生活力の高いニートが更なる少子化を促進するよう
この世で最もムダな時間=エロ同人の後書きを読む事
チュンチュン、チュンチュン──
外から聞こえる早朝を告げし生物の鳴き声。つまり、スズメの群れが「朝だ。起きろよバカヤロー」って言っているのだ。深夜に発生した救出劇があっけなく失敗に終わり、津軽さんは拘束されてしまう。ちょっぴり暴れて眠くなったしるくは、弟の部屋で寝てしまった。監禁部屋には、鎖と手錠でデコレーションされた津軽さん(下着姿)と、上半身裸のまま(しるくに上着とられた)で、床に雑魚寝している俺の二人。空気は微妙。画的にはなんか……とっても珍しいプレイに興じるカップルみたいだ。
「弥富殿、御目覚めですか?」
「……え、ええ……はい」
眠れたといっても4、5時間程度。しかも床の上。部屋にベッドはあるが、普段はしるくがその身を委ねているベッド。本人の許可無しにベッド☆インするのは、良識がとりあえず残っている者として、いかがなものか。そう思い遠慮した。現役JKの体臭に抱かれて睡眠……喉から手と同時に、足まで出ちゃうくらいのプレミア。だが待てッ、俺の中の妖精さん。その最後のスイッチを押したら、きっと俺は引き返せなくなる。正常な社会人にはなれなかったが、正常な人間を諦めるつもりはないんだッ!
妖精さん「だが断る」
――ポチッ
何の躊躇いもなくスイッチ・オン。
「さらばだ、今までの俺ッ! ようこそ、新しい俺ッ!」
意味不明な言葉を叫びながら、しるくのベッドめがけて突入。
「……弥富殿?」
突然の奇行に津軽は目が点だ。
「見ないで津軽さん。旧弥富は死に、新弥富が就任の儀式を執り行っているんです。分かってくれとは言いません。せめて、母の真心的な目で見逃してください」
全くもってワケの分からんコトを言いながら、他人様のベッドの中で身をよじらせてる。質感を楽しんだり、残り香を嗅いだりで大忙し。そんな変態を他所に津軽は考えていた。
(とりあえず、作戦の第一段階は成功しましたわね)
彼女が口元をニヤッと小さく歪める。そう……現状の津軽の状態は、彼女が望む理想の展開だったのだ。颯爽と侵入したのに、あっけなく返り討ちにされたのには理由があった。相手に悟られないよう、わざと捕まってみせたのだ。
(所詮は平和ボケした学生風情。簡単な演技に引っかかってくれましたわ)
一手先を読んでの行動。Mr.キャリコの逮捕には成功したが、彼を裏からバックアップしていたスポンサーの情報は、皆無。そこで、弥富の拉致を利用する手を思いついた。一介の学生などに、スポンサーとしての財力やネットワークがあるハズもない。何者かに雇われ、弥富を拉致したと考えるのが自然。家に監禁してあるのは、雇い主に引き渡すまでの中継地点としてだろう。
「弥富殿、ここに監禁されてから、何か新しい情報は得ましたか? 今後の展開で有利に働く情報があれば、どんな小さな事でも──って、聞いてらっしゃいます?」
「ああ~~、ヤベぇ~~、マジで良い匂いするぅ★」
ついに心のストッパーが決壊し、タマっていた色んなモノがあふれ出たらしい。今の彼の様子は、オマワリさんが無線で応援を呼びかねないレベルだ。
ガチャ──
ドアの鍵が開く。
「うぅぅぅ~~、ねむぅ~~……」
明らかな寝不足フェイスで、しるくが入って来た。で、最初に視界に飛び込んできたのは、弥富の迷惑防止条例違反の光景。
「ちょッ、何やってんのよッ! このセクハラ生命体ッ!」
ベッドでクネクネして悶える変質者に対し、彼女は躊躇無く跳び膝蹴りをブチ込む。
「おふッ!? ……って、俺は一体何を?」
我に返る一匹の童貞。生還オメデトウ。
「朝一でとてつもなくキモい物見せないでよね。ほらッ、アンタは一階のキッチンに来て」
「あ、ああ……分かった」
腕を引っ張られて部屋を出る弥富。ドアを閉めようとするしるくが、津軽にチラッと一瞥をくれる。
「アンタは大人しく転がっててよね」
ドアが閉まる。部屋に残された津軽はチッと軽く舌打ちをし、窓から差し込む朝日をボンヤリと眺めるのだった。
「じゃあ、買いに行くよ。一緒に来て」
「買いに行く……って、何をだ?」
キッチンに連行された弥富に、冷蔵庫の中身を見せてやる。
「コレがこの家における食料自給率」
「見事に何もねえな」
中身はチューブのワサビと脱臭剤だけ。盗難にあった直後みたいだ。
「朝ゴハン作ってくれるって言ったよね? まずは買い出しに行くのであ~~る」
昨日の口約束を思い出した。
「いいのか? 家を空けてる間に、津軽さんが逃げるかもしれないぞ」
二人は玄関で靴をはいて外に出た。
「ああ、その心配は無いんじゃない。あっちはわざと捕まったみたいだし」
「え?」
家の前の歩道に出た弥富が足を止める。
「ナメんじゃないわよ。学校の中間考査ならいざ知らず、裏仕事の一環で、状況を読み違えた事なんて無いんだからね」
そう言ってスーパーのある方向に歩き出す。
「わざとって……どうして分かるんだよ?」
「あのオバサンの実力はアキバの街で把握済み。部屋の中で暴れた時、オバサンの微妙な動きの調整ですぐに気づいたっての」
「だとしても、何でわざと捕まったりしたんだよ?」
「そんな事までは知らな~~い。公務員の道楽か何かでしょ」
どうやら肝心な所は予測できていなかった。
「お、重い……まさか米の備蓄まで無かったとは」
片手に10㎏タイプの米袋を抱え、もう片方には適当に食材を詰めまくった袋。いくら家から近い店で買ったとはいえ、ニートの体力と筋力でカバーしきれる量ではない。
「ガンバレ、ガンバレ、ロクデナシ♪ タダ飯食いたきゃ汗水流せぇ~~♪」
隣でしるくが愉快そうに笑っている。
「ど、どっちか持ってくれ……腕のとっても大事なパーツが、分解しそう(汗)」
「や~~だ~~よォ。男連れて歩いてんのに、荷物持ってんのってカッコ悪いもん」
ダメだ。コイツは真性のS女だ。
「朱文、帰ったよ。もう起きたァ?」
家に着くなり、しるくは二階への階段を上りながら弟を呼ぶ。が、彼女が目にしたのは、眠たそうな弟の姿ではなく、解錠されて半開きになった自分の部屋のドア。
「────ッ、まさかッ!?」
顔色が一変して部屋に跳び込む。案の定、津軽の姿が無い。
(しくじったッ! けど、どうやってッ!? 外から鍵をかけたのに……)
無理矢理こじ開けた痕跡は見られない。方法は不明だが、巧みに解錠したようだ。
「朱文ッ!?」
彼女の背を悪寒がはしる。津軽は朱文を人質にし、交渉を迫ってきた。もしかすると、彼を人質として捕らえる機会を見計らうため、わざと捕まったのかッ!?
バンッ──!
弟の部屋に勢い良く突入。そこで目にしたのは、スヤスヤと眠っている朱文の姿。
「ふうぅぅぅぅぅ~~……セ~~フ」
額に滲む汗をぬぐいつつ深呼吸する。が、津軽には逃げられた。これは決定的にマズイ。わざと捕まったとばかり考えていたのだが、迂闊だった。彼女は実動課の応援を引き連れ、舞い戻って来るだろう。
(くっそッ! どうすりゃいいってのよ…………ん?)
思案するしるくの視界に映る〝不自然な光景〟。寝ている朱文の掛け布団が、明らかに不自然な盛り上がりを形作っている。
「……………………(汗)」
無言で掛け布団を引っぺがす。
「うぅ~~ん、朱文殿ォ♪ とても良い香りですわァ★」
津軽、夜這いならぬ朝這いを実行中。眠る朱文の首に片腕を回し、抱きしめるように添い寝しとる。
「助けて児童相談所ォォォォォォォォォォォォッ!」
長洲家の一日がまたしても始まる。
「はぁ~~い、本日も蒸し暑く気だるい朝がやってきました。手際の良い仕事は無理なんで、『約30分クッキング』の始まりでぇ~~っす」
「…………」
エプロン姿のしるくの横で、おさんどんの格好をさせられた弥富が立ってる。しかも、微妙に似合っている。キッチンのテーブルに並べられた食材の数々。裏仕事の儲けがいいのか、弥富の財政ではカバーできない上質な物ばかりだ。
「いやぁ~~、さすがにこれだけ買いそろえると、壮観ですね。先生」
「うん、そうだな。スーパーのレジのオバサン、早朝から意味不明な大人買いすんじゃねえって面だったよ……って、先生とか呼ぶな」
「それでは先生、まずは米を炊いてみたりしたいんですが」
そう言って、カナリ多機能な炊飯器を指差す。難解な数学の問題に恐れをなす学生の顔だ。
「はいはい、それではまず米をしっかりと研ぐぞ」
ジャッジャッ、ジャッジャッ――
「研ぎ過ぎると旨みの成分まで流れ出ちまうから、注意だ」
「研いだ米をお釜に投入しま~~す」
「水道水は使わずに、買ってきた天然水を入れる。このまま30分くらい水に浸けた後に炊くのが良いが、今回は時間が無いのでスイッチ・ポン」
「さっすがは先生ッ! 炊飯なんて危険行為を、容易くクリアしちゃいましたねッ!」
爆弾処理かよ。
「炊いている間に、卵を焼いたりかまぼこを切ったり。オマエは人数分の皿でも並べてて」
「承知しました。ところで、〝コレ〟はどう料理するんでしょうか?」
指差した先には、荒縄で縛られ床に転がる津軽の姿が。
「……このままそっとしてあげなさい。それが大人の優しさというもんだ」
「無情ですわぁ~~」
本懐をとげられなかった乙女の顔で、とっても残念そう。
「オ姉チャン、オハヨウ……あれ? 朝御飯作ってるの?」
朱文が眠たい目をこすりながら、慣れない生活音に反応する。
「そうそう、そうなのよ。偉大なる料理担当者の登場により、長洲家の朝は充実の一途をたどってるワケよ」
どんな誇大広告だよ。
ズリズリズ~~リ、ズリズリズ~~リ……
「あふぅ~~ん、眠たそうな朱文殿の御顔もまたキュートですわぁ★」
尺取り虫のごとく津軽が接近。
「えッ? 何? この声って……足元の方から聞こえてくるんだけどッ!?」
全盲の彼にとって、フローリングを這ってくる奇妙な音は恐怖だ。
「ふんッ!」
ゲシッ!
「うぐぅぅぅぅぅぅ……」
ゴキブリを駆除する瞬間の主婦みたいに、しるくが背中を踏みつけて進行を阻止。やがて時間は過ぎ、テーブルに朝食一式が並ぶ。
「まあ、何ということでしょう。先生、見事な自炊能力です。この調子で家中の掃除と洗濯もお願いしまぁ~~す」
「ああ、別にいいけど…………って、何だよ?」
弥富の返事が予想外だったのか、しるくが小さくビックリした表情で固まっていた。
「え、あ……悪ノリして冗談言ったつもりだったんだけど、マジレスされちゃったから……アハハハハッ(汗)」
「気にすんな。誘拐された身だけどよ、他人様の家にタダで寝泊まりして、タダ飯食わせてもらってんだし。最低限のコトはしてやるよ」
「むッ、もしかして……そうやってアタシの心証を良くし、逃がしてもらおうって腹じゃないでしょうね?」
食卓に着いて食べ始める三人。津軽はテーブルの真下でもがいてる。
「そこまで器用ならニートなんかになってねーよ」
カマボコに醤油をたらしながら呟いた。
「ふ~~ん。じゃあさあ、もし……もしものハナシなんだけどさ。万が一、アタシの雇い主に引き渡す必要がなくなったりしたらさ、頼み事聞いてくれる?」
「どんな?」
「うちの専属家政夫として雇われてよ」
「何だそりゃ?」
鼻で軽く笑ってしまった。
「別にいいじゃ~~ん。バイトもしてないし、将来の展望とかも特になさそうだし。このまま惰性で一人暮らししててもさ、社会の害悪にしかならないよ。だ か ら……ね?」
そう答えるしるくの顔は笑顔だが、言ってる内容は失礼極まりなしだ。
「オマエなあ、俺の生きる気力を削ぎたいの?」
自嘲気味の面持ちで味噌汁をすする。
「気にしないでください。オ姉チャン、ちょっと寂しがってるだけですから」
味付け海苔で御飯を巻きながら朱文が呟いた。
「ちょ……朱文ッ! 変なコト言わないでよッ!」
「だって、父さんも母さんもまだ戻ってきてくれないし」
「戻ってくるワケないじゃない。何も言わずに子供を残して蒸発するなんて……理由はどうあれ、そんな親なんかいらない。朱文、アナタはアタシが責任をもって育てるし、その目も必ず治してあげる。約束よ」
「オ姉チャン……」
空気がとってもシリアスで重い。
「朱文殿の事なら、わたくしが力になりますわ。良い医者を紹介致しますし、身の回りの世話もそれはもうかいがいしく――」
「変態はお黙りッ!」
ゲシッ!
「はぐぅぅぅぅぅぅ……」
テーブル下の住人が蹴られた。