表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

一人ぼっちの戦いが始まるよう

赤いきつねと緑のたぬきと……碧いうさぎ?

<愉快な拷問の歌>

 作詞:回収屋

 作曲:ポチ


1.知ってるコトを全て吐け 一言一句漏らさずに 言いたくないなら構わんよ

怖いオジサンやって来て 大きなオモチャで遊んでくれる 君の意識は愉快に溶けて 生まれて初めて出す声に 親兄弟は号泣さッ

I can fly~~ I can fly~~ ますます頬を赤らめて♪

I can fly~~ I can fly~~ 低温ローソクまとめ買い♪


2.我慢なんかしなくていいよ 感じるままを受け止めちまえ そこで見つけた自分の限界  でも、でも、でも、世界は君に期待してるよ まだまだイケる 開発しまくれ 放送コードをブッ飛ばせ 性欲に負けた? いいや、理性に勝ったのさッ

No  we  can't~~ No  we  can't~~  正体不明の汁垂らし♪

No  we  can't~~ No  we  can't~~ 三角木馬が今日も鳴く・うッ♪


「もう、らめええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~★」

 辺りに響く浜松の嬌声。

「よくもまあ、コケにしてくれたなあ」

 弥富はそれはもう憤慨気味で、三角木馬に跨った浜松のケツを、ムチでシバいている。

「さ、さっちん……ちょっとええかなァ?」

 あまりの覚醒っぷりに出雲は声がかけにくい。

「ああんッ? 何だよソノ格好は? 全身ピッチピチにしやがって。魔女っ娘だあ? 外見的年齢を考えろよ」

 ペシペシペシッ!

「はひィィィィィ★」

 血走った目で罵倒され、肉づきの良いケツを折檻された。

「や、弥富さん……こんなコトしている場合では――」

 仲裁専門の郡山が割って入るが、今回ばかりは彼自身の姿にまず問題が。

「おいおい、勘違いしまくった男の娘かあ? アイドル面は何やっても許されると思ってんのかあ? 鏡をしっかり見ろ。スネ毛はしっかり剃れ」

 ペシペシペシッ!

「はうぅぅぅぅぅ★」

 同様にケツを折檻。あっという間に涙目だ。

「御主人よ、儂……」

「却下だ」

 土佐は一蹴された。目出し帽を装着した不審な高齢者に対し、特にコメントは無い。

「ふううううう~~……」

 一通りツッコミを終えた弥富は大きく溜息をつき、ドカッと腰を下ろした。四つん這いになった浜松の背中に。

「あふぅ~~★」

 口から漏れるピンクな声。既に魔女っ娘じゃなくてマゾっ娘だ。

「オマエ、本当に『深見素赤』なのか?」

 弥富は一気に核心を突く質問をした。


「うっしゃああああああああああああああああああああああッッッ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?」


 肉ベンチ浜松が勢い良く立ち上がる。座っていた弥富は無様に地面を転がって、三角木馬の角に後頭部をゴリッとぶつけた。ゴリッと。

「ここまで追求されては仕方ないわッ! このあたし『浜松』こそが、『深見素赤』の進化した姿なのよッ! アハハハハハッ!」

「おォォォいでえ~~(痛) おォォォいでえ~~(泣)」

 踏ん反り返って高笑いする浜松をよそに、弥富は地味に痛くて聞いちゃあいねえ。

「いえ、単純に考えてソレはあり得ませんね」

 郡山が冷静沈着な目つきで浜松を凝視する。ミニスカからのぞくトランクスが、間抜けでどうしようもないけど。

「あたしの言う事が信じられない?」

「はい、無理です」

 そりゃそうだ――そんなカンジで他の禁魚達もいっしょに頷く。

「そもそも、どうやって人類が魚類に? 質量保存の法則を完全に無視した、特撮のヒーローじゃあるまいし。科学的に考えてオカシイでしょ?」

 もっともだ。他の禁魚達はまた頷く。

「おーけー、おーけー。なら、アンタ達の疑問を解消すべく、当初の予定をすぐ実行に移そうじゃない」

 そう言って彼女は弥富に歩み寄り、魔法のステッキをブン回す。

 ――ゴンッ

 鈍い音がした。次の瞬間、弥富の意識は魔法の力(物理)によってフェードアウトした。


「――――マジで?」

 しばらくした後、意識が戻った弥富は、そびえ立つ高層ビルを仰ぎ見ていた。アキバの街で一番の規模を誇る、大手ソフトメーカー『享輪コーポレーション』の本社ビルだ。正直なところ、就職活動すらしたことのない彼にとって、プロの社会人が行き来する建物に入るのは、初めて野グソをするくらい勇気がいる。毅然とした表情で、大きな自動ドアの前に立ってみた。左右に立つ二人の警備員は声をかけてくる様子もなく、すんなりと中に入れた。よし、幸先が良いぞ。このまま首尾良く――


 ガコオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――――ッッッン!


 入った先の玄関ホールで大きな音がした。やがて、来客者等の喧騒が聞こえ、バタバタと沢山の靴音が響いてくる。

(な、何事だよ……!?)

 一瞬、不吉な静けさが時間を止めた。

「皆さん、御静かにッ! その場から動かずにッ!」

 スーツ姿の中年男性が玄関ホールの中央に立ち、大きな声を張りながら、中二階への階段を上っていく。更に、軍服を着た連中が大勢後に続き、玄関ホールを占拠するように展開する。

「たった今、このビルは封鎖されましたッ! 建物内の全員の出入りを禁じますッ!」

 中年男性が中二階から拡声器で警告した。

(なんですとォォォォォッ!?)

 緊急事態だ。ビルの外周に軍人達が手際良くバリケードをはり、全ての出入り口に見張りが立った。

「コレは何事ですかッ!?」

 エレベーターが降りてきて、役員らしきオバサンが姿を現す。玄関ホールで立ち往生する来客者も同様で、各々が不安の声を上げる。

「皆さん、どうか御静粛に。我々は『電薬管理局』の者です」

 ――父よ母よ、実家で飼ってるオウムよ。トラブル発生です。現状、最も出会ってはいけない連中と、ダイナミックに遭遇してしまいました。追伸――あまり電話できなくてゴメンナサイ。アナタ達の息子は、そろそろ手錠の冷たさを知りそうです。

「ガンバレヨ、ロクデナシ」

 オウムの声が聞こえた。そんな気がした……。

(撤収ッ!)

 弥富は心の中で勇ましく自分に命令を下し、コソコソと隅の男性用トイレへと逃げる。

 バタンッ!

 またもやトイレの個室に引きこもる。そして、クソ重いビニール袋を足元に置き、インカムを装着した。

「おい……大問題発生だ」

 便器のフタに腰掛けて、脱力したみたいに俯いて呟く。彼を中心にまたしても始まる禁魚のトイレ会議。

「それにしても、タイミングが悪過ぎですね」

「〝偶然〟とはさすがに言い切れんのう。浜松よ、お主が深見素赤であると言い張る根拠、本当にこのビル内で証明できるのだな?」

「ええ、もちろん。目指すは地下のメインサーバー室。いざ、突貫ッ!」


 あはははははぁぁぁぁぁぁ~~、そりゃムリだあああああぁぁぁぁぁぁ~~☆


 あまりに高いハードルを課せられ、弥富はもうなんか笑うしかない。

(どうする気なんだ、アノ連中……?)

 トイレの入り口の隙間から、コソコソとのぞいてみる。

「ここに『深見素赤』という社員が勤務しているハズですッ! 今すぐ呼んでくださいッ!」

「うぅおォえええええええェェェェェェェェェッ!」

 浜松が盛大に吐いた。胃袋がビックリし過ぎて、ウッーウッーウマウマって踊ってる。

「おい、呼んでるぞ……オマエの事じゃねえの?」

 学校の友達を人身御供として先生に突き出すような、冷酷な声で弥富が言う。

「そうみたいですねえ」

「せやなァ」

「ふ~~む」

 完全に他人をきめこむ他の禁魚達。

「う~~わ~~、化学の力でポチの意識は朦朧だ~~」

 後ろの方では、トイレ用洗剤を使った毒ガス兵器が製造されとるし。

「なあ、おい。こういうの予測してたんじゃねえの? なあ、おい」

 ぐいぐいぐいッ、ぐいぐいぐいッ……

 弥富、暴走。浜松の首根っこをマジ気味で絞め上げる。

「や、やめて。大声出すわよ。更には訴えて勝つわよ」

 ガンジーも思わず暴力を解禁しそうな、イラっとする面だ。

(俺はどうすりゃいいんだ?)

 人にはそれぞれ得手不得手というのがあってね、今のこの状況をどうやって打破しろと? 税金で生活している怖い人達が沢山いるよ。使われたら命が「おふッ」って言いそうな武器持ってるよ。え? 俺の装備? 使えねえ魚類が四匹と、ラップトップが一台。あとは豆腐にぶつかっても割れそうなハートぐらいだ。

「ぜ~~んぜん関係ないもん。あたし何も知らないもん。あ、掃除用具入れに段ボールがあった。かぶってみよう。わあッ、桃源郷が見えるゥ!」

 主犯が現実逃避を始めた。

「……相当ヤバイってことか」

 浜松の崩壊っぷりから不安のみが募る。

「ええ、そうよ。当局の人間と接触するリスクは覚悟してた。ここは数ある取引先の一つだし……けど、どうしてッ!? あたしの勤務先を突き止めるのは簡単だけど、連中が兵隊率いてやって来たってコトは、あたしの生存がバレてるってワケッ!?」

 浜松は悔しそうに歯を噛み鳴らし、ポチが作製した、メイド・イン・御家庭な毒ガス兵器を握りしめた。

「おお~~、ついに特攻か。ポチは止めない。さあ、未来への懸け橋になってこい、このビッチめ」

 と言っても所詮はアバター。ネットを介してない者には何もできない。

「名簿を検索しましたが、その社員はつい最近亡くなっています」

 電薬管理局を名乗る中年男性に対し、役員がフロントの端末を操作しながら回答した。

「常務、本件は警察機関の了承を得て実施されています。どのような事実があるにしろ、我々は捜査の手順に従い行動させていただきます」

 中年男性は役員の身分証を確認し、厳然とした態度で言い切った。

「分かりました。ところで、名刺か何かお持ちでしょうか?」

「私は電薬管理局・実動課の『宇野(うの)』と申します」

 そう言って男は自分のIDを見せた。

「『実動課』? と、申しますと?」

「ネット犯罪者や、サイバーテロリストを専門に逮捕する部署です」

 『宇野』と名乗る男はそう言って、後ろに控える軍人達に向き直る。

「これよりビル内の一斉捜索を行う。各自、所定の持ち場へ移動し警戒を怠るな」

 ザッ!

 命令を受けて部隊が素早く散開する。来客者達はどうすればいいのか分らず、ただ圧倒されるばかりだ。

「さて、常務。私はここのサーバー室に用があるんですが」

 宇野は何か含みのある表情で言う。

「申し訳ありませんが、アソコは部外者の立ち入りを禁止されています」

「先程も申した通り、我々は警察機関の了承を得ております。異議申し立てなら裁判所にお願いします」

 常務の前に捜索令状が差し出された。

「……分りました。では、こちらへ」

 マズイ。極めてマズイ状況だ。弥富一行と行き先がかぶったという事は、連中も浜松と同様の目的があると推測される。

「よし、御主人よ。今こそ段ボール箱の出番じゃ」

「はい?」

「頭からかぶって姿を隠すんじゃよ」

「……マジで?」

 浜松がかぶってた段ボール箱(愛媛みかん)が手渡される。

「すねえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッッッく!」

 プチ毒ガス兵器を握りしめ、ポチが意味不明な雄叫びを上げる。

「まさか、この小道具でサーバー室に潜入しろって?」

 弥富が恐る恐る浜松の表情をうかがう。

「あたしは非常識検定5段の持ち主よ」

 コイツってば本気だよ。瞳の中に「死んでこい」って書いてあるよ。

(こうなりゃヤケだ……事件に巻き込まれた被害者の底力、見せてやるッ!)

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ