The tomorrow's reason to live
まとまり無い話ですが。
あ、題訳は「明日の生きる理由」です。日本語的にもちょっとおかしいのです……。
辞書を使ってみたものの文法合ってるんだか……。
という自信0%の作品です。
また携帯が震えた。表示された名前は「薫」。私はいつもみたいにメールを確認する。
『今日宿題多いよー』
本文をさらっと読むとすぐにキーをたたく。
『そっかぁ。がむばってね!』
『うん。まゆゆは今日は暇なの?』
『暇人ちゃんだよーん』
あっという間に受信ボックスには、十件ものメールがたまる。差出人の名前に薫の名前が並ぶ。こんなにメールを送り合う仲だけれど、私は薫の顔を知らない。知っているのは本名と住んでいる場所だけだ。知り合った場所がチャットルームだったから、危ないと思ったこともあった。
それでも今まで関係を築いてきた理由。それはあしたを教えてくれたのが薫だったから。あのとき、どん底にいた私に気づいてくれたのは薫だけだったから。
薫を知らなかったら、あしたを知らなかったら私は今、ここにはいなかった。
***
もはや私の周りにいるのは敵だけだった。信じられる人はもういない。視界はずっと霧で見えないまま。
クルシイ。
けれど、この気持ちを分かってくれる人はいなくて。そしてこんな私に気づいてくれる人もいなくて。ずっと暗闇で立ち止まったままだった。
周りは敵だけれど、優しく笑いかけられるたびに、本当は敵じゃないかもしれないと思っていた。何度も笑顔にだまされて、弄ばれて、馬鹿にされているのに。
信じることはもうやめようと思った。そう思っているときに、また笑いかけられ……。ループは切れない。ぐるぐる繰り返して、精神だけがおかしくなっていく。
クルシイ。
誰か分かってよ。ブログに書き殴っても、気持ちは晴れるどころか、ますます重くなる。
誰かに話そうとはもう思わなかった。だって手を振り払われたら? 一人になるくらいなら今のままの方がいい。
ため息をついて、足下を見てはまた、ため息をついて。下ばかり向いているから首が痛い。頭も絶えず痛いから、頭痛薬は手放せない。
自分を見失って、本当の笑顔も忘れ、もうぼろぼろだった。まるで麻薬をしているみたいに。
今日を生きるのに必死で、明日の存在すら頭に無かった。
薫と出会ったのは、明日ビルから飛ぼうと決めていたときの前日だった。もう限界。これで楽になれると、ほっとしていた。
偶然付けっぱなしだったパソコン画面に、チャットルームが開かれていた。いつもは満室のチャットルームがなぜか空室だった。誰かと話そうとは思わなかったけど、気がついたら「まゆゆ」と適当に考えた名前で入室していた。
『携帯のアドレス教えてよ』
薫は無邪気にそういった(本当に無邪気に言ったかは知らない。でもそのとき私には本当に無邪気そうに見えたのだ)。
『いいよ』
別に薫がそのアドレスをネット上に流そうと、一気に見知らぬ誰かへ転送しようと、もう関係ない。だって明日には私はもういないのだから。
学校が終わって鞄をおくと、近くのビルに向かってゆっくりと歩いた。舞い落ちる枯れ葉。それを追いかけるように、子供達が走り抜けていく。向こう側の道路では老夫婦が笑いながら歩いている。
誰も知らないんだろうな。これから私が自殺するって。そう思うと少し胸が痛んだ。何かメッセージを残してきた方がよかった? けれど残してきたところで何の意味になるだろうか。自殺の理由を今更知ったところで、私がいなければ意味がない。
曇り空の下にひょろりと建ついつものビルは、なんだか小さく見えた。昔はせんべいを作る工場だったらしい。三年前につぶれ、今もそのままだ。
屋上へと続く扉にかかっている鍵は簡単に開いた。ぼろり、とさびがくずれる。
あともう少しで、この閉塞した世界から抜け出せる。やっと自由になれる。かどうかは分からないけど、きっと今より悪いなんてことはないだろう。大丈夫。私は自由になってみせる。
風がいっそう強くなったように感じた。冷たくまとわりついてくる。
震える足で立ち、地面を見下ろす。
「あ……」
地面ははるか遠く。いつも見ていたせかせかした蟻も、小さな草花も今は見えない。
――ピリリリリリ。
「ひっ」
突然ポケットの携帯が震える。私はビルの端から少し離れると電話に出た。
「はい……」
「あ、まゆゆ?」
薫だった。携帯番号、教えたんだっけ? もうそれさえも覚えがない。
「うん……」
「何、その沈んだ声。まさか自殺しようとしてるとか?」
「……!」
危なく携帯を落とすところだった。
「……そっか。やっぱりか」
「え? やっぱりって?」
そういうと、薫はあわてて言った。
「あ、いや。なんでもない。まゆゆ、今どこにいるの?」
携帯を握っている指先が冷えていく。私はその場にぺたんと座り込んだ。
上を見上げると灰色が一面に広がっていた。太陽がどこにいるかすら分からない。太陽は悲しくないのかな。誰も自分のことを見ていなくて。探してと思わないのかな。
「ビルの屋上」
「じゃあ本気なんだね、自殺」
「私はいつだって本気よ!」
思わず大声で言ってしまった。そう、いつだって。嘘なんか言ったこと無かった。
「だって……嘘ついたらみんな離れていっちゃう」
涙が頬を伝う。もう気持ちがぐちゃぐちゃだ。数分前まで絶対この世界からいなくなるって決めていたのに。
薫は黙ったままだった。
「だけどみんな嘘ついてばっかで……。友達だよなんて言っておきながら……みんな次の日には違うんだもん」
一気に気持ちがあふれる。
寂しい。苦しい。そばにいてほしいのに。笑いかけてほしいのに。
開いた口はもう閉じようとはしなかった。
「この世界に私の居場所なんか無い。私がいたら邪魔だもん」
「いい加減にしなよ!」
激しい薫の口調に私はびくっとした。涙だけが変わらずあふれていた。
「この世界にまゆゆの居場所がなかったら、今頃まゆゆはここにいないから。まゆゆは望まれてここにいるんだよ」
「嘘っ!」
私は耳をふさぐ。
「だって聞こえる。邪魔だって。生まれてこなきゃよかったって」
聞こえる。何であんたはここにいるの。
見える。邪魔。早くどっか行ってよ。
その言葉が、その視線が怖い。でも目をつぶり、耳をふさいだら、なにも残らない。無音で真っ暗な闇の中。自分の存在すら消えてしまいそうだ。
しばらく私たちはそのまま黙り込んでいた。私の泣き声だけがあたりに響いていた。
泣き疲れてゆっくりと目を開ける。目の周りが熱くほてっていた。ひりひりと痛い。
「まゆゆ?」
「うん?」
かすれた声で返事をする。薫の声は元通りの落ちついた声だった。
「まゆゆに生きる理由作ってあげるよ」
生きる、理由……?
「え……?」
「毎日私にメール送ること。いいね? それが終わるまで死んだら許さないから」
「それって一生死ぬなってことじゃん」
思わず笑ってしまった。
「そうだよ。一生私とつながってなきゃ」
最後の涙が頬を流れていった――。
***
あれから半年。私は言いつけ通りメールを送っている。なんてことのない話題も、薫は興味津々に聞いてくれた。
私は生きてる。毎日薫にメールを送るために。あしたも生きる。あさってもしあさっても。
くだらない理由。けれど生きていくための理由を、薫は見つけてくれた。
そしてまた携帯が震えた。私はまたいつもみたいにメールを確認する――。
詳しくは活動報告で。
だらだら喋ってます。