に囲まれて揉めていた。



 「君! 未成年は飲酒を禁止だぞ!

  名前と高校名を言いなさい!」

 「だからー、さっきから私高校生じゃないって言ってるじゃないですかー!」

 「じゃぁ中学生か!」



 大声でやり取りしているので、内容は丸聞こえだ。

 どうやら未成年の酔っ払いらしい。


 ――こんな目立つところで酒なんて飲むなよなー。補導してくれなんて言ってるようなもんじゃん。


 冷たく一瞥して横を通り過ぎる。

 白地のTシャツに黒のショーパン、グレーのロングカーディガンを羽織っており、髪はお団子。

 パッと見、どう見ても高校生だ。


 嘘なんかついたってすぐバレるんだから、なんて思っていると…



 「…桐山学園高等学校。。」



 …うちの学校かぁ…。。顔見たことあったかな…とさっき見たお団子頭を思い出そうとして。

 この声にハッとして振り返る。



 まさか。

 いつもの締まった声じゃないからわからなかった。

 同じくらいよく通る声だけど。

 声が鼻にかかって、少し甘い。



 「やっぱり高校生じゃないか!」

 「だーかーらー!!

  高校生じゃなくて、先生ッッ!!」

 「…は?」

 「今、身分証明何も持ってないけど、私、教師ですッッ! 未成年じゃありませんっ!」



 静かな公園にリンと鳴る鈴のような声が響いた。

 警察官は目を白黒させている。

 どうやら警官とのやり取りでお酒も少し抜けてきたらしい。

 鼻音気味ではあるが、いつもの感じに少し戻ってきている。


 「…いやいや、何を言っているんだ、君。」と一瞬面喰っていた警察官は尚も食い下がる。

 くくっと笑いを堪えきれず、手の甲で口元を抑えながら近付く。

 


 「すみません。僕、桐山の生徒ですけど。

  この人、ホントに先生ですよ。ちなみに22歳で成人してます。」




 あの後、何とか解放して貰って、帰路につく。

 知らなかったが、先生とは最寄駅が一緒で家も近所らしい。

 ちいこ先生はおつまみの入ったビニール袋を左手に持ち、右手には飲み残しのビールを持って横を歩いている。

 甘いカクテルとかが好きなイメージだが、辛口のビールがお好みらしい。

 かなり予想外だ。


 俯き加減で歩くちいこ先生の首に纏めきらなかった髪がパラパラと落ちてかかり、普段は見ることのない首筋にドキリとする。

 ごくりと唾を飲み込み、喋りかける。



 「ちいこ先生、こんなとこで1人飲まない方がいいよ?」

 「…プ、プライベートだもん。ひとりで飲みたくなる気分のときもあるの。

  いつもは身分証明書持って出るんだけど、今日はちょっと…。。」



 ちいこ先生はバツが悪いのか、顔を少し赤らめながら頬をプウッと膨らませた。

 焦っているのか、先生口調ではない喋り方に、口許がつい緩みそうになるのを引き締める。



 「いや、そうじゃなくて。

  ちいこ先生一応女の子なんだから…。公園とかはその…危ないし。」



 その言葉に、先生はキョトンと見上げてきた。

 そして、ニコッと笑って言った。



 「大倉くんに怒られちゃった! アハ! いつもと逆だね! 今後、気を付ける!

  さっきは助けてくれて、ありがとう。」




 再び歩き出したちいこ先生の横顔を見て、ふと思う。



 「あれ、ちいこ先生、今スッピン? なんか違うような…。」

 「もう!! 言わないでー!! そんなまじまじ見ないで!」



 持っていた缶で顔を隠すちいこ先生を見ながら、呟く。



 「ちいこ先生のスッピンいいと思うよ。」



 素直に思ったことを伝えただけなのに、それは本人には伝わらなかったらしい。

 もう、気にしてるのに! とブツブツひとり言を言っている。



 T字路に着いて、そこからは道が違うらしい。

 「送っていこうか?」と言ったけど、「生徒に送られる先生なんてカッコ悪すぎ!」って断られた。



 「じゃぁ、また明日、授業でね!」



 いつか聞いたことのあるような台詞で別れる。

 


 「あ、大倉くん!」



 呼ばれて振り返ると、この前とは違い、ちいこ先生がこちらを見ていた。



 「なんすか、先生?」



 先生は人差し指を唇につけ、言った。



 「今日のこと、ナイショにしてね!」



 そのままくるっと向きを変えて歩き出す。



 ――…あ、またあの香りだ…。



 あの甘い香りが鼻を掠めた。

 やっぱり思い出せないが、嫌な感じはない。


 馨は、暫くその姿を眺めていたがフッと笑って、家のある方向に足を向けて歩き出した。




 酔っ払うとあんな間の抜けたような鼻にかかった甘い声に感じになっちゃうんだ。


 スッピンだと、あんなにあどけない顔つきになっちゃうんだ。


 ちいこ先生にお願いされた警官とのひと悶着のことと一緒に、胸にこっそり仕舞い込んだ。



 雲に覆われていた空から月が少し顔を出して、光のが見えていた。


 久々に水中から顔を出したときのような爽快な気分だった。

こんばんは、コウです(*^^*)

更新遅くなってすみません。


ようやく!ようやく2人が絡んできましたー!嬉しい!

お待たせしました!!


紫陽花、今リアルに綺麗に咲き誇ってる時季ですね。

道を通っていても沢山多彩な紫陽花が咲いてて、心が洗われます。


さて。千香子ですが、普段はこんなことするタイプの子ではありません。

何故公園で晩酌してたのかは、また次回か次次回辺りに書ければいいなと思ってます。


それでは、また執筆頑張ります!



*・゜゜・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゜・*

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