3.ココロ、新緑の風に吹かれて
翌朝、なんだか教室に入りづらくて、廊下で別のクラスの友達を捕まえて他愛もないことを喋り、予鈴ギリギリに教室に滑り込んだ。
「馨、おっせーよ!!」
予想通り、教室に入ると昨日先に帰った2人に囲まれ、隅に連れて行かれた。
「昨日どうだったか話聞かせろよ。」
一応小声で聞いてくれる配慮はしてくれるらしい。
3人も昨日のことは「馨から直接聞いて。」と話していなかったらしい。
「そんなのアッサリ振られたに決まってるだろ。」と流したところで、タイミング良く担任の山田先生が入って来た。
これ幸いと席につこうと向きを変えたところで、後ろから2人の会話が耳に飛び込んできた。
「イケメン馨でもダメだったかー。。」
「やっぱりな〜! ちいこ先生に告ったヤツみんな振られてるって噂だもんな。」
想像もしていなかった返答に思わず振り返る。
「はっ!?」
「悪かったよ! 馨で試すようなことして!」
「…いや、そっちじゃなくて!」
「おーい、そこー! いい加減、席つけー!」
慌てて聞き直そうとしたが、タイミング良かったはずの山田先生が、今度はタイミングが悪い。
大きな声が教室に響いた。
肩からリュックを外しつつ、慌てて自分の席に戻った。
――…ちいこ先生、もう何度か告られてんの?
SHRの後すぐに1限のチャイムが鳴り、聞くタイミングを失った。
教科書と折り畳み式の踏み台、それから伸縮式指し棒の必須道具を手にしたちいこ先生が入ってくる。
最悪なことに、1限はちいこ先生の古文だった。
そして結果、余計にモヤモヤすることとなってしまった。
気のせいか、ちいこ先生が教壇の前まで来る途中、こっちを見た気がする。
目があったような気もするが、慌てて目を逸らしてしまってよく分からなかった。
今日は枕草子。
春はあけぼの…だ。
今まで、意識して考えたことなんてなかったけど。
黒板に書くちいこ先生の文字は綺麗だ。
文字を書くときもカッカッと軽快な音だし、チョークの粉の落ち方もハラハラと綺麗だ。
そして、先生に隠れることのない文字たちは、とても見えやすい。
黒板から振り向くときにふわっと広がる髪にほんの少しチョークの粉がつくことも知った。
ちいこ先生の声は高過ぎないけれど、よく響く。
声…と考えて、ちいこ先生の口元に目がいく。
小さくて、形の良い唇は教科書を朗読している。
途端、昨日のキスの想像がフラッシュバックする。
――しまった…!
顔が赤くなるのを感じて、慌てて机に突っ伏して熱心にノートを取るふりをする。
結局、春はあけぼののことなんてこれっぽっちも頭に入らず、1限はちいこ先生で費やしてしまっていた。
移動教室やら体育やらで、結局朝のことを聞けたのは昼休みだ。
馨と新、大和、陽介ら4人は、持ってきた弁当は既に午前中に消費済みのため、購買で買ってきたパンやおにぎりを各々頬張りながら、昨日のTV番組のことなど喋っていた。
開けた窓から初夏を思わせる爽やかな風が吹き込んでくる。
「そういえば朝の話、ちいこ先生って、そんな告られたりしてんの?」
「その話、有名だよな? 3組の谷口とか5組の上野や松井とかは聞いたことあるかな。」
「去年、ちいこ先生、教育実習で来てたの、覚えてない? うちのクラスは担当じゃなかったけど。
3組と5組で授業してたはずだよ。その時から、すごい人気だった。」
みんなの口から馨の知らない情報がポンポン出てくる。みんなよく知ってるなーと相槌を打ちながら、そのまま耳を傾ける。
「あとは、中等部1年の時ちいこ先生高等部3年だったけど、それは絶対知らないよね?
その時は髪がまだ長くて、可愛いって有名だったけど。
移動教室とかですれ違ったこと、何度かあるよ。」
「それになんたって、うちのガッコの先生でダントツ若いし、可愛い!!」
「先生っていう立場になって年の差だけじゃなくて、禁断っぽいのがまた燃えるんだよなー!」
ワイワイとある程度可愛い可愛い盛り上がったところで(正直、最後の陽介の台詞はいただけないが…)、唐突に新から爆弾が投下された。
「で、馨はちいこ先生興味出てきたの?」
「…は!?」
「だって、普段の馨だったらちいこ先生が何度か告白されてるって聞いても気にせず、ふーんって流して終わりだったはずだよ。
それが昼休みに持ち越してまで聞くなんて、今までの馨らしくないじゃん?」
「俺はいい兆候だと思うけど。」と続いた新の言葉に、思わず口に入れたサンドウィッチのパン屑が口からポロリとこぼれる。
「…んなことねえよ!」
「馨はやっぱり年上だったかー!!」
「タメや年下とか相手じゃ馨はダメだよなー!」
否定は完全に盛り上がる仲間たちの声でかき消された。
中学から高校1年の初めまでは告白されて女の子ともそれなりに付き合ったりしたが、あることをきっかけにして、女の子のあれやこれやの期待や要求、嫉妬や束縛が面倒になり、それからは付き合うということに関しては距離を置いてきた。
好きな音楽や番組の話や漫画の話まで、盛り上がるなら誰と話をしても何も言われないし、宿題やってる輪にちゃっかり混ぜて貰ったりもできる。
女の子は「友達」という位置づけが、一番楽だった。
中学から一緒の悪友だ。馨のことをよく知っている。
「馨、気になる?」
揶揄かうような雰囲気は静まり、優しい視線が馨を包む。
その空気を感じ、少し素直に心を覗く。
「…うーん、気になる…といえば気になる。
でも、好きか…て言われるとそれは無いと思う。」
正直な気持ちだ。
ただ、罰ゲームで告白した。
そして、もちろん振られた。
うまくいったとしても、逆に困ったことになっていたはずだ。
「罰ゲームだったけど、初めて告白した相手だもんね。」
大和の声がふわりと響いた。
――…そうか、俺、初めて自分から告白したんだ。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
みな一斉に昼食後のけだるさを振り払うように、うーんと伸びをして席に戻っていった。
窓の外では花の時期が終わったアカシアが、青々とした葉を風に揺らしていた。
こんばんは☆コウです。
今回も馨と千香子の絡みが無くてスミマセン!!
次話からしっかり絡んできますので、あと少し!あと少しだけお待ちを~~!!
馨くんの性格が少し出てきました。
女子は友達としては楽しいけど、付き合うのは面倒臭い。ってタイプです。
遊び尽くした…というタイプではないです。
過去はいつか出すと思いますが、真面目なのです。
そして、中高一貫校なのでそんな馨くんのことをずっと見てきてる3人は、あったかく見守りつつ、心配してるんですねー。
次話は楽しい展開になると思いますので、お楽しみに~♪
それでは!
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